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第158話 センチネルセンチピードの間

 さて、ムカデの間である。

 女子三人組は格子戸の向こうの光景を一目見て、ぎゃっと叫んで廊下の隅で固まってしゃがみ込んでしまった。


 ヘッドライトを向けると黒い波のような物が波打っている。

 八畳間ぐらいの部屋の中はセンチネルセンチピードで一杯だ。

 規則正しく隊列を組んでジャワジャワと壁や床や天井を埋め尽くして行進している。

 部屋の奥には青く輝く宝玉がある。

 あそこにタッチすると体に通行権が刻み混まれて、十七階に行く下り階段の扉を開く事が出来る。


「うわあ、ムカデが一杯だな」

「気持ち悪いね鏡子」

「これは扉を開け閉めしても良いのか?」

「もちろん、だが、再ポップ速度が速いのでちょっと殺したぐらいでは部屋は空かないよ」

「どうすんだこれ?」

「定石ではファイヤーボールを沢山ぶつけて数を減らして駆け抜ける、だそうですよ鏡子さん」

「「「ぎゃーーっ!!」」」


 横耳で盗み聞きをしていた、しゃがみ女子三人衆が悲鳴を上げた。


「武器でちまちま倒す手が使えないのか、やっかいな罠だな」

「ポップを止める手は?」

「最初に攻略したとき、階の隅々まで探したけど、無い、だそうだ」

「ただ、再ポップが早くて無限湧きだから、魔法使いのレベルアップに最適な部屋らしい」


 ドキューンドキュン!


