目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第187話 鮫島さんのお部屋にお邪魔する

 鏡子姐さんとチアキを伴って、縄谷ちゃんと一緒にエレベーターにのって四階へ。


 なんか最近似てきた肉食女子二人は口をへの字に曲げて不機嫌そうだ。

 空気悪い。


 『チャーミーハニー』は先日、夜に挨拶に行ったが、若い女性ばっかりのパーティで編成が変だなと思ったものである。

 縄谷さんが『魔術師』、リーダーの鮫島さんが『射手』、この二人に、『重戦士』『軽戦士』『軽戦士』『盗賊』である。

 中堅だというのに回復役が居ないのである。

 ポーション頼みらしいが、なんとなく違和感があった。


 で、今日の【必中】のレアスキルを見て解った。

 このパーティは、鮫島さんの【必中】を当てる為だけに揃えられた感じなんだな。

 前衛は敵を押しとどめ、必殺の一撃が入るまで時間を稼ぐ役割だろう。

 自然に集まった感じがしないパーティなのである。


 鮫島さんの部屋は『イン・ザ・グレイブ』のリーダー、高橋さんの部屋の隣だ。

 縄谷さんがドアを開けて俺たちを招き入れる。


「やあやあ、タカシ少年、いらっしゃい、どうぞどうぞ」

「お、おじゃましまーす」


 鮫島さんは背の小さい人で人相が解らない。

 ゲームの黒魔導師みたいに黒いローブを目深にかぶって顔を隠しているからだな。

 とても怪しい感じだ。


 四階はワンルームでは無くて2LDKの部屋になっていて、俺たちはリビングに通された。


「うわ、なにこれ」

「一面のテレビだ」


 ねえさん、テレビじゃ無い、モニターだ。

 映像はマンションの監視カメラ、路上にある防犯カメラ、あと迷宮のライブ配信が沢山のモニターに映っている。

 マンションの監視カメラ映像はモノクロだった、だから色が解らなかったんだな。


「まあ、どうぞどうぞ」


 鮫島さんはソファーに座り、俺たちに対面の席を勧めた。

 三人で並んで座る。


「どうも、改めて今晩は、『チャーミーハニー』の鮫島です。日本政府の回し者です」

「内調ですか?」

「ないちょー?」

「内閣調査室かな? 日本での諜報組織らしい所」

「いんや、色んな所の寄り合い所帯だよ。私は自衛隊だし、縄谷は公安だし、内調の子もいるし、迷宮管理庁の子もいるよ」

「いろいろな組織から若い女性ばかり集めて寄せ集めてDチューバーにしてる、感じですか」

「そうそう、実は『Dリンクス』の護衛が初任務だったりするよー」

「わりと緩い」


 ねえさんがぼそりと言った。


「まだ日本には『迷宮調査ネットワークDIN』みたいな組織がないからねえ、ちなみに『ホワッツマイケル』のテレサはDINの創始者の一人だ」


 DINはアメリカの迷宮調査研究の機関だ、テレサさんはそこの人なのか。


「実験的に寄り合い所帯を作って、日本の宝である『Dリンクス』をサポートしようって、そういう寸法なのさ」

「さきほどは助かりました。ありがとうございます」

「いやあ、役に立てて良かったよ。自然と正体もばらせたしね」

「あいつ、殴り殺したかったのに」

「あの女はタカシ兄ちゃんを嫌な目で見ていた、女豹の目だ、殺すべき」


 チアキはどこでそういう言葉を覚えてくるんですか。

 忘れなさい。


「あのロシア人達はいったい何なんですか」

「ロシアの陰陽師? みたいなー、ウラジ聖騎士団のやつらよ、あとCBP」


 CBPはロシア対外情報庁の略称で、KGBの後継諜報組織だ。


「目的は『暁』ですか?」

「そうね、あと【サーバント召喚】の解析をして、英雄を沢山呼び出したいみたい」

「自分で出せよなあ」

「自分たちの仲間のレアスキル持ちだともったい無くて解剖とか実験とかできないじゃん」


 うへえ、マジか。


「『吟遊詩人バード』はりっちょんを手に入れたから、あとの狙いは退魔武器を二つ手に入れて『大神降ろし』の実験だろうねえ。いやいや、本国に迷宮が無い国は大変だ」

「なんでうちなんでしょうかね」

「なんでって、退魔武器を二つも持ってるからだよ。さすがに『ホワッツマイケル』から奪うより『Dリンクス』からの方がたやすいと見たんじゃないかな」

「ロシアには無いんですか、その手の退魔武器」

「共産系だった国はオカルトに冷たいのよ。失伝しちゃったみたい。ミハエル博士は必死で残そうとしていたらしいけどね」


 あいつは博士だったのか。

 意外にインテリだった。


「これから、ウラジ聖騎士団の攻撃が厳しくなるけど、がんばってね。おねえさんたちも応援するから」

「応援ですか」

「裏でバチバチやってるけどね。タカシくんたちは日本の誇りだって、お爺さんたちが大和魂を発揮してうるさいからねえ」

「それはどうも」


 日本政府もあまりあてにしたら駄目そうだな。

 とはいえ、味方がいるのは助かる。


「チアキの特別保護が早かったのも、そのせいですか?」

「まあねえ、峰屋さまのご威光もあるけどね」

「あ、ありがとう……」


 鮫島さんはクッションを持ってイヤイヤという感じに振り回した。

 ローブのせいで表情が見えないが、萌えているっぽいな。


「いいのよお、チアキちゃん、私ファンだから」

「あ、はい……」


 チアキがどん引いた。


「あと一名の枠、『僧侶プリースト』か『魔術師ウイザード』を送り込めるけど、どう? タカシくん」


 うーん、実力のある人を送ってくれそうだけど、政府のヒモが付くのもなあ。


「今の所は必要ないです」

「四十階越えると大変よ、考えておいてね」

「お前の所に『僧侶』入れろよ」

「いらないのよ、鏡子さん、うちは大物は【必中】で倒すから」


 やっぱり、単機能パーティか。

 道中の方が大変という編成だな。


「罪獣を作っていたのはロシアですか?」

「そうみたいね、ミハエル博士の伝手でロシアから色々運び込まれたみたい。キキーモラの瘴気液とか、オーガーの肉とか」


 なるほど、ロシアの工作だったのか。

 だからなんか雑だったんだな。


 いろいろ解って来た感じがするな。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?