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第174話 フロアボス前で弁当を食べる

 『グランドオーダー』はかなり離れたが依然として後ろに付いている。

 意外に圧迫感がある。

 だが、焦ったり急いだりすると事故の元だ。


 通路の先がピットゾーンになっていた。

 チアキがしゃがみ込んでムカデ鞭で床を叩く。

 ギイと音を立てて床が開いた。

 一メートルぐらい下に金属の杭が沢山埋め込まれている。

 ポンポンとムカデ鞭で叩いて安全地帯を割り出していく。


 壁には赤マジックで罠の場所が書いてあるが、信用してはいけない。

 ウソが書いてあるときも多いし、わざと抜かしたりもする。

 前のパーティの印は参考ぐらいにして、『盗賊シーフ』がちゃんと確かめて通行するのが作法だ。


「タカシ兄ちゃん、ハンマーと楔」

「あいよチアキ」


 チアキに楔とハンマーを渡した。

 彼女は壁に楔を打ち込んでロープを掛けた。

 そのまま落とし穴でない廊下を通って反対側も楔を打ち込みロープを掛ける。


「ロープを持って慎重に渡って、みのりねえちゃんから」

「わ、わかったよ」


 みのりはおっかなびっくりとロープを手すりにして細い足場を渡っていく。

 蓋が戻って行くと、ムカデ鞭で叩いて作動させている。

 有能だな。

 みのり、泥舟、俺と渡っていく。

 最後の鏡子ねえさんは楔を引き抜き、ロープを外した。

 そのまますたすたと細い足場を平気で渡る。

 さすがの平衡感覚だなあ。


 楔とロープとハンマーを収納袋に収めて前進する。


『チアキちゃん凄腕』

『ときどき、床全体が落とし穴の所とかあるんだが、そういう時はロープで橋を組んだりするな』

『迷宮ではロープ大事だ』

『いいね、伝統芸みたいだ』


 ビロリンとチアキにスパチャが飛ぶ。


「ありがとうっ、みんな愛してるよっ」

『うっは、幼女の投げキッス!』

『これは萌える』

『( °∇^)]もしもしポリスメン?』


 突き当たりの通路を東に曲がる。


「リザードマン二、リザードナイト一」


 じゃーんとみのりがリュートを弾き始める。

 俺たちはポケットからハイパーミント飴を出して口に含んだ。


「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」


 こちらに気が付いて居なかったリザードの群れがくたくたと崩れ落ちて寝た。

 相変わらず、睡眠に弱いな。


 後ろ頭がチリチリした、【危険察知】。

 振り返る、遠くに灯りが見える『グランドオーダー』だ。

 ヒュンと風鳴りの音がした。

 『浦波』が勝手に動いて[自動防御]が矢を防いだ。


 ガーン!!


 火薬矢だったようだ、大きな音でリザードマンたちが眼をさました。


「大丈夫かー、ぎゃっはっはっ!」


 笑いを含んだ下品な声が『グランドオーダー』の方からした。


 ダキューンダキューン!!


 チアキが灯り目がけて銃を乱射する。

 泥舟が飛びこむようにしてリザードマンを一匹刺す。

 鏡子ねえさんが立ち上がろうとしたリザードナイトを連打して頭を破裂させた。

 チアキがリロードをして更に『グランドオーダー』へ乱射する。


『あいつら曲がり角に隠れてるな』

『まったく、こすい奴らだな』


「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」


 みのりが再度【おやすみの歌】を大声で歌う。

 生き残りのリザードマンの眼がとろんとした。

 『グランドオーダー』のヘッドライトの灯りもぐらぐらと揺れる。


『寝た! 『グランドオーダー』抵抗失敗だ』

『リーダーが起きて蹴飛ばして起こそうとしてるが、眠そう』

『リーダーも寝た!』


 こちらも残り二匹のリザードマンを片付けた。


「どうする、殺しに行くか? タカシ」

「ほっとこう、生きるか死ぬかは『グランドオーダー』の運しだいだな」


 ワンダリングモンスターに襲われるか、否かは運次第だ。

 人の狩りに横やりを入れてきたのだから殺しても良いのだが、人殺しにはなんとなく抵抗がある。

 ああいう低レベルの相手が一番やっかいとも言えるな。


 リザードたちが経験値になるまで待つ。

 ドロップ品は魔石、青水晶、リザードマンガントレットが出た。

 ガントレットは青い鱗で格好が良いな。


「チアキ使うか」

「タカシにいちゃんがつかえよ」


 俺は皮の籠手を外しリザードマンガントレットに変えた。

 ちょっと装甲が厚くなったか、重さはそんなに変わらない。


『リザードマンガントレットは水性の攻撃耐性があり、防水じゃ』

『あんま水攻撃の相手居ないけどね』

『まあのう』


 水辺階とか出ない限りはあまり関係がなさそうだな。

 格好いいからいいや。


「あの人達はほっとくの?」

「ほっとく、死んでも自己責任だ」

「そう」


 みのりは優しいから心苦しいのだろう。

 だが、人の狩りに矢をぶち込んで来る奴らに同情は無用だ。


 俺たちは先を急いだ。


 階段を下りて、二十階だ。

 ここでもガーゴイルたちが作業をしていた。

 よく働くな。


 南に向かって歩く。


 ドラゴンフライが五匹飛んできた。

 チアキが銃撃し、鏡子ねえさんがジャンプで蹴り落とす。

 みのりが【ぐるぐるの歌】を歌うとドラゴンフライどもは壁にぶつかり落ちてきた。

 踏み潰したら終わりだ。

 やっぱり『吟遊詩人バード』が居ると格段に楽だな。

 【ぐるぐるの歌】は平衡感覚を狂わすから飛行タイプはバタバタ落ちる。


 ドラゴンフライからのドロップ品は、キュアポーション、呪文スペル風刃ウインドカッター】、トンボメガネであった。


「サングラスだ」

「トンボメガネ」

『閃光魔法を防ぐアイテムじゃ』

『またコアなシチュエーションの防護アイテムを』

『フラッシュネズミとかおるぞ』

『ぎ、ぎりぎりネズミ』


 通路を西に折れ、まっすぐ行くとフロアボスフィールドだ。


 フィールドの手前に、パンの木が生えている安全地帯がある。

 水場もあるな。

 チェックすると、良い味の水であった。


 ヤカンに水を入れてガスストーブに掛ける。

 アウトドアグッズを持ち歩けるのも収納袋さまさまだな。


「大休止だ、昼ご飯にしよう」


 俺は収納袋からお弁当のレジ袋を出してみんなに渡した。

 ランタンを出して明るくする。


 みんな思い思いの岩に腰掛けて弁当を食べる。

 お湯が沸いたので、緑茶のティーパックを入れてお茶を入れた。


「暖かいお茶はたすかるね」

「ほっとするよう」

「『グランドオーダー』が来たらどうするの」

「殺す」


 鏡子ねえさんが怖い声を出したが、まあ、そこまでバカならしょうが無いかもな。

 寝ている間にリザードマンたちに倒されていればいいのだが。

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