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第211話 ケロベロスと激闘

『二十三階のネームド『片靴下』じゃ』

『あー、確かに片足だけ白い』

『誰のネームセンスだよ』


 片足が白いケロベロスは、天に向けてギャオーンと遠吠えをして走って来た。


「泥舟、オルトロスの魔石を撃ち出せ」

「わかった」


 俺が投げたオルトロスの魔石を空中でキャッチして泥舟は銃口に詰めてカルカ棒で突いた。


 ケロベロスはこちらに向けて疾走してくる。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 【スロウバラード】は不発、速度が変わらない。

 三つの頭でバウバウと吠えながらケロベロスは近づいてくる。


『【咆吼】に注意! 一度食らうと連続で吠えられて動けなくなるハメがあるぞ』

「咆吼の気配があったら、その場から待避! 効果範囲は狭い」

「オーケー」


 鏡子ねえさんがニヤリと笑いながら言った。


 ダキュンダキュン!


 チアキの乱射が当たっているが効いていない。

 表皮が硬いのか、魔力抵抗か。


 ズドン!


『ギャオーーン!!』


 犬の鳴き声と共に魔石弾が発射された。

 ケロベロスは避けようとしたが、右の頭に当たった。


 GYAAAAAAN!!


 奴は後ろにひっくり返り、右の頭が破裂し吹き飛んだ。

 さすが、魔石弾、威力が段違いだ。


『魔石弾すげえ、大砲か?』

『石のエネルギーを破壊力に変えるでな』

『コストも高い、オルトロスの魔石は換金所で三万超えるだろ』


「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」


 俺たちはハイパーミントを口に含んだ。

 多少ケロベロスの動きが鈍くなる。


「きああいいりぃあああるぅぅっ!!」


 鏡子ねえさんの目が赤くなる。

 【狂化】バーサーク状態だ。

 ガチャリガチャリと『金時の籠手』が第一段階に形状を変える。


 ケロベロスがひゅうと息を吸い込んだ。


「【咆吼】!!」


 Gowaaaaaa!!!


 俺とねえさんはとっさに前転をして位置を変える。

 泥舟がバックステップした。


 【咆吼】の狙いは……。


 みのりだった、彼女はすくみ上がって呪歌が止まった。

 チアキがタックルをする勢いでみのりを突き飛ばし一緒に転がった。


 Gaooooon!!


 二発目は不発。


 鏡子ねえさんが距離を詰める。

 俺も後に続く。

 生きている頭を一人ずつ担当する。


「ひぃやりああああるぅううっ!!」


 不思議な節回しでねえさんはひしり上げて見えないパンチを放つ。

 敏捷性が高い。

 ケロベロスは素早く避け、ねえさんに噛みつこうとした。

 ねえさんの立ち位置が弧を描いて変わり回し蹴り、胴体に入って巨体がずれる。


 俺は『浦波』で噛みつき攻撃、爪攻撃を受けて肉薄し『暁』を突き刺そうとしたが、ぬるりと避けられた。


 素早い奴だ。

 機動力を刈るか。


 靴下状の白い部分に沿うように『暁』を振る。

 とっさに避けられたがねえさんが前足を掴んだ。

 抱え込むようにしてねえさんはねじる。

 口がガバリと開いて火を吐いた。

 が、ねえさんは前足を離して転がった。


 頭が二つあるだけあって、判断が速いな。

 先に一つ殺しておいて良かった。


 噛みついて来た口に『浦波』でシールドバッシュ。

 牛のような巨体なので微動だにしない。


「【オカン乱入】」


 ケロベロスの背後に、かーちゃんを召喚した。


「お、ケロベロスやないかっ、そんな深く潜ったんか?」


 暢気な事を言いながら、かーちゃんは丸盾でシールドバッシュして肉薄した。


「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 再びみのりが【スロウバラード】を奏でた。

 おっ、効き始めた。

 そうか、頭が三つだから抵抗値も三倍だったのか?


 とりあえず楽になった。


「いっくでー! 【輝く戦棍】シャイニングメイス!!」


 かーちゃんのメイスが白く輝いた。

 残光を残し、ケロベロスの尻に直撃し、腰を割り砕いた。


 ドカーン!!


 GYAAAAAAN!!


 悲鳴を上げてケロベロスはひっくり返った。

 倒れる動きにヘビのように沿って、ねえさんがケロベロスの大きな頭をかかえた。


「きゃりありあああぁぁるううっ!!」


 バキン!


 真ん中の頭も首を折られて死んだ。


 俺は体当たりをするようにして、左の頭の喉に『暁』をぶち込み、切り上げた。

 ざあっと血が噴き出して、首が半分もげたようになり、ケロベロスは動きを止めた。


 ふう、【スロウバラード】が掛からないと強敵だな。


『かーちゃん、久しぶりに狩りで見た』

『やっぱ、決め手は、かーちゃんだよなあ』

『ボス戦とかでないと最近は出さなかったからなあ、タカシたちも強くなってきたから』


 かーちゃんはニコニコ笑っていた。


「なんや、いつの間に三十階越えたんや」

「ここは二十三階だよ、これはネームドレア」

「あ、そうか、ええもん出るで」


 そうだと良いけどね。


「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪ れいせいにれいせいになれ~~♪ クールになれ~~♪』」


 みのりの【冷静の歌】で、鏡子ねえさんの【狂化】バーサークが解けた。


「かーちゃん」

「おかあちゃんっ」


 鏡子とチアキが、かーちゃんに抱きついた。


「ごめんなさい、【咆吼】に掛かっちゃった」

「敵は一番弱い部分を狙ってくるからな、注意して。【咆吼】は少しずれると効かないから」

「わかったよう」


 ケロベロスの巨体が粒子になって消えて行く。

 そのうち、オルトロスみたいに、ケロベロスも楽勝になるのかね。

 かなりの強敵だった。


『まあ、ミノタウロスよりも強いからのう、逃げるのが定石じゃ』

『ハラハラした~』

『しかし強くなったなあ』


 ごろんとメロンみたいな魔石とドロップ品が落ちてきた。

 ドロップ品は……。


『オーブ箱だあああっ!!』

『やったなあっ、なんだろなんだろっ』


「ケロベロスぬいぐるみじゃない……」


 いや、チアキはどれだけぬいぐるみが欲しいのだ。


「武技スキルオーブだといいなあっ!」


 俺は宝石箱みたいな、レアオーブ箱を開いた。

 リボンちゃんが寄ってきてネームカードを撮す。


「従魔創造の珠?」

『『『『『は?』』』』』

「「「「は?」」」」


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