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第159話 折り返して帰還していく

 センチネルセンチピードの間を撤収して元来た道を戻る。

 それほど時間が経っていないのでモンスターの再ポップも無く、階段下の安全地帯で休憩する。


「うわー、キツかったっすー、鏡子ねえさんありがとうっすー」

「本当に運んで頂いて感謝します」

「というか、お前達、ムカデぐらい踏み潰せ」

「「無理」」


 高田君がズボンをまくってムカデに噛まれた所をチェックしている。

 まだちょっと赤いかな。


「歌で毒が抜けるのはすごいおー」

「でも、応急っぽいので藍田さんに【毒消し】掛けてもらってね」

「はいはいー」


 藍田さんが高田君の足に【毒消し】の奇跡を掛けた。


「たすかるお、ありがとう藍田さん」

「いえいえ、ムカデ部屋では役に立たなくてごめんなさい」

「呪歌は相手が見えなくても掛けられるのが良いすよねえ」

「それは利点だけど、ちょっと効果が弱いのよね」


 呪歌と奇跡、それぞれ得意不得意があるなあ。


「ムカデ鞭、使う奴はいるか? レア物だぞ」

「「「嫌ですっ」」」


 人気無いなあ、ムカデ鞭、二本もあるのに。

 五十㎝ぐらいのムカデの形をかたどった棒で、振るとみょーんと伸びて相手を叩く。

 当たった時に確率で相手に毒を付与出来る優れものだ。

 だが、使ってる奴を見た事が無い。


『ムカデ鞭は色物装備に見えるが、相手に毒を流し込める良い武器じゃぞ』

『やっぱ、ムカデの形してるからねえ』

『女子にはちょっと』


 もったい無いが売ってしまうか。

 装備出来るのは、みのり、樹里さん、チアキだが、そんなに強くなる感じの人はいないしな。


「ムカデなんか見たくも無い」

「本能が拒絶するっす」

「色合いが嫌です」


 黒い本体に赤い足が沢山生えているのはダメかあ。

 チアキが女子部の意見を聞いて、不満そうに両手にムカデ鞭を構えてヒュンヒュン振っているが、君は魔銃があるからダメだ。


 一息ついたので十五階に上がる。

 帰りも敵が出るが、このメンバーだと問題無く倒して行ける。

 やっぱり目的を果たしたら気分が楽になるね。


 謎かけ扉を裏からくぐる。

 こちら側から開けるときは鍵は掛かっていない。

 リドルに挑戦していたパーティが居たようで、扉が開くとびっくりしていた。

 ムカデ部屋チャレンジかな。


「お、タカシじゃんっ」


 頭の悪そうな兄ちゃんがそう言うといきなり切ってきた。


 ガチーン!


 『浦波』が自動防御した。


「ちっ、やっぱり上手えなっ、『暁』を置いてけ」

「死にたいのか?」

「へ、高校生が人を殺せ……」


 鏡子ねえさんがするりと兄ちゃんの懐に入って首に絡みつき、ボキリと折った。


「あ、あああっ!! こ、殺したーっ、殺したーっ!!」

「何言ってんだ、殺しに来たら殺すぞ、普通」


 残った四人のメンバーが恐怖の色を浮かべた。


 ダキューン!!


 矢を撃とうとした『射手アーチャー』の足をチアキが無表情で撃った。


「わっ、たっ、ゆ、許してくれっ、ゆ、有名人を見てふざけたかっただけなんだっ、この通りだっ」

「死体と怪我人を運んで、そこの部屋に入って出てくるな、出て来たら殺す」

「わ、解った、解った」


 残りの三人で怪我人と死人を担いで扉を開けて迷宮の小部屋に入った。

 ギャーと悲鳴が上がったのでルームガーダーがいたっぽい。

 十五階だから、オーク系か、オーガーか、まあ、知らない。


 みんな黙って歩いた。

 鏡子ねえさんだけが鼻歌を歌っているな。

 タフな人だ。


「迷宮は物騒だお」

「鏡子さんが居なかったら困ってたな、向こうが殺す気だけど、こっちは殺すのに躊躇するし」

「鏡子お姉様、素敵っす」


 そうなんだよなあ、俺でも人間を殺すのは躊躇する。

 向こうは殺しに来ていたので、こちらも全滅させて装備と金を奪っても何の問題は無いんだが、気持ち的にね。


「いつもすまないな、ねえさん」


 鏡子ねえさんは笑って、俺の背中をバンバンと叩いた。


「良いんだよ、タカシが残酷になったら何かヤダし。私は身内に敵対した奴を殺すのは抵抗ないから、気にすんなっ」


 正直、助かる。

 鏡子ねえさんがいるから悪人のパーティに狙われにくい所はあるしな。

 感謝してもしきれない。


「ああいう奴殺せないと、こっちの男子が死んだら女子が酷い事になりそうだしな、俺も殺す覚悟を持たないと」

「霧積くんは平気だお、キレると普通に殺せるし、僕は足しか狙えないお」

「頭か首を狙え高田っ」

「こ、怖いお」


 『オーバーザレインボー』の会話も聞こえてくる。

 そうなんだよなあ。

 難しい問題だ。


『法律では殺しても何の問題も無い、逆に殺した方が良いんだが、なかなかな』

『人間だからなあ、敵対して無かったら殺せないなあ』

『悪質なパーティだとさ、友好的に近づいてきて毒飲ませたりするぜ。迷宮で知らない奴はみんな敵だと思うのが無難だぜ』

『高校生だからなあ、修羅場をくぐった中年とかだったら別だが、躊躇無く人を殺せたら、それはそれで怖いよな』


 リスナーの配信冒険者さんたちの意見も似たような感じだな。

 どんなにレベルが上がっても、つきまといそうな問題だな。


 沈んだ空気を纏いつつ、『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』は地上を目指して歩いていく。

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