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第157話 十六階でトロールと遭遇戦

 トントントンと石造りの階段を下りて行く。


 ついに目的地の十六階だ。

 目指すムカデ部屋は東側にあるので、南側の階段安全地帯からは北上してから右に曲がる感じだ。

 隊列を交換、『Dリンクス』が前に出る。

 チアキがカウボーイハットをかぶり直し足音を潜めて先行する。


 ん、前方に何か居るな。

 隣の鏡子ねえさんも目をすがめている。

 ちょっとしてチアキも気が付いた。

 【盗賊技術】スキルは盗賊が行う行動全てを底上げしてくれる。

 【気配察知】等も、0.5レベルぐらいの精度で使える感じだ。

 なお、個別スキルが生えると加算される感じだな。


 ゆるりと迷宮の奥で気配が揺れる。


「トロール一、ヘルハウンド二」


 チアキが小声で言った。

 トロールはこの階から出るのか。

 オーガー並の巨人でぶよぶよして再生能力がある難敵だ。

 ヘルハウンドは犬系の中位モンスターだ。

 真っ黒で炎を吐く。


 チアキが後退、俺と鏡子ねえさんが前に出る。

 ジャラーンとみのりがリュートをかき鳴らし始めた。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」

「ねえさんっ、ヘルハウンドを先に」

「了解だっ!」


 ぐらぐらする視界の中、鏡子ねえさんが魔物の群れに飛びこんだ。

 よし、トロールにも、ヘルハウンドにも【ぐるぐるの歌】が効いている。

 俺も重心を上げて駆け出す。

 回転盤の上に立っているようにぐらつくが補正しながら走る。

 だいぶぐるぐるにも慣れて来た。


 ダキューン!


 チアキの銃撃がトロールの大きい頭に当たった。

 が、効いてないようだ。

 銃弾の穴は煙を出しながら治っていく。

 怒ったトロールが木の棍棒を振り上げるが、転んだ。

 敏捷性は低いようだ。


『タカシも【ぐるぐるの歌】の下で動けるようになったっ』

『タカシは斥候系軽戦士っぽいからな、敏捷性が良い』

『チアキちゃんの魔銃と相性悪いな、トロール』

『あ、そうか、『暁』の退魔でダメージを稼ぐつもりじゃな、おもしろい』


 余さんの言うとおり、『暁』の表権能は[焼却]だから自己再生が阻害されると予想している。


 ぐらぐらする地面を蹴って倒れたトロールの肩に切りつける。


 ザシュッ!!


「ぐぎゃぎゃがあああっ」


 トロールは悲鳴をあげて跳ね起き、そして後ろに転んだ。

 よし!


 ねえさんは流れるようにヘルハウンドの火炎ブレスを避けて仕留めて行く。

 ヘルハウンドも【ぐるぐるの歌】の影響化で動きが鈍い。

 四つ足だから転びはしないが、ねえさんに噛みつこうとして明後日の方向に頭を突き出したりしている。


「後方よりヴァーチャー二っす!!」


 いかん、バックアタックか。


『ヴァーチャーか、飛んでる鳥人間だから倒しにくいんだっ』

『高田トマホークで打ち落とせっ! あっ、転んでる~~!!』

『まずい、ぐるぐるの副作用』


 キャアキャア言いながらヴァーチャーが二匹が後方から現れ、そして地面にどすんと落下した。


『あ、飛んでる奴にも効くのね、【ぐるぐるの歌】』

『あ、キスミーが中腰で一匹倒した』


 ばらららと曲調が変わった。

 俺はポケットからハイパーミント飴を出して急いで口に入れた。


「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」


『みんなハッカ飴を食べている、ブランドはどこだ?』

『カンロのハイパーミントだな、砂糖不使用だ』

『包み紙を開けるのが面倒そうだな』


 立ち上がりかけたトロールがどすんと床に横たわり、眠り始めた。

 しめた、睡眠系特攻か。


『お、ヴァーチャーも寝始めた、高田が投げ斧で倒した、後方は安全だぞ』

『バックアタック怖いな』

『ヴァーチャーは移動が早いでな』


 ねえさんはヘルハウンドを始末し終わった。

 俺は寝ているトロールに静かに近寄る。

 奴の心臓に『暁』を差し込み、即死させた。

 トロールは一瞬目を見開き、そして動かなくなった。

 ふう。


「バックアタックはやばかったねえ」

「ぐるぐるの歌はいたしかゆしっすー」

「また転んだおー、でもハッカ飴で寝なくてすんだおー」


 『オーバーザレインボー』がヴァーチャーの死骸をずるずる運んできた。


「黒犬は素早いし、巨人に撃っても効かないしで困った」

「まあ、そういう時もあるさ」


 俺はチアキをなぐさめた。


「トロールは睡眠が効くな、【睡眠スリープ】を撃てば良かった」

「ヴァーチャーに入れた方が良かったかもな」

「そうか、後ろが安全になると楽だからだな」

「そうそう、レイドだと色々と動きを変えなきゃで勉強になる」

「まったくだ、新宮」


 魔物死骸を一カ所に集める。

 しばらく待っていると死骸は粒子となり魔力霧が発生した。

 またお寺のお線香を体に当てるようにぱたぱたと皆で手を動かした。


「ううっ」

「うむっ」


 チアキと泥舟のレベルが上がった。

 みのりは次回ぐらいかな。


 あと、樹里さんのレベルが上がった。


 とん、コロンと魔石が床に落ちた。

 そしてドロップ品も。


 ヘルハウンドからは、魔石、ヘルハウンドホットドッグ、マジックポーションが出た。

 自然な動きで鏡子ねえさんが包み紙を開き口に入れた。


「お、ソーセージが高級になっている」

「ほんとうだ、シャウエッセン使用だって」

「それは美味しそうだな」

「美味しいぞ」


 トロールからは魔石と……。


「ムーミン!!」

「トロールとムーミントロールは違う種類だろうが運営っ」


 ムーミンの大きなぬいぐるみが出てみのりが抱きついた。

 ふわふわしているっぽい。


「はい、チアキちゃんっ」

「う、うんっ」


 それを彼女はチアキに渡した。

 チアキも抱きついて嬉しそうにしている。


 ヴァーチャーから魔石と焼き鳥パック、短弓が出た。

 変な物が出るなあ。

 短弓は樹里さんの持っているものよりも上質だったので取り替えた。


「良く当たりそうっす」

「焼き鳥はなんだお?」

「迷宮焼き鳥だって」


 迷宮の地下に焼き鳥工場があるのか?


「工場は、あはは、日本国技館だって」

「大相撲焼き鳥じゃないかっ」


 色んな所からドロップ品を調達しているなあ。

 俺は鏡子ねえさんに取られないうちに焼き鳥パックを収納袋に入れた。


 さて、もうすぐムカデの部屋だ。


「うう、やだなあ」


 みのりがぽつりとつぶやいた。

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