轟音と煙に惹かれて配信冒険者パーティが駈け寄って来た。
呆然と空になった池を見ていた。
「池の中にも、魔物はいたのね」
「下はドロなので、中に入ると危ないですね」
そう言いながらマリちゃんは魔石をムカデ鞭で拾っていた。
迷宮の森は難燃性なのか、火は移っていなかったが、効果範囲の木々は灰になっているな。
凄い威力だ。
東海林が震える手でマジックポーションを飲んでいた。
「ま、魔法って凄いですねえ」
「範囲が広すぎて逆に使いにくいかもしれません」
「小部屋で使うと自滅するタイプの魔法ですわね」
池の周りが野次馬で一杯になった。
「さ、次の宝箱に行きましょう」
「そ、そうね」
「そうだね」
「いやあ、とんでもないねえ」
気を取り直して場所を移動する。
四階は平原半分、森が半分だ。
次の宝箱を目指して移動しながら狩りをする。
四階だと出てもゴブリン二匹なので対応は楽だな。
次の宝箱も空である。
四階は駄目かもなあ。
ゴブリンが二匹出て来て、麻痺水鉄砲で動けなくなった所で、宮川先生と竹宮先生に倒される。
もう、竹宮先生もゴブリンをメイスでどつくのに慣れたようだ。
「【パラライズボール】の魔法とか良いかもなあ」
「東海林はフロアボスまで何もしないでMPを温存しろ」
「それは、嫌だなあ。でも効率を考えるとそうなんだよなあ」
「規格外の魔法でどんどん追ってこい」
「次の土曜日は二十階フロアボスチャレンジかな」
「うちは三十階にチャレンジだ」
「『Dリンクス』なら行けそうだね」
「『オーバーザレインボー』も行けると思うぞ」
「もうちょっとレベルを上げ無いとね」
レア頼りで急いで深い階の攻略をすると事故の元だからね。
東海林は地道でやっぱり良いな。
体を暑さ寒さに合わせるように、配信冒険者もレベルとスキルを階層に合わせないとな。
ちょっと時間が経ったので、五階への階段上の安全地帯で小休止だ。
なんだか、今日は四階が混んでるな。
配信冒険者たちがひっきりなしに上がってくる。
「四階中央池の水をぜんぶ抜いた奴がいるらしいぜ」
「ど、どうやって?」
「魔法でドンだってよ、見に行こうぜ」
その魔法を使った男は隅っこでスニッカーズを囓っていますが。
池を見に行く奴らが集まっているのか。
マリちゃんが【ドラゴンファイヤー】を使っている東海林の絵をスケッチブックに描いていた。
「いいねえ」
「あの魔法は衝撃的でした」
「多分、最高クラスの呪文じゃないかな」
『ティルトウエイトだ』
『ベギラゴンだ』
『ファイガだ』
さて、狩りを続けますか。
みんなで歩いて、次の宝箱の場所へ。
やっぱり無いねえ。
と、思ったら、いきなり目の前に宝箱がポップした。
「「「「「おおおおお」」」」」
時間がランダムだから、こういう事もあるねえ。
俺はチアキに電話をかけた。
『なになに、タカシにいちゃん』
「宝箱が出たので開けにきて」
『おーー、了解!』
出た奴をキープしているのは占有に入らないのかな。
どうなんだろう。
「宝箱って出るんですね、初めてです」
「木箱だから、あまり良い物は入って無いかもしれませんね」
「でも、ワクワクしますな」
「宝箱宝箱」
そう言いながら、マリちゃんは宝箱をスケッチした。
チアキと泥舟が走ってやってきた。
「やったねー」
「運が良かったよ」
「みのりねえちゃんだけじゃなくて、タカシ兄ちゃんも運の何か入ってるんじゃない?」
「いや、そんな事はないだろう」
俺の運のステータスは普通だ。
みんなが見守る中、チアキがカチャカチャやって宝箱を開けた。
『何が出るかな何が出るかな』
『宝箱は開ける前が一番楽しいよな』
『同感同感』
ギイと音を立てて開いた中に入っている物は……。
「ヒールポーション三本、まあまあだね」
「なにげに実用品だね」
「外に売ると高いですよ」
「持っていましょう、腐る物ではないですし」
「そうですね、私のMPが切れる事もあるでしょうし」
ポーションは念の為持っていた方が良いね。
「池が干上がったって噂を聞いたんだけど」
「東海林の【ドラゴンファイヤー】の魔法の仕業だ」
「そんなに凄いのっ」
「わあ、見たかったな」
「後で動画で見ればいい」
チアキと泥舟を交えてうろうろと四階狩りをした。
泥舟が望月先生の錬金薬銃の射撃姿勢を指導したりする。
「四階はのんびりしているね」
「そろそろ五階に行くかな」
「次回ぐらいからだな、問題は六階からだが」
「今でも半グレは居るのか?」
『割と居る』
『たまり場が必要な人種だからなあ』
『占有無くなったから大分減ったが、その替わりに回遊半グレになってるな』
無用なトラブルは避けたいのだが、どうした物かなあ。
半グレの話をしてたら、チアキが体を寄せてきた。
頭を撫でてやる。
まだ、何か嫌な思い出があるのだろうな。
大丈夫だ、俺が付いてるから。
空がどんどん赤くなってきた。
うん、これがあるから三階四階五階はいいね。
なんとなく、子供の頃の夕暮れを思い出すな。