目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第175話 フロアボス『ゴブリンロードと二十五匹の仲間』

 お弁当を食べながら作戦会議だ。


「二十階のフロアボスのテーマは『集団戦闘』らしい、つまり多人数対多人数の戦いな訳だ」

「ゴブリンさん達でしょ? 強いの?」

「ゴブリンロードが率いるゴブリン軍団二十五匹と戦う。雑魚ゴブリンが十匹、ゴブリンアーチャーが五匹、ホブゴブリンが五匹、ゴブリンナイトが三匹、ゴブリンメイジが二匹だ」

「メイジ、魔法を使うゴブリンも居る?」

「居る、五チームの部隊に別れてゴブリンロードの指揮で襲いかかってくる」

「ゴブリンロードには【指揮】のスキルが付いてるね」


 泥舟がスマホで検索しながら言った。


「そうだ、そのスキルのお陰でパラメータが1.5倍ぐらいに上がって手強くなっている」

「二十五匹対五人、五倍の戦力差なのね」

「タカシ、作戦は?」

「【ぐるぐるの歌】で奇襲する。ねえさんと俺が、ホブゴブリン、ゴブリンナイトをまず潰す。その後に、ゴブリンメイジとゴブリンアーチャーを倒す、そこまで来れば後は雑魚だから楽に倒せるだろう」

「真っ先にゴブリンロードを倒しちゃうのは駄目か?」

「腕の立つパーティはそれを狙うから、奴らはロードを狙って来る奴を包囲して倒すパターンをよく使う」

「ふむ」

「あと、ねえさんが敵陣奥深くに入ると、ゴブリンナイト、ホブゴブリンが後衛を狙ってくる、みのりとチアキは脆いので守りながら戦わないと」

「なるほど、ややこしい相手なんだな」


 そんなでも無いけど、基本的に職が散らばっていないと勝てないと言われているね、戦士と盗賊だけだと高レベルでも苦戦するそうだ。


「うちはみのりが居るから大分楽なはずだ」

「へっへーん」


 みのりが胸を張った。


「チアキと泥舟はみのりの近くで守ってやってくれ、俺とねえさんが数を減らす」

「歌は【ぐるぐるの歌】だけ?」

「向こうの動きが良くなったら【スロウバラード】に変えてくれ、フロアボスを倒したら二十階ポータルが使えるから魔力は温存しなくていい」

「ラジャッ」


 みのりが敬礼をすると、チアキも真似をして敬礼をした。


 お弁当が終わった、ちょっとお茶を飲みながら休憩である。


「あいつら来ないね」

『グラオ達はまだ寝てた』

「来ない方が良いな」


 戦闘が始まる前にフィールドに入られると自動的にレイドになる。

 寄生ボスクリアと呼ばれる方法だ。

 戦ったあと、経験値や宝箱の取り分で凄く揉める。

 殺し合いになった動画も見たことがある。

 図々しい奴らはどこにでも居るんだよね。


 スマホがピーピー鳴って三十分経ったことを知らせてくれた。


「さて、やろうか」

「大神降ろしは必要かな?」

「要らないと思うよ、それほどの強敵でも無いし」


 権田権八とか、マイケルに比べれば楽なものだと思う。


「かーちゃんは呼ぶか?」

「どうする、呼ぶならゴブリンロードの後ろで奇襲してもらうけど」

「それはつまらないか、ピンチになったら呼んでくれ」

「解った、そうしよう」

「良い物が出ると良いけど、魔法の呪文スペルとか、杖とかね」

「それが出たら泥舟は魔術師ウイザード確定だな」

「槍がでたら、泥舟兄ちゃんは槍士確定だね」

「斧が出たら高田にやろう」


 意外に使わない物が出る可能性もあるし、これは運次第だな。

 みのりが居るから良い物が出そうだが。


 俺たちはフィールドに分け行った。

 中心ではゴブリン達が座って眠っている。


「撃っちゃだめなの?」

「フィールドが閉鎖されるまで、攻撃は無効だよ。詠唱は大丈夫だからこの時点から詠唱を始めて初手魔法攻撃というのも良くある」


 ファイヤストームで雑魚ゴブリンを初手で倒した動画もあったな。

 ファイヤーボールぐらいでは傷つくぐらいなのであまり意味がない。

 東海林のパーティなら、銅線を張って、初手【微電撃エレクトロ】という手もあるが、威力的にあまり意味がないか。


 みのりがボロンボロンとリュートを弾き始めた。

 まず一番大柄な中央のゴブリンロードが眼を開き、立ち上がる。

 ゴブリンナイト、ゴブリンメイジが立ち上がり、メイジは詠唱を始める。

 ホブゴブリンが立ち上がり、ゴブリンアーチャーが矢をつがえ、ゴブリン達が立ち上がり、移動して五隊に別れた。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ~~!!」


