収納袋から『浦波』を取りだしていた。
――レーザーを止められる物か?
と、いう疑念はあったが体が勝手に動き、鏡子ねえさんを狙ったレーザー砲の射線に我が身を割り込ませていた。
パアアアアッ!!
軽い音がして『浦波』の表面が光りレーザー光線が拡散した。
表権能の[自動防御]で受けきった!
『浦波』が壊れるかと思ったが傷一つない。
さすがの退魔防具の性能だ。
りっちょんは憮然とした顔で俺を見た。
「タカシくんどいて、そいつら殺せない」
「ふざけんな」
「タカシ、『金時の籠手』をくれ」
「タカシ兄ちゃん、長銃くれ」
前も後ろも好戦的で嫌になるな。
「やめろりっちょん、こんな事をして何になるんだ」
「そいつらを殺して、あのクソ『
「絶対にならねえよ」
「んもうっ、タカシくんたらっ、素直じゃないんだからっ♡」
うわー、話が通じてねえ。
ぶっ殺してえ、こいつ。
こんな精神が不安定な女の右手にレーザー砲を仕込むんじゃねえよ、ミハエルめ。
「『止まれ~、止まれ~、動きを止めろ~~♪ 世界で動けるのは私だけ~~♪ 動かない世界であなたの鼓動を感じるわ~~♪』」
げえっ!!
こいつ【お止まりなさいの歌】が使えるのか!!
全てが静止した世界の中で、りっちょんだけが動き右腕のレーザー砲が鏡子ねえさんを狙う。
パシューーッ!!
動け動けっ! 俺の体っ!
パアアアアッ!!
体は動かないが『浦波』の[自動防御]が働き勝手に動いてレーザーを受け止めた。
はあはあ、ありがとう『浦波』。
いぶかしげな顔でりっちょんは次にチアキに向けてレーザーを放つ。
パッシューーッ!!
パアアアアッ!!
はあはあはあはあ。
「どうして、動けるの?」
「それはなっ、お前をぶん殴って止めるためだっ!!」
駈け寄ってシールドバッシュで、この馬鹿女をぶちのめそうとしたが、りっちょんはねえさんに向けてレーザー砲を発射した。
パッシューーッ!!
パアアアアッ!!
くそっ、距離が詰められないっ。
「タカシ! 『金時の籠手』!!」
「兄ちゃん! 長銃!!」
いや、どっちも駄目だ。
ここは迷宮の中じゃない。
りっちょんを殺したら大問題だし、ねえさんだと相打ちが怖い、チアキだと殺傷力が高すぎる。
《『チャーミーハニー』の縄谷です、風魔法『|囁き声《ウイスパーズ》』にて声を届けています。リーダーの鮫島から話があるそうです》
な、なんだ?
声を届ける魔法?
《こんにちはタカシさん、『チャーミーハニー』の鮫島杏里ですよう、今四階の自室から中継してもらってまーす。いま、ドローンカメラ映像で見ているのですが、りっちょんの右手のレーザー発射口の色は何色ですか》
「声届くの? なんで?」
《戦闘中に相談する魔法なんですよー、で、色は何色ですか》
りっちょんがこちらを狙っている右手の平の丸いレンズの色は……、赤っぽいな。
「赤」
《ヨシ! やっぱロシア人は詰めが甘いですね、これから狙撃するので後はお好きに。【必中】右手のレーザ発射口》
パシュっと軽い音がして上から矢がカーブして飛んで来た。
「え?」
気が付いたりっちょんがとっさに腕を動かしたが、不自然な感じに矢が曲がり、彼女の手の平にある丸いレンズを打ち抜いた。
ガショ!!
「ああああああっ!」
「りっちょんっ!!」
絶対にこの馬鹿女ぶちのめすっ!!
ねえさんとかチアキにやらせるとやり過ぎちゃうからなっ。
シールドバッシュでぶちのめすっ!!
お前はやり過ぎた!
俺の渾身の力を込めた『浦波』シールドバッシュは、スカッと空振りした。
ドドドドドドドド!!
轟音と共にロケットリュックを背負った外人がりっちょんをマンションの廊下からごぼう抜きにしたからだ。
「アンドレイ、離して、あいつら殺さないと」
「だめデース! このマンション、日本の組織イマース!! 逃げマース!!」
ミハエルのパーティの確か『
というか、何それ?
轟音と共に、りっちょんとアンドレイは夜空に向かって飛んでいった。
「……」
「……」
「だから、長銃くれって言ったじゃんっ!」
「ロシアのロケットリュックだなあ、すげえなあ、実物を初めて見たよ」
『楽園突撃隊』の八郎潟さんが空を見上げて言った。
「ロシア人って頭がおかしい?」
「りっちょん共々だな、くそう、ぶん殴りたかった」
「長銃でロケットマンごと落としたかった」
あんな物、住宅地に打ち落としたら大災害だぞ、チアキ。
縄谷ちゃんが寄ってきた。
この子は『チャーミーハニー』という中堅女の子パーティの『
女子大生ぐらいで背が小さい。
今日はタンクトップに短パンとラフな格好をしているな。
「お疲れ様でーす」
「日本の組織?」
「あーうー、リーダーの所に行きますか?」
「うん、狙撃のお礼も言いたいし」
「弓矢がヒューンと曲がった、あれなに?」
「他言無用でお願いしますね、チアキちゃん」
「あ、はい」
「なんだなんだ?」
それは俺が言いたいよ、ねえさん。