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第210話 二十三階でオルトロス狩り

 さて、噂のワンコ階だ。

 なんとなく犬臭い気がする。


 チアキを前にして、そろそろと進む。

 犬は耳が良く鼻も利く。

 人型よりも遠くからこちらに気が付くだろう。


「でっかい犬一、頭が二つ、オルトロス」


 いきなりオルトロスである。

 チアキが下がって迎撃準備。

 向こうもこちらを認識したのか、凄まじい速度で通路を駆けてくる。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 目に見えて速度が半減した。


 バキューン!!

 ドキュンドキュンドキュン!!


 鉄砲組の魔力弾が発射された。

 泥舟の弾丸が片方の頭を打ち抜いた。

 威力が強い。

 チアキの弾丸も胴体、足に当たった、一発はハズレだ。


 死んだ頭をぶらぶらさせながらオルトロスはこちらへと全速力で駆けてくるが、【スロウバラード】が掛かってゆっくりだ。


 バキューン!!

 ドキュンドキュンドキュン!!


 再び斉射、オルトロスは銃弾を受けてぱったりと倒れた。


「意外になんでもない」

「『多人数殺し』出た時は怖かったのにね」

「それだけ私たちも強くなっているという事だ」


 そうかもしれない。

 あれから結構レベルが上がってるしね。


『オルトロスが銃撃に倒れた』

『遠距離が強いと良いね、近接だと結構つらい、火を吐くし』

『まあ、どっちにしろ【スロウバラード】がチート』


 オルトロスは魔力の霧になり、魔石とドロップ品を落とした。


 ドロップ品は……。


「かわいいっ!!」

「私にちょうだいっ!」


 大きめのオルトロスぬいぐるみであった。

 チアキとみのりが取り合いをして引っ張っている。


『おお、新作のぬいぐるみシリーズじゃ、もう出たか』

『うわ、凶悪なモンスなのにぬいぐるみは可愛い』

『新橋のラブリーぬいぐるみ工房という所の作品じゃ、お店に行けば売っておるぞ』

『わあ、買いに行こう』


 チアキがオルトロスぬいぐるみを抱きしめてご満悦である。


「部屋に飾るんだ~~」

「じゃあ、チアキの戦利品にしよう、収納しておくよ」


 チアキは名残惜しそうにオルトロスぬいぐるみを俺に渡した。

 おお、ふわふわで良いな。

 収納袋に入れた。


「わたしも欲しいよう」

「また出せばいいよ」

「そうだね」


 女子にぬいぐるみは大人気だな。


 探検を進めよう。


「ちょっと先の小部屋に宝箱があるね」


 泥舟がスマホでマップをチェックしながら言った。

 行ってみた。


 チアキと俺が戸口で気配をうかがう。

 なんか、居るな。

 気配がする。


「居るね」

「五匹、布がこすれる音、人型だな」


 この階の人型だと何だろう。


「みのり、【オバケ嫌いの歌】を準備、マミーかもしれない」

「マミーさん、ぬいぐるみ出るかな」


 マミーのぬいぐるみが欲しいのか?

 女の子の趣味は解らんな。


 チアキが扉の横に付いた。

 俺と鏡子ねえさんが扉の前で構える。

 泥舟は俺たちの後ろだ。


「『突撃チャージ』」


 ジャキーンと銃剣が回転して開いた。

 格好いい。


 チアキがドアのノブを持って開いた。


 バーン!


 中に居たのは配信冒険者グループだった。

 宝箱の前で盗賊らしき男が作業していた。

 こちらをみて、皆、目を丸くしていた。


「お、俺たちが見つけた、んだ、ぜ?」

「すいません、魔物かと思いました、横入はしません」


 配信冒険者パーティはあからさまにホッとした感じになった。


「あっ、『Dリンクス』だ、もう二十三階まで来たのね」

「はええなあ」

「生タカシ君だ、あはは」

「失礼しました、ごゆっくり」


 俺たちは立ち去った。


『『川崎タン麺』ってパーティのようだな』

『なんだ、その名前』

『タン麺屋さんでバイトしてる集まりだって』


 極地的なパーティ名だな。

 今度食べに行ってみよう。


 気を取り直して先に進む。


「『収納ストレージ』」


 ジャキっと銃剣は畳まれた。


「あんまり銃剣は使って無いな」

「大体銃撃で用が足りるし、撃ち漏らしたらタカシと鏡子さんが片付けるからね」

「部屋での戦闘だと銃剣は頼りになりそうだな」


 接近戦だと長い銃は取り回しが悪いからね。


「オルトロス一、ヘルハウンド二」


 チアキがワンコの群れを見つけた。

 T字路を横切る形なのでこちらにはまだ気が付いていない。


 泥舟が長銃を構えた。


 バキューン!!

 ダキュンダキュン!!


 泥舟がヘルハウンドの頭を吹き飛ばした。

 チアキの銃弾もオルトロスに当たる。


「ぎゃわわわん!!」


バウバウと吠えながら、オルトロスとヘルハウンドが走ってくる。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 目に見えて速度が下がる。

 泥舟が銃撃で、ヘルハウンドを落とした。

 チアキの銃弾はオルトロスに吸い込まれるが倒すには至らない。


 泥舟がもう一撃、オルトロスの心臓を打ち抜いたのか奴は倒れた。


 鉄砲便利だなあ。


「ぬいぐるみでろ~~」


 ドロップ品は、魔石と、ヘルハウンドホットドッグ、犬耳イヤーウオーマー(耐火+10)、オルトロスジャンパーであった。


「格好いいジャンパー」

「だが、これから夏だから、冬にならないと着れない」

「収納袋に入れて置こう、また全裸の人に渡せるかもしれない」


 そういや前のアタックドックスタジャンは白虎くんにあげたんだっけか。


 来た道の方から、『川崎タン麺』の人達が駆けてきた。


「逃げろっ!! 『Dリンクス』!! ケロベロスだっ!!」

「早く逃げてっ!!」


 奧の方からオルトロスよりも大きい三つの頭の犬型モンスターが現れた。


「貰っていいかい?」

「ば、やれんのかっ! 逃げた方が良いって」

「まかせろー」


 鏡子ねえさんがニヤリと笑って前に出て『金時の籠手』をガチンと打ち鳴らした。

 『川崎タン麺』は先の方に逃げ出した。

 もう少し行くと下り階段の安全地帯があるからだな。


 泥舟が銃を構える、みのりがリュートを鳴らし始める、チアキの気配が薄くなった。

 俺は『暁』と『浦波』を構えた。


 さあ、ネームド戦だ。

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