「わんわんっ!!」
尻尾をブンブン振ってくつしたは上機嫌のようだ。
チアキ、みのり、鏡子ねえさんが取り付いてモフモフを堪能している。
女の子はなんでモフモフが好きかな。
「もどれ、くつしたっ!」
「わおんっ」
チアキが命令すると、くつしたはビリヤードの玉ぐらいの大きさの珠に入って姿を消した。
「「「「おおおおお」」」」
「いでよ、くつした」
チアキが珠を投げると、ぼわんと煙と共にくつしたが現れた。
「便利ね!!」
「カプセル従魔だ」
「この階でもっとケロベロスを狩って【従魔創造】の珠を出そう。次はドラゴン、その次はアイアンゴーレムで」
「三つのしもべかよっ」
くつしたはチアキとみのりを背に乗せて走り回っていた。
パワー有るなあ。
「くつしたは人間の言葉がわかる?」
「わおんっ!」
「「「「おお~~!」」」」
「なんで頭一つなの?」
にゅっと言う感じでくつしたの頭が三つに分裂した。
おー、戦闘時に展開するのか。
すぐ、副頭は合体して一つ頭となった。
それぞれ独立した人格の頭ではないようだ。
処理機能や魔法抵抗力アップの為の複数化だな。
「よし、くつした、お前の使命は、チアキとみのりを守る事だ、頼んだぞ」
「わおーーん」
賢い奴め。
もふもふしてやろう。
もーふもふ。
『すげえ、俺もくつした欲しい』
『生もふもふだ』
『狩るしかねえな、二十三階を』
『ネームドレアは一日一回ぐらいしかポップせんぞ』
『出るまで張り込んじゃる! ミスリルゴーレム従魔を創ーる!』
コメント欄も盛りあがっている。
明日から局所的に二十三階は混み合いそうだな。
「くつしたの珠は誰が持つ?」
「わたしわたし、わたしがくつしたの飼い主っ」
「ずるいよっ、オルトロスぬいぐるみをゆずって上げたんだから、今度は私の番よ」
「あれはあれ、これはこれっ」
「わおーん……」
チアキとみのりがくつしたを引っ張り合って、奴は真ん中で困っていた。
仲良くしなさいよ。
とはいえ、チアキも遠慮がなくなって来て良い事だ。
年頃らしいよね。
「冒険の時はみのりを乗せる、外界では珠に入ってチアキを守る。夜はマンションかなあ」
『夜は、夜は峰屋家に来て~~』
「あ、ママっ!」
『お母さんもくつしたちゃん可愛がりたいわ~』
峰屋ママの気持ちは解るが、あんまりくつしたの珠をあちこちに持っていきたくないなあ。
「夜はうちのマンションで、わたしがモフモフする」
鏡子ねえさん、あんたもかいっ。
「じゃあ、先に進もう」
くつした参入で時間を食った。
二十五階まで行けるかな?
チアキとみのりがドヤ顔でくつしたの背にのっている。
大きいワンコは、いいな。
「チアキの平衡感覚なら、くつしたに乗ったまま戦えないだろうか?」
「それは試して見よう、みのりねえちゃん降りて降りて」
「ぶうぶうっ」
ぶうぶう言いながらもみのりはくつしたから降りた。
『くつした用の鞍と鐙が欲しいね。手綱は首輪から伸ばす感じで』
『『竜の尻尾』があるから綺麗に乗れるね』
くつしたとチアキが先行して先を調べる形になった。
「う゛~~~~」
「前方、オルトロス二」
くつしたが低く唸り、チアキが小声で敵の情報を伝えてくる。
みのりがリュートで【スロウバラード】を奏で始めた。
くつしたが、ダン! と踏み込んでチアキを乗せたまま突撃を始めた。
「うおっ! いくぞーくつしたー!!」
チアキはくつしたの上で拳銃を乱射した。
バキュバキューン!!
くつしたはもの凄い勢いでオルトロスに近寄り頭突きをかました。
ドカーン!
オルトロスは吹き飛ばされ壁に当たって転がった。
くつしたの首が三つになり、【咆吼】!
「ギャオオオオオン!!」
ひぃ、という感じにオルトロスの尻尾が足の間に隠れた。
ゴオオオ!!
三つの口から猛烈な業火が巻き起こり、【咆吼】で棒立ちになっているオルトロスを焼き尽くす。
バキューン!!
もう一匹のオルトロスの頭蓋を泥舟の魔力弾が吹き飛ばした。
「「「「「……」」」」」
『『『『『つ、つええ』』』』』
『そりゃ、レベルは半減しておるが、スキルは継承しておるでな』
『【咆吼】【体当たり】【ブレス】かあ、多彩だなあ』
「う、歌う暇が無かった~」
「何もすることがない」
「くつした強いなあ、お前、よーしよしよしよし」
「わおーん」
チアキにヨシヨシされて、くつしたは目を細めて喜んだ。
オルトロスたちが粒子に変わり、我々は魔力霧を吸い込む。
くつしたの心臓あたりにも吸い込まれているな。
魔力が沢山溜まったら元のごっつい『片靴下』みたいに成るのかな。
くつしたに乗ったチアキに先導されて、下り階段まで来た。
安全地帯では、『川崎タン麺』の人達が小休止していた。
「やあ、無事かあ、『Dリンクス』」
「ケロベロスを倒したぜ、兄ちゃん」
「マジかあっ!! あのネームドは異常に強いからみんな逃げ回ってたんだぜ。やるなあ」
「あれ、そのワンコなに?」
「えっへっへ、なんかレア出て、ケロベロスを従魔にしたんだ」
「「「「「え~~っ!!」」」」」
「わおんわおん」
『川崎タン麺』の人達が声を揃えて驚愕した。
うん、なんか誇らしくて嬉しいね。
「ネームドを倒してレアドロップまで、すごいわ」
「前にドラゴン倒したりしてるからなあ、経験値が入ってレベルが上がったんだよ」
「見た見た、通路に挟まったドラゴンはラッキーだったよなあ」
「でも、うちらだと倒せないから、どっかで隠れていたと思う、『Dリンクス』さんはやっぱり凄いわよ」
「ありがとうございます」
友好的なパーティと会うのは久しぶりだな。
ここの所、みんな黙って襲いかかってこられたからなあ。
「これ、うちの店のチラシ。駅ビルの地下でやってるから来てくれよ」
「駅ビルの地下なんだ、行きますよ」
「じゃあ、またねー」
『川崎タン麺』の人達は腰を上げて、戻って行った。
今日の狩りは終わりのようだ。
「うちはどうする、タカシ」
「二十五階を覗いて帰ろう」
「くつしたが居るから、きっと早いよっ」
「わおんわおんっ」
うん、そうかも知れないな。