 チアキが魔銃を早抜きしてセンチネルセンチピードを撃った。

 頭を打ち抜いた個体以外は平気で動き回っている。

 死んだ個体はひっくり返り腹を見せてビクビク動いている。


「キャシーの爺ちゃんが呼べればなあ、M2機関銃で掃討出来るのに」

「あいつはいないしな」


『ここは難所なんだよなあ、うっかり格子戸を開けて酷い目に合うパーティが多いんだ』

『毒を受けて、途中で力尽きる冒険配信者が多かった模様。今はムカデ飴を買って挑むのが定石になった』

『レア魔法の範囲魔法があればそんなでも無いんだけどね』


「みのり、始めるぞ」

「いやれふいやれふ、怖い~~」

「わかるわかる」

「タカシさんは鬼よっ」


 この女子しゃがみ隊は……。


「東海林だけで行ってみるか、基本的に一パーティでも行けるようになっているだろうし」

「そうだなあやってみるか」


 チアキがトコトコと女子しゃがみ隊の所にまで行った。

 説教するのかな。


「『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪』」


 違った、チアキは澄んだ声で元気の歌を歌いだした。

 うん、よく俺がレストランで勇気が出ないときに、みのりがやる行為だな。


「ううううっ、チアキちゃん、ありがとうっ、『さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』」


 みのりはリュートを弾いて歌を引き継いだ。

 なんだか、心の底から元気と勇気が湧いてくる感じがする。


 みのりはすっくと立ち上がった。


「みんな、ごめん、私はがんばるよっ!」

「えらいっ、みのりねえちゃんっ!!」

「えらいっすー」

「立派ですわ」


 そして格子戸の近くまで行き、中を見てぎゃーっと悲鳴を上げた。


「しっかりしろ、みのり」

「ひ、ひいいいっ」


 後ろから抱きかかえるとみのりはぶるぶる震えていた。

 良い匂いがして肩が細いなあ。


「あ、その、タカシくん、そのええと、そうやって後ろから肩を抱いていただけると、ちょっと安心といいますかですね」

「「きゃーっ」」


 女子しゃがみコンビから嬌声が上がった。

 しょうがないなあ。


「抱いていてやるからしっかりしろ」

「は、はひっ」


 東海林が格子戸の前で詠唱に入った。

 みのりも俺の胸の中で詠唱を始める。

 なんだか、心音が聞こえる感じがして、うむ、なんだな。


『『紅蓮の炎よ、地獄の灯りよ、いまこの地に顕現し、我が敵を焼き尽くせ』』


 東海林の手とみのりの手から火炎弾が発射されて格子戸をくぐり、部屋の中心あたりの床にぶつかって爆発した。

 何十匹ものムカデが吹っ飛ばされた。


「ひいいいっ!」

「大丈夫だ、さあ、続けてっ」

「は、はひっ」


 東海林とみのりがどんどん火炎弾を部屋の中にぶち込んでいく。

 爆発と共にムカデが大量に吹き飛ばされ、火が付いて燃えて嫌な臭いが漂う。

 チアキは格子戸の取っ手に手を掛けている。

 鍵はあらかじめ外してある。

 ムカデが減ったら、走り込んでオーブに触り、再ポップでムカデが増える前に逃げ出すだけの簡単なミッションだ。


「ムカデが減ってきた、樹里さん、藍田さんもこっちに」

「ええええっ」

「いやでふーっ」

「こっちこい、おらーっ!」


 鏡子ねえさんが切れて樹里さんと藍田さんの首筋を掴んで引っ張って来た。


「二人だと早いね、もうちょっと」

「ムカデムカデムカデ~~」

「いや歌わなくていいから」


 ムカデは減り続け、魔力の霧が部屋の中から格子を越えて出て来た。

 なるほどレベル上げに良いかもしれない。

 床にはドロップした魔石やムカデ飴の袋、呪文スペルや、聖典、楽譜スコアなどが散らばっている。


『お、ムカデ鞭が出てる、あれはレアドロップだ、タカシ、拾っておけよ』

「ありがとう、拾います」


 ムカデは大分減ってきた。

 床も、壁も天井も見えるようになった。


「高田くん、足下がムカデの死骸で滑るから転ばないようにね」

「ありがとう、泥舟くんっ」


 チアキが格子戸の取っ手をひねり、開けた。

 二三匹のセンチネルセンチピードが出て来たのを霧積が切った。

 鏡子ねえさんが樹里さんと藍田さんを抱えて部屋に飛びこんだ。

 泥舟が後ろを守るように追った。


「「ぎゃ~~~!」」


 その手があったか!

 俺はみのりをお姫様抱っこして部屋に飛びこんだ。


「ぎゃ~~!」


 耳元でみのりの声がしてうるさい。

 ぎゅっと抱きつかれて柔らかくて良い匂いで困る。

 が、かまわず走る。

 生き残りのセンチネルセンチピードがこちらに駆けてくるがブーツで頭を踏み潰して倒す。


 ねえさんがオーブに取り付いた。

 樹里さんを抱いている方の手でオーブにタッチ。

 ねえさんの体が一瞬光る。

 樹里さん、藍田さんも手を伸ばしてオーブにタッチした。

 続いて泥舟もオーブに触る。

 よしっ、ねえさん組完了だ。

 チアキはするすると滑るように歩いて高田君や東海林に襲いかかろうとしているムカデの頭を銃撃して倒していた。

 目が良いな。

 チアキもオーブに取り付いて触って光った。

 チアキも完了。


 俺とみのりとねえさん組がすれ違う。

 鏡子ねえさんは足技でムカデをなぎ払っていた。

 泥舟が補佐してムカデを刺し殺す。


 俺もオーブに到達した。

 みのりと同時にオーブに触った。

 何かが体の中を伝い、胸の真ん中に収まった。

 みのりも光った。


「完了だ、帰るぞ」

「は、はひっ!」


 高田君と霧積が東海林を守るように走っている。

 俺たちとすれ違う。


 壁や天井からセンチネルセンチピードが再ポップしている。


 ダキューンダキュダキュダキューン。


 チアキが西部のガンマンのように腰だめにして魔銃を撃った。

 死んだムカデが落ちてくる。


「チアキ、そこの鞭!」

「二本あるっ!」

「両方」

「わかったっ」


 チアキがバックラーを腰に引っかけて、ムカデ鞭を二本取った。

 俺はムカデを踏んで転ばないように注意をして走り、格子戸の外に出た。


「完了、噛まれた奴は?」

「いてーおーっ!」


 高田くんの悲鳴が轟いた。

 噛まれたのか、なんだか、いつも彼は酷い目にあうなあ。

 みのりを降ろして部屋の中に戻る。

 高田君が足を引きずっている。

 霧積が肩を貸している。


「『どくよ~~どくよどくどくよ~~♪ きみの牙はひつようないから

あっちにいけ~~♪ どくの力よ消え失せろ~~♪』」


 みのりの歌が聞こえて高田君の動きが正常になった。

 【毒毒飛んでけ】の歌だ。


「たすかるおーっ!」


 高田君と霧積、東海林が走って部屋を出た。

 よし、誰も脱落してないな。

 俺は確認してから、部屋を出た。

 待ち構えていたチアキがドアを閉めた。


 ガッチャーン!!


「センチネルセンチピードの間、攻略だ!!」

「「「「「「うおーっ!!」」」」」

『『『『『『うおーっ!!』』』』』


 画面の向こうとこちらで皆が歓声を上げた。

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