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第192話 二十二階で迎撃準備をする

 その床にチアキが乗ると、彼女はくるりと方向が変わった。


「……」

「……」

「だめじゃね、これ罠として」

「一人乗ると作動するからねえ、他のメンバーの方向見ていれば元の方向に戻れるし」

「方向おかしくならないわよね、これ」


 床にパーティ全員が乗ってからくるりと回れば良いんだが、それほど融通の効く仕掛けでは無いようだ。


 十字路の真ん中の床パネルである。


『死に罠なんだよなあ』

『間違えないよなあ、マップもあるし』

『三十三階のダークゾーンにある方向チェンジパネル床は評価する』

『慌てて逃げている時とかしか困らないよなあ』


 大迷宮には時々こういう不思議な罠があるのだ。

 踏むたびに方向が変わるのでチアキが一足先に降りて、そっちに降りればいい。

 ちょっと足止めされるぐらいの罠だ。

 二十一階で初めて登場し、二十二階でもある。


 パネル床を抜けてまっすぐ行くと二十二階への下り階段がある。


「二十二階、なんか珍しいの出る?」

「二十一階とほぼ一緒、アシッドスライムがでるね」

「酸を吐きかける奴か、剣で突くと傷むらしいな」


 二十二階に降りた。

 降りた先の安全地帯にトイレが出来ていた。


「わああっ、おトイレ出来たっ!! うれしいっ!」


 男女別で、女性用にはブースが三つ、男性用にはブースが二つと小便器が二つあった。

 なかなかサービスが良いね。


 二十一階を結構探検したので小休止だ。

 岩に座って行動食を食べたり水を飲んだりする。

 チアキがおにぎりを食べているな。

 彼女は日に日にふっくらしてきていて嬉しいのだがほっとくと太りそうな予感もあるなあ。

 今はまだ痩せぎすなので放っておこうか。

 俺はナッツバーを囓る。


「ウラジの嵐が来た、いまポータルで……、二十階、追ってくる」


 Dスマホで配信を見ていた泥舟が声を上げた。

 やはり追って来たか。


「どこで迎え撃つ、タカシ」


 俺はマップアプリで二十二階を確認する。

 迎え撃つのに良い場所は無いか?

 安全地帯で迎え撃つか……。

 いや狭いな。

 長めの通路が良い。

 中央の通路か。

 ワンダリングモンスターに挟まれない事を祈るしか無いな。


 休憩を切り上げて先に進む。


「前方、スライム三、アシッド」


 チアキがヘッドライトでスライムを照らし出した。

 赤黒いスライムがぐねぐねと這い寄ってきている。


「散弾を使う」


 泥舟がスライム弾を弾薬ベルトから取りだし長銃に詰めた。


 バン!!


 発射すると細かい魔法弾が沢山飛び、アシッドスライムをズタズタにした。

 まずは一匹。


 ダキュンダキュンダキュン!


 チアキが拳銃を乱射するが、コアには命中しないで無効弾となった。


 俺とねえさんが残りの二匹に取り付く。


 ビュっと酸の液を吐いてきたが『浦波』で受ける。

 『暁』で切り裂くとあっけなく動かなくなった。

 ねえさんは見えない連打をぶち込んでコアを砕いた。


「スライムに飛び道具はキツイね」

「かといって近接だとあやういな、嫌な敵だ」


 スライムの残骸が粒子に変わり経験値雲が湧く。

 ドロップ品は、魔石、ポーション、呪文スペル【アシッドボール】、スライムところてんが出た。


「ところてん」

「ところてん」

「酸っぱいからかな?」


 わ、赤いところてんだ。

 これは食べたく無いな。


 【アシッドボール】は酸の玉を投げつける魔法だな。

 威力はどんなもんだろう。

 東海林は持ってるかな?


 とりあえず、中央の道をまっすぐ行く。

 長めの直線だ。


「オーガー二、オーガリーダー一」


 ランタンをぶらぶらさせて敵が歩いてくる。

 まだ、こちらには気が付いていないようだ。


「タカシ、アシッドスライムの魔石が欲しい」

「魔石ショットするのか」

「実験にね」


 泥舟は銃口にアシッドスライムの魔石を入れてカルカ棒で突いた。

 片膝立ちになり敵を狙う。


 ダキューン!!


 赤い弾が飛んでオーガーの頭に当たった。

 ジュッと音がして頭が溶け出していく。

 うへえ、威力エグいな。


 残った二匹がこちらに駈け寄ってくる。

 む、オーガーリーダーの髪が銀髪だ。


「ネームドっぽいっ!」

「よし、私の獲物だっ!」


 鏡子ねえさんがガチンと籠手を打ち鳴らして銀髪鬼に向かって走る。

 チアキが残りのオーガーに向けて拳銃を撃つ。

 泥舟もリロードして打ち込んだ。


 鉄砲組の射撃でオーガーは倒れた。

 ねえさんは銀髪鬼と格闘を始める。

 敵は鉄棒を持ってぐるぐる回している。


 ガンガン、ギンギン。


 鉄棒と金時の籠手が打ち鳴らされる。

 ねえさんは低くかがんでアッパーを撃つ。

 土手っ腹に当たって銀髪鬼はかがみ込んだ。


 バク!


 当たった瞬間より少しずれて鈍い音が響く。

 権能[楔]だ。

 銀髪鬼の背中が弾けた。

 ねえさんは足を刈り転ばせた所をヘビのように巻き付いて首を折った。


 バキン!!


「なかなか強かった」

「ネームド『銀髪鬼』だ」

「そのまんまだ」


 オーガー達が粒子になって消えて行く。

 ドロップ品は、魔石と、楽譜スコア【オラオラどけどけの歌】、おにぎり、そして鬼の面だった。


「おにぎり大きい」

「具は鮭だ」

「鬼おにぎり」


 鬼の面は怖い鬼のお面だった。

 民芸品風である。

 装備品かな?


『『鬼の面』じゃな、スキル【威圧】が付いておる』

『威圧は良いな』


 鏡子ねえさんがさっそくかぶった。

 うん、鬼の面だな。


「おらっ、くらっそ、コラ!!」


 おお、なんだかコワイ。

 【威圧】されるな。


「【オラオラどけどけの歌】ってなんだ? みのり」

「恫喝の歌ね、ちょっとびびって攻撃力が落ちるの」

「デバフ歌か」


 全員に効くので使い方が難しいな。


「覚えてるのか?」

「持ってるけど覚えてなーい」


 なるほど、売ってしまうかな。


「タカシ、銀髪鬼の魔石を持っておくよ」

「なるほど、ウラジの嵐相手に……」

「まあ、念の為」


 俺は煙幕玉と爆裂玉を泥舟に五個ずつ渡した。


「ここで迎え撃つのか?」

「そう、左右に通路があるし、二十一階からだと、前方にしか出られないからね」


『ウラジの嵐が追って来てるのか』

『ロシアは話通じないからな』

『『暁』狙いか、大変だな』


「りっちょんぶっ殺す!」


 いや、ねえさん『鬼の面』をかぶったまま恫喝しないでくれ。

 コワイから。

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