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第183話 愛の女神『セコンディナ』の降臨

 パイプオルガンのような壮麗な和音が鳴り響き真っ白な雲が祭壇にもくもくと現れた。

 霧や水蒸気ではない、見た目まんまの雲が湧き出し祭壇を覆い尽くす。


 不思議で神聖な感じの合唱曲がどこからか鳴り響き一人の羽を生やした美しい女性が空からゆっくりと降りてきた。


 ありがたいありがたい。

 なんだか、他の神様よりも五割増しぐらいにありがたく美しい女神様が降臨なされた。

 今日は床が乾いていたので皆、一斉にひざまずいて土下座をした。


『異世界の嬰児よ、奇跡を知らぬ愛し子よ、よくぞ神への信仰を育てました、あなたは今、『僧侶プリースト』への転職条件を満たしました。それを言祝ぎ。わが愛の神の力を授けましょう』

「ははあ」


 竹宮先生は愛の女神さまに頭を垂れた。


『お、愛の女神『セコンディナ』さまだ、綺麗なんだよなあ』

『異世界の女神っぽい感じ』

『異世界でも一番神殿が多い神様じゃな、信者もまた多い』


『世界の隅々まで愛を広げなさい、傷つき悲しむ人々に癒やしを与えなさい。タケミヤアヤの力で愛と平和をこの世にあふれさせるのです』

「一心不乱に頑張ります」


 女神さまはにっこり笑うと手をかざし、キラキラした奔流を竹宮先生の頭に流し込んだ。


『あなたの信じる神の元、精進するのですよ』

「はいっ、女神さまっ」


 竹宮先生は両手を握り、膝を付いてうなずいた。


 女神さまはバッサバッサと羽ばたいて空に消えていった。

 ありがたやありがたや。


「おめでとう、タケミヤ、あなたは『僧侶プリースト』に転職した」

「ありがとうございます、ゴーゴンさま」


 ゴーゴンさまはにっこり笑った。


「いやあ、神々しかったですねえ」

「一番神様らしい感じがしましたね」

「竹宮先生おめでとうございます」

「おめでとうございます」

「おめでとー」


 竹宮先生はなんだか涙ぐんでいた。


「みんなありがとうございます」


 みんなでワイワイと女神さまの話をしながらロビーへと出た。


「竹宮先生、これを上げますよ」

「わ、経典、三つも良いの?」

「はい、割と出る経典なので『ヒール』と『アンチポイズン』あと『プロテクト』です」

「お、これは使い勝手がよさそうだねタカシくん」

「嬉しいわ、でも悪くないかしら」

「気にしないでください、僧侶さんは貴重ですし、学校の先生が『僧侶プリースト』をやってもらうと安心ですから」

「ありがたく頂くわね」


 竹宮先生は受け取ってくれた。


『僧侶基本セットだ』

『居ると安心感が違うんだよな、『迷宮ぶっ潰し隊』が二十階突破できたのも、『ヒール』と『プロテクト』でしぶとくなってたからだし』


 ああ、後醍醐先輩のパーティはあそこで持久戦して突破したのか。


『学校パーティだと、先生が『僧侶プリースト』だと安心だな』

『深刻な『戦士ウォーリア』余りだしなあ』

『プロテクトが意外にでかいんよ、生死分けるね』


「さあ、竹宮先生、僧侶装備を買いましょう」

「え、その、それは個人的に」

「駄目ですよ、遠慮しちゃあ」

「僧侶の人は結構重装備に出来ますから、丸盾とメイスまで持てますよ」

「しかし、武器制限も不思議だね。仏教だと僧兵でも薙刀も持てるのに」

「鈍器じゃないと駄目なんですよね」


『まあ、ジョブシステムがセコンディナ教の戒律が元になっておるからな、刃物で血を流す事を忌むのじゃ』


 そうなのか、余さんは何でも知っているなあ。


 竹宮先生を連れて迷宮売店に行き、店員さんに相談しながらコーティネイトしてみた。


「わ、わりとゴテゴテしたわね」

「僧侶はパーティの要ですからねー、良く似合ってますよ」

「素晴らしいですよ竹宮先生」


 丸盾にメイス、胸当てにガントレットとグリーブを付けた竹宮先生は見違えるように強そうだ。


「というか、弓はもう使えないのかしら」

「使ってもいいんですけど、スキルが生える速度が遅いので、メイスで戦った方が効率的ですね」

「私と竹宮先生が前衛、望月先生が後衛になるわけか」

「そんな感じですね」

「前衛は怖そうだわ」

「慣れるとなんとかなりますよ」

「そうですね、これも神の試練、がんばります」


 あはは、急に僧侶っぽい事を言うようになったね。


「しばらくは四階五階でレベルアップして、六階から十階はメンバーが揃ってからにした方が良いですね」

「私と、竹宮先生、望月先生、チアキちゃんに、方喰さんだね、あと一人か」

「チアキがレベルが高いし、場慣れしてるので頼れますが、マリちゃんがちょっとレベル上げした方が良いですね。あと一人メンバーを入れるか」

「ラブリーエンゼルの二人とレイドしたらどうですかね?」

「あの子達もフロアボス攻略しなければいけませんし、良いかもしれませんね」

「えー、お勧めしません」

「どうしてなの、タカシくん」


 あいつら馬鹿で欲深だから、とは言いにくい。


「不良は馬鹿で欲張りだからだよ、先生」

「まあ、チアキちゃん」


 チアキ、言葉を選ぶんだ。


「宝箱の分配かあ、揉めるかなあ」

「別のパーティ相手だと、諦めて貰うのに相応のお金を払わないといけないんですよ」


 まあ、木箱が出ると思うのだけど、金箱とか出るとね、揉めるね。

 中身がレア剣だったりすると、大もめだね。


「木箱だったら問題無いけど、金箱でたら殺し合いになる時もあるよ」


 弱いパーティがレイドを組んで十階を突破するのが危険なのはそこなんだよね。

 フロアボス宝箱は時々高い物が出るから、必ず揉める。

 レア装備さえあればS級配信冒険者だ、とか夢を見ている奴らは一杯いるんだよだな。

 俺も、良い物が出たらそのままS級にと思っていたけど、伝説級の退魔武器、レアスキル、レア装備、レア楽譜スコアで、これだけ武装しても、いや、したからか、この迷宮は怖い、とそう思ってしまう。

 金箱一個でなんとかなるほど甘いダンジョンじゃあ無いんだな。


 今後、先生方は三人で初心者をサポートするのだから、そこらへんはきっちりルールを作っておかないとヤバイね。

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