 ゴブリンロードが俺たちを指さして何かを言った。

 瞬間、フィールドの壁が光輝き閉鎖されて、フロアボス戦が始まった。


「『ぐるぐるぐるぐる♪ おまわりおまわりなさい~~♪ 空も地面もぐーるぐる♪ 足下ぐらぐら気を付けて~~♪』」


 みのりの【ぐるぐるの歌】で平衡感覚が狂わされて、ゴブリン達がぱたぱたと倒れる。

 ゴブリンメイジのファイヤーボールが明後日の方角へ飛んで弾けた。

 チアキが地面に腹ばいになる。


 ダキューンダキューン!!


 狙いはゴブリンアーチャーだ。

 解ってるな。


 【ぐるぐるの歌】の下で唯一普通に動ける鏡子ねえさんがゴブリンの群れに突っ込んで行く。

 俺も重心を落としてすり足で前に出る。


 アーチャーもホブゴブリンもひっくり返り、立っているのは、ゴブリンロードとゴブリンナイトだけだった。


 鏡子ねえさんがゴブリンメイジに襲いかかり、一発で頭部を破裂させた。

 そのまま踏み込み、立ち上がりかけのホブゴブリンの胸を連打。

 [楔]の権能が働きホブゴブリンの背中が吹き飛んだ。

 [金時の籠手]はもの凄いな。


 俺も接敵して、まずはゴブリンメイジの心臓を突いて刺殺。

 これで魔法使いはいなくなった。


「ぎゃぎゃぎゃ、ぎゃぎゃっ!!」


 ゴブリンロードが焦った声で指揮をするが、いまだ【ぐるぐるの歌】はエンドレスで流れている。

 ゴブリン達は立ち上がりかけて転びを繰り返す。


 ダキューンダキューン!


 チアキの銃弾がアーチャーの頭に当たった。

 アーチャーも順調に減っている。


『うお、順調だなあ』

『鏡子さんがあのぐるぐるの中で普通に動けるのがでかい』

『動画越ししでもぐるぐるしてて、キーボードがううちちずらいののに、ねねえ』

『ぶれてるぞ、おまい』


 五隊に別れているから、なるべく早く潰したいアーチャーも別れているので面倒臭いな。

 ねえさんがステップを踏んで次の隊に移る。


 ゴブリンナイトが【ぐるぐるの歌】に慣れはじめて、俺を槍で突いてきた。

 『浦波』で受けて、そのまま顔面をぶん殴る。

 ホブゴブリンを巻き込んでゴブリンナイトは転がった。

 のしかかるようにして『暁』でゴブリンナイトとホブゴブリンの心臓を刺殺した。


 鏡子ねえさんが回し蹴りでゴブリンナイトを吹き飛ばす。

 手近な所に来たので、首を刈った。

 すぱんと斬れるな。


 ナイトは後一匹、アーチャーはあと二だ。


 鏡子ねえさんが戦車のように突進してゴブリンナイトの頭を両手で掴み膝で打ち上げた。

 ボキリと首が折れ、ゴブリンナイトは居なくなる。


「ぎゃぎゃぎゃーっ!!」


 ゴブリンロードが腰の剣を抜いた。

 そこで曲調が変わる。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 【スロウバラード】だ、半壊したゴブリンの群れの動きが目に見えて遅くなる。


「泥舟、前にでろっ! ゴブリンを頼む!」

「了解、タカシ」


 泥舟が槍を振り回し、ゴブリンを倒し始める。

 動きの鈍ったゴブリンロードに鏡子ねえさんが肉薄して、首に手を掛けて、折った。

 瞬間、スキル【指揮】が外れ、ゴブリンたちの動きが悪くなった。


 ダキューン!


 チアキがゴブリンアーチャーを仕留めた。


 あとはもう消化試合だった。

 ゴブリンを倒し、ホブゴブリンを倒して、全滅させた。


 よし、勝ったぞ。


「うぇ~~うぇ~~!」


 鏡子ねえさんがフィールドの真ん中で勝ち名乗りを上げた。

 意外に楽だったな。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?