さて、今日の狩りも終わりだ。
みんなで階段を上がって行く。
「次回は五階にしましょうか」
「そうだね、四階は安定した感じだ。望月先生の麻痺水鉄砲は良いね」
「動きが止まれば雑魚ですものね」
「いやあ、好評でうれしいです」
望月先生はにこやかに笑った。
「マリねえちゃんはレベル上がった?」
「上がりましたよ、二つ」
「やったねえっ」
「東海林くんのお陰です」
マリちゃんが東海林を拝むと、奴はちょっと照れた。
「自分でもあんなだとは思わなくてね、びっくりだ」
「チアキはどうだ?」
「体軽いし、鏡子みたいに樹から樹へ飛び移るのが出来たよ」
チアキの『竜の尻尾』が自慢げに揺れた。
『機動力のある『
『レベルが上がったから射撃も当たるようになったな』
『スキルが生えてから本番だな』
コメントが手首上のウインドウを流れて行く。
「タカシはどう? 『軽戦士』は?」
「動きやすくなったけど、まあ、あんまり変わらないかな」
「それは良かった」
みんなじわじわと強くなってきているな。
次の土曜日で三十階フロアボスまで行けるかな。
因縁のミノタウロスだけど、俺はあの頃の俺じゃないからな。
がんばろう。
一階のロビーに着いた。
先生方は換金カウンターに並ぶ。
マリちゃんが池から魔石を沢山サルベージしていたから結構になるかな?
「はい、六千四百円になります、どうなさいますか?」
「四人分けで、三人分は『臨海第三ティーチャーズ』の口座へ、一人分は方喰さんへ、どうする、現金で貰う?」
「口座に入れてください」
「かしこまりました」
換金カウンターの女悪魔さんがちゃっちゃと手続きを取った。
振り込みだと楽だね。
今日は誰も悪魔教会へ行く用は無いね。
みんなジョブチェンジしたからさ。
「さあ、今日も奢るよ、タカシくん」
「いつもすいません」
「何を言っているの」
「何を言っているんだい」
「何を言うのか、『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』が付いて来てくれているだけで配信料が沢山入るのだ、奢らせてくれたまえよ」
「はあ」
なんだか、最近お金の感覚がおかしくなるよなあ。
一日の配信で何十万も入るからね。
そろそろ、税金の心配とかした方が良いだろうか。
……。
なんか、ロビーの雰囲気がおかしいな。
なんだろ。
全体的に怯えているというか。
「よお、タカシ」
……。
なんで、レグルスさんがロビーに居るのっ!!?
しかも人間大でちっさっ!!
昨日激闘の末に倒したレッドドラゴンが小さくなって居る。
しかも、ロビーのソファーにちんと座って、ムカデ飴とか、カエル饅頭とか、売店で買えるお菓子を山のように積んで、もっしゃもっしゃと食べておられるっ。
「レグルスさん、なんでロビーに居るんですか」
「【サイズ変更】のスキルを魔王からわびで貰ったから登って来た、120階は誰も来ないから暇でなあ」
それでロビーに出て来たのか、迷惑だなあ。
女悪魔さんも眉をひそめてレグルスさんを見ているぞ。
「人間のお菓子は美味しいな、わはは」
ガチャピン大になったドラゴンさんはご機嫌であるな。
他のみんなは、と思って振り返ると、遠くに居る~~!
こっちをこわごわと見ているな。
「お、ちんまいのがいるな、今日は空手女とみのりんとおばちゃんは居ないのか」
「みのりは歌のレッスンに行ってるよ、鏡子ねえさんはボディガード、かーちゃんは俺のサーバントだから呼び出さないと出ない」
「そうかそうか、みのりんも華があって良い『
「それはそれは」
自分のフロアにAV機器を持ち込んだのか。
ニートドラゴン一直線だな。
チアキと泥舟がおそるおそる寄ってきた。
「こここ、こんにちは、レッドドラゴンさま」
「ど、ど、どうも」
レグルスさんは目を細めニッカリ笑った。
歯が尖っててコワイ。
「おお、鉄砲男とちびっ子だな、ワシは『暴虐竜帝レグルス』だ、よろしくなーっ」
「泥舟と申します」
「チアキれす」
「おう、座れ座れ、わははは」
傍若無人だな、レグルスさんは。
「サイズが小さくなれると色々な所に入れて便利だな」
「それは良かったですね」
チアキと泥舟がソファーに座った。
「人語喋れたんですね」
「古竜だからな」
「オーラが凄い……」
「うむ、ちびっ子、良くわかってるな、わはは……」
遠くから矢が飛んで来てレグルスさんの頭にカンと当たった。
「「「……」」」
「ぐ、『軍隊殺し』しょ、勝負だっ!! お、俺たちも池の水を全部抜くレアスペルを出すんだ~~~っ!!」
どこかの中堅配信冒険者パーティがそう宣言した。
『ば、馬鹿じゃねえのかっ!!』
『小さいレグルス陛下は軍隊を一蹴するんだぞっ!!』
『ぐわー、中堅パーティ死んだ~~!!』
レグルスさんが立ちあがった。
「せっかく楽しくタカシたちと話していたのに、邪魔が入った、すぐ焼き殺してくるからな」
「お、お手柔らかに」
「「……」」
ずんずん歩くレグルスさんの前にサッチャンが立ち塞がった。
「レグルス陛下、ロビーではブレス禁止です、電子機器が多いので」
「むっ、パンチやキックは?」
「それはご自由に、思う存分やってくださいませ♡」
「おう、行ってくる」
ぐおおおと、吠えてレグルスさんは空を飛び、中堅パーティに襲いかかった。
ナムサン。
まあ、悪魔教会がすぐそこだから死んでも大丈夫大丈夫。