レグルス陛下が血みどろになって帰って来た。
コワイ。
中堅パーティは死体になって悪魔教会へと女悪魔さんが運んで行った。
蘇生させんのかね?
借金負わすのかな。
「それでは、レグルスさん、僕たちはこのへんで」
「そうか、残念だな、また会おう、タカシ」
みな、こそこそとロビーを離れようとした。
レグルス陛下は血まみれでソファーに座ろうとして女悪魔さんに止められ、タオルで拭かれていた。
みな妙に黙って地獄門を目指す。
触らぬ暴虐竜帝に祟り無しだ。
『見ない振りしてる~~』
『まったく、レグルスには困ったものじゃなあ』
『陛下って事は、迷宮とは違う系統なのかな』
『竜の国の皇帝じゃ、まあ竜はみんな気ままなので国家という感じでもないがの』
余さんは何でも知ってるなあ。
息を止める感じで地獄門をくぐった。
振り返って、リボンちゃん達に手を振る。
「「「「「ぶわ~~」」」」」
全員で太い息を吐いた。
「ド、ドラゴンさんとロビーで会うとは思いませんでしたわ」
「人間大なのに凄い迫力だったねえ」
「人の良いヤクザのおっさんみたいな感じだった」
「まあ、喧嘩をふっかけなければ襲っては来ないでしょう。迷宮教会の神父さん役の悪魔さんたちみたいな物だから」
「びっくりしたねえ」
まったくです、望月先生。
広場のベンチで装備を外して収納袋へとしまう。
先生方の装備も預かっておく。
「さて、晩ご飯はどこに行きましょうか、チアキちゃんはどこがいい?」
「モ、モナリザン」
「そうね、宮川先生どうですか」
「行きましょう、ドラゴン目撃記念です」
「あはは、良いですね」
良くわからない記念だけど、あそこは美味しいから俺としても賛成だ。
皆で川崎駅の中央通路を歩く。
夕方だからサラリーマンの往来が激しいね。
東口の方からみのりがでででと駆けてきた、鏡子ねえさんも一緒だな。
「タカシくん、タカシくん、ドラゴンさん出たのね」
「会いに行こうぜ、タカシ」
「やめなさい」
会ってどうするというのだ。
「今日はマリアさんとキャシーは一緒じゃないんだ」
「あの二人は『ホワッツマイケル』の会合に行くって。私たちは『Dリンクス』の会合だよ。東海林くんっ、【ドラゴンファイヤー】凄かったね、動画で見たよ」
「いやあ、あそこまでとは思わなかったよ」
「ネットで『池の水を全部抜く東海林』って二つ名が付いてたよ」
「な、長い」
「すげえ魔法だよなあ。これで『オーバーザレインボー』も、うちに追ってこれるな」
俺たちは歩きながら話をした。
「そうですね、今度の土曜に二十階を目指しますよ」
「よし、俺らは三十階をめざすぞっ」
「途中に墓地ゾーンがあるからなあ、どうかな?」
「とりあえず行って見て、キツいようなら引き返そう」
「オバケ、でますか?」
「出るよ、みのり。夏のDアイドル特番でおなじみのアンデット階だ」
「ひいっ!」
迷宮の二十五階、二十六階は墓場を模した階になっていて、ゾンビやグール、マミーにバンパイヤが出る場所だ。
「僧侶の【
「魔法武器なら通るから、『金時の籠手』でも通るだろう」
「魔拳銃、魔長銃も魔力弾攻撃だから通ると思うよ」
階段を下りて、さらに地下に階段を下りるとアゼリア地下街だ。
階段途中の仕掛け時計は壊れたままである。
アゼリアはかなり広い地下街で、飲食店、服飾店、沖縄産物店などが入っているが、川崎東口のあちこちに連絡するのにもよく使われる。
「お、ドラゴンスレイヤーの『Dリンクス』だ、学校の先生の介護狩りの帰りか」
「『イケヌケの東海林』も居るぞ」
その略し方はいかがな物だろうか。
まっすぐにどんどん歩いて仲見世通り方面出口から地上に戻る。
タワラヤの前あたりに出るのだ。
商店街を歩いて路地に入り、ちょっと行くとモナリザン本店がある。
まだちょっと早い時間だから、お店は空いていて全員入れた。
「チアキはここ好きなんだ」
「うん、初めてお店でナポリタン食べれたから」
くっそう、半グレどもめ。
外食ぐらい連れて行けよ。
でも、最初の頃に比べるとチアキも明るくなったし、ちょっとふっくらして綺麗になったな。
「そろそろ、チアキちゃんも小学校に行くのよね」
「う、うん、来週ぐらいから……」
「チアキちゃんは良い子だから、すぐ友達が出来るよ」
「う、うん……」
不安そうなチアキの頭を撫でてやる。
「大丈夫だ、チアキは優秀だから」
「ありがとう」
「虐める奴がいたらぶっとばせ」
「そうするっ」
鏡子ねえさんは教育に悪いなあ。
「学校までの護衛は? タカシ」
「やっぱり要るよな」
「ロシア人に捕まって人質にされると困るよ」
そうだなあ、どうしようか。
「私がみのりを高校に送っていって、そのついでに送って行くよ」
「それが良いかもな、おねがいできるかな? 鏡子ねえさん」
「まかせとけっ」
『こちらでもガードしますので、ご安心ください』
うおっ、耳元で縄谷ちゃんの声がして、俺はビクンと飛び上がった。
振り返ると、離れたテーブルで『チャーミーハニー』さんたちが居て小さく手を振ってた。
うん、チアキが小学校に居る時はチャーミーさんたちに頼むか。
なんかちょっと不安だけど。
あと、鮫島さんはあのフードとマスクでどうやってご飯を食べるのだろうか。