『グランドオーダー』はかなり離れたが依然として後ろに付いている。
意外に圧迫感がある。
だが、焦ったり急いだりすると事故の元だ。
通路の先がピットゾーンになっていた。
チアキがしゃがみ込んでムカデ鞭で床を叩く。
ギイと音を立てて床が開いた。
一メートルぐらい下に金属の杭が沢山埋め込まれている。
ポンポンとムカデ鞭で叩いて安全地帯を割り出していく。
壁には赤マジックで罠の場所が書いてあるが、信用してはいけない。
ウソが書いてあるときも多いし、わざと抜かしたりもする。
前のパーティの印は参考ぐらいにして、『
「タカシ兄ちゃん、ハンマーと楔」
「あいよチアキ」
チアキに楔とハンマーを渡した。
彼女は壁に楔を打ち込んでロープを掛けた。
そのまま落とし穴でない廊下を通って反対側も楔を打ち込みロープを掛ける。
「ロープを持って慎重に渡って、みのりねえちゃんから」
「わ、わかったよ」
みのりはおっかなびっくりとロープを手すりにして細い足場を渡っていく。
蓋が戻って行くと、ムカデ鞭で叩いて作動させている。
有能だな。
みのり、泥舟、俺と渡っていく。
最後の鏡子ねえさんは楔を引き抜き、ロープを外した。
そのまますたすたと細い足場を平気で渡る。
さすがの平衡感覚だなあ。
楔とロープとハンマーを収納袋に収めて前進する。
『チアキちゃん凄腕』
『ときどき、床全体が落とし穴の所とかあるんだが、そういう時はロープで橋を組んだりするな』
『迷宮ではロープ大事だ』
『いいね、伝統芸みたいだ』
ビロリンとチアキにスパチャが飛ぶ。
「ありがとうっ、みんな愛してるよっ」
『うっは、幼女の投げキッス!』
『これは萌える』
『( °∇^)]もしもしポリスメン?』
突き当たりの通路を東に曲がる。
「リザードマン二、リザードナイト一」
じゃーんとみのりがリュートを弾き始める。
俺たちはポケットからハイパーミント飴を出して口に含んだ。
「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」
こちらに気が付いて居なかったリザードの群れがくたくたと崩れ落ちて寝た。
相変わらず、睡眠に弱いな。
後ろ頭がチリチリした、【危険察知】。
振り返る、遠くに灯りが見える『グランドオーダー』だ。
ヒュンと風鳴りの音がした。
『浦波』が勝手に動いて[自動防御]が矢を防いだ。
ガーン!!
火薬矢だったようだ、大きな音でリザードマンたちが眼をさました。
「大丈夫かー、ぎゃっはっはっ!」
笑いを含んだ下品な声が『グランドオーダー』の方からした。
ダキューンダキューン!!
チアキが灯り目がけて銃を乱射する。
泥舟が飛びこむようにしてリザードマンを一匹刺す。
鏡子ねえさんが立ち上がろうとしたリザードナイトを連打して頭を破裂させた。
チアキがリロードをして更に『グランドオーダー』へ乱射する。
『あいつら曲がり角に隠れてるな』
『まったく、こすい奴らだな』
「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」
みのりが再度【おやすみの歌】を大声で歌う。
生き残りのリザードマンの眼がとろんとした。
『グランドオーダー』のヘッドライトの灯りもぐらぐらと揺れる。
『寝た! 『グランドオーダー』抵抗失敗だ』
『リーダーが起きて蹴飛ばして起こそうとしてるが、眠そう』
『リーダーも寝た!』
こちらも残り二匹のリザードマンを片付けた。
「どうする、殺しに行くか? タカシ」
「ほっとこう、生きるか死ぬかは『グランドオーダー』の運しだいだな」
ワンダリングモンスターに襲われるか、否かは運次第だ。
人の狩りに横やりを入れてきたのだから殺しても良いのだが、人殺しにはなんとなく抵抗がある。
ああいう低レベルの相手が一番やっかいとも言えるな。
リザードたちが経験値になるまで待つ。
ドロップ品は魔石、青水晶、リザードマンガントレットが出た。
ガントレットは青い鱗で格好が良いな。
「チアキ使うか」
「タカシにいちゃんがつかえよ」
俺は皮の籠手を外しリザードマンガントレットに変えた。
ちょっと装甲が厚くなったか、重さはそんなに変わらない。
『リザードマンガントレットは水性の攻撃耐性があり、防水じゃ』
『あんま水攻撃の相手居ないけどね』
『まあのう』
水辺階とか出ない限りはあまり関係がなさそうだな。
格好いいからいいや。
「あの人達はほっとくの?」
「ほっとく、死んでも自己責任だ」
「そう」
みのりは優しいから心苦しいのだろう。
だが、人の狩りに矢をぶち込んで来る奴らに同情は無用だ。
俺たちは先を急いだ。
階段を下りて、二十階だ。
ここでもガーゴイルたちが作業をしていた。
よく働くな。
南に向かって歩く。
ドラゴンフライが五匹飛んできた。
チアキが銃撃し、鏡子ねえさんがジャンプで蹴り落とす。
みのりが【ぐるぐるの歌】を歌うとドラゴンフライどもは壁にぶつかり落ちてきた。
踏み潰したら終わりだ。
やっぱり『
【ぐるぐるの歌】は平衡感覚を狂わすから飛行タイプはバタバタ落ちる。
ドラゴンフライからのドロップ品は、キュアポーション、
「サングラスだ」
「トンボメガネ」
『閃光魔法を防ぐアイテムじゃ』
『またコアなシチュエーションの防護アイテムを』
『フラッシュネズミとかおるぞ』
『ぎ、ぎりぎりネズミ』
通路を西に折れ、まっすぐ行くとフロアボスフィールドだ。
フィールドの手前に、パンの木が生えている安全地帯がある。
水場もあるな。
チェックすると、良い味の水であった。
ヤカンに水を入れてガスストーブに掛ける。
アウトドアグッズを持ち歩けるのも収納袋さまさまだな。
「大休止だ、昼ご飯にしよう」
俺は収納袋からお弁当のレジ袋を出してみんなに渡した。
ランタンを出して明るくする。
みんな思い思いの岩に腰掛けて弁当を食べる。
お湯が沸いたので、緑茶のティーパックを入れてお茶を入れた。
「暖かいお茶はたすかるね」
「ほっとするよう」
「『グランドオーダー』が来たらどうするの」
「殺す」
鏡子ねえさんが怖い声を出したが、まあ、そこまでバカならしょうが無いかもな。
寝ている間にリザードマンたちに倒されていればいいのだが。