「売店にマジックポーションは売っているかな」
川崎に向かう電車の中で東海林がそんな事を聞いてきた。
今日の奴は大きめの杖を背中にしょっての
「売ってるんじゃないかな、ヒールポーションとキュアポーションは高値で売れるけど、マジックポーションを使うのは『
「それは助かる」
「うちのをやろうか?」
みのりがMP切れになると『Dリンクス』の戦闘力が下がるから、マジックポーションは収納袋に三本ほど用意してある。
「いや、良いよ、同盟パーティとはいえ、そこまでお世話になると心苦しい」
「今日は先生達の介添えだから、そんなにMP要らないと思うけど」
「『ドラゴンファイアー』を試してみたいんだよ。一発撃ったらMP切れるから、ポーションで補充しないと、【ファイヤーボール】も撃てなくなるからさ」
「マジックポーションは常備してないのか?」
「これまでは、そんなにMPがすっからかんになる事は無かったからね。あと、あまり出る物じゃないし」
あ、一般パーティーだとあまり出ないのか。
『Dリンクス』が出過ぎだよな。
普通に戦って、ほぼ全種類がドロップするからなあ。
「今日も四階だっけ、どれくらいの威力か解らないから困るね」
「それもあるね、竜のブレスと同じ威力、同じ範囲らしいけど」
「ロシアの人は一瞬で二人も焼け死んでいたからね」
「ミハエルの魔法盾が無かったら一撃で全滅していたと思うな」
「二十階のゴブリン軍団をワンパンできるかな?」
「できるかもなー」
今日もみのりはマリアさんとレッスン、鏡子ねえさんはボディガード、俺たちは先生の付き添いで、放課後迷宮活動だ。
一応一日おきにお休みという事になっているが、なんだかんだで毎日迷宮に潜る生活は変わらない。
「チアキと泥舟は五階か?」
「イエース、【気配消し】と【気配察知】と【平衡感覚】を磨くのだぜ」
チアキはカウボーイハットを人差し指でずらしてクールに宣言した。
「僕も【気配消し】欲しいな、あと【狙撃】」
「私は私は【射撃】欲しいっ」
欲しいスキルに向けて努力するのは良いね。
良いスキルが手に入ると生存率が上がるからね。
俺も、回避系スキルと盾系のスキルが欲しいな。
「みんな頑張っていて良いな」
「頑張るとスキルの形で報われるのは良いよな、新宮」
「パラメーターも大事だけど、スキル勝負な所もあるからな」
「みんな、夢に向かって努力していて素晴らしいです」
マリちゃんがニコニコしながら言った。
「そういや、マリちゃんのイラストバズってたね」
「そうそう、私の、尻尾付きでムカデ鞭でスパイディしてる絵! 可愛かった」
「いえいえ、チアキちゃんが可愛いから、おかげさまでバズリましたよ」
「あれは可愛かった」
「今度アクリルスタンドにして売りだそう」
「売れるかしら」
「もー、マリ姉ちゃんの絵なら売れるよっ! 『Dリンクス』マークも売れてるでしょっ」
「あ、あれは皆さんが凄いからで」
マリちゃんは自信が無いなあ。
『Dリンクス』ワッペンは凄く売れているし、あのマークを使ったトートバックとかTシャツとかかなり売れているらしい。
この前、サンプルの物がたくさん来た。
今、俺のジャージの下に着ているのも『Dリンクス』Tシャツだ。
生地がしっかりしていて着心地が良い。
京急川崎に着いたのでみんなで下りる。
いつものように街を歩いて複合施設を目指す。
「きゃあっ、タカシくんよっ!」
「泥舟くんも、チアキちゃんもいるわっ!」
「素敵ねえっ」
Dチューバーの追っかけのお姉さん方に捕捉されてしまった。
だが、相手にするとDチューブに動画を上げられたりするので、要注意なのだ。
エスカレーターに乗り陸橋を渡って地獄門がある広場へと入る。
お、テレビの中継も来てるな。
ひょっとして『Dリンクス』狙いか、と思ったが、『ホワッツマイケル』の奴らが通っているのをカメラが撮っていた。
あっちか。
世界一だもんな。
ええと、先生方は、あ、居た居た。
宮川先生が手を振って居たので、そっちに向かう。
「やあ、今日も頼むよ」
「よろしくお願いします」
「こんにちは。ドラゴン凄かったねえ、昨日」
先生方が口々に挨拶をしてきた。
「今日もよろしく。俺と東海林が見てますので」
「山南くんとチアキちゃんはまた射撃練習かい?」
「そうだよ、先生」
「私たちと一緒なのは方喰さんね」
「よろしくお願いしますっ」
挨拶をしていると、マイクを持ったレポーターが割り込んで来た。
「ドラゴンスレイヤーのタカシくんだよね、ちょっとコメント良いかなあ」
「あ、そういうのはちょっと」
「今日は狩りなの? 世界の人気者になった感想は?」
「あ、いえ困りますので」
しつこいレポーターだな。
鏡子ねえさんがいたら【威圧】して貰うのに……。
お、そうか。
俺は収納袋から『鬼の面』を出してかぶった。
「え、なにそれ?」
『うっせえってんだよっ、学校の先生の狩りだ、邪魔すんなっ!!』
「ひええええっ」
レポーターは腰を抜かして恐怖におののいた。
【威圧】が利きすぎたか。
みれば周りの人達が全員ドン引きしていた。
う、【威圧】やべえ。
「それでは失礼~」
俺は『鬼の面』外して、チアキとマリちゃんの手を引いて地獄門をくぐった。
「ああ、びっくりした、【威圧】コワイね」
「全員に掛かるんですねえ、呪歌っぽいスキルですね」
「ちょっと効果が効きすぎたよ」
「レベルアップでパラメータが上がってるからだな、というか新宮は元々精神値が高そうだし」
そうか精神値で発動するから効いたんだな。
「びっくりしたわ、でもマスコミはうるさくて嫌ね」
「タカシ君は正しいと思うね」
「そうだな、新宮は正しいな、マスコミは無作法すぎる」
とっさに使ってしまったが、『鬼の面』は、ねえさん専用にしておこう。