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第213話 くつした無双する

「わんわんっ!!」


 尻尾をブンブン振ってくつしたは上機嫌のようだ。

 チアキ、みのり、鏡子ねえさんが取り付いてモフモフを堪能している。

 女の子はなんでモフモフが好きかな。


「もどれ、くつしたっ!」

「わおんっ」


 チアキが命令すると、くつしたはビリヤードの玉ぐらいの大きさの珠に入って姿を消した。


「「「「おおおおお」」」」


「いでよ、くつした」


 チアキが珠を投げると、ぼわんと煙と共にくつしたが現れた。


「便利ね!!」

「カプセル従魔だ」

「この階でもっとケロベロスを狩って【従魔創造】の珠を出そう。次はドラゴン、その次はアイアンゴーレムで」

「三つのしもべかよっ」


 くつしたはチアキとみのりを背に乗せて走り回っていた。

 パワー有るなあ。


「くつしたは人間の言葉がわかる?」

「わおんっ!」

「「「「おお~~!」」」」

「なんで頭一つなの?」


 にゅっと言う感じでくつしたの頭が三つに分裂した。

 おー、戦闘時に展開するのか。

 すぐ、副頭は合体して一つ頭となった。

 それぞれ独立した人格の頭ではないようだ。

 処理機能や魔法抵抗力アップの為の複数化だな。


「よし、くつした、お前の使命は、チアキとみのりを守る事だ、頼んだぞ」

「わおーーん」


 賢い奴め。

 もふもふしてやろう。

 もーふもふ。


『すげえ、俺もくつした欲しい』

『生もふもふだ』

『狩るしかねえな、二十三階を』

『ネームドレアは一日一回ぐらいしかポップせんぞ』

『出るまで張り込んじゃる! ミスリルゴーレム従魔を創ーる!』


 コメント欄も盛りあがっている。

 明日から局所的に二十三階は混み合いそうだな。


「くつしたの珠は誰が持つ?」

「わたしわたし、わたしがくつしたの飼い主っ」

「ずるいよっ、オルトロスぬいぐるみをゆずって上げたんだから、今度は私の番よ」

「あれはあれ、これはこれっ」

「わおーん……」


 チアキとみのりがくつしたを引っ張り合って、奴は真ん中で困っていた。

 仲良くしなさいよ。

 とはいえ、チアキも遠慮がなくなって来て良い事だ。

 年頃らしいよね。


「冒険の時はみのりを乗せる、外界では珠に入ってチアキを守る。夜はマンションかなあ」

『夜は、夜は峰屋家に来て~~』

「あ、ママっ!」

『お母さんもくつしたちゃん可愛がりたいわ~』


 峰屋ママの気持ちは解るが、あんまりくつしたの珠をあちこちに持っていきたくないなあ。


「夜はうちのマンションで、わたしがモフモフする」


 鏡子ねえさん、あんたもかいっ。


「じゃあ、先に進もう」


 くつした参入で時間を食った。

 二十五階まで行けるかな?


 チアキとみのりがドヤ顔でくつしたの背にのっている。

 大きいワンコは、いいな。


「チアキの平衡感覚なら、くつしたに乗ったまま戦えないだろうか?」

「それは試して見よう、みのりねえちゃん降りて降りて」

「ぶうぶうっ」


 ぶうぶう言いながらもみのりはくつしたから降りた。


『くつした用の鞍と鐙が欲しいね。手綱は首輪から伸ばす感じで』

『『竜の尻尾』があるから綺麗に乗れるね』


 くつしたとチアキが先行して先を調べる形になった。


「う゛~~~~」

「前方、オルトロス二」


 くつしたが低く唸り、チアキが小声で敵の情報を伝えてくる。

 みのりがリュートで【スロウバラード】を奏で始めた。


 くつしたが、ダン! と踏み込んでチアキを乗せたまま突撃を始めた。


「うおっ! いくぞーくつしたー!!」


 チアキはくつしたの上で拳銃を乱射した。


 バキュバキューン!!


 くつしたはもの凄い勢いでオルトロスに近寄り頭突きをかました。


 ドカーン!


 オルトロスは吹き飛ばされ壁に当たって転がった。


 くつしたの首が三つになり、【咆吼】!


「ギャオオオオオン!!」


 ひぃ、という感じにオルトロスの尻尾が足の間に隠れた。


 ゴオオオ!!


 三つの口から猛烈な業火が巻き起こり、【咆吼】で棒立ちになっているオルトロスを焼き尽くす。


 バキューン!!


 もう一匹のオルトロスの頭蓋を泥舟の魔力弾が吹き飛ばした。


「「「「「……」」」」」

『『『『『つ、つええ』』』』』

『そりゃ、レベルは半減しておるが、スキルは継承しておるでな』

『【咆吼】【体当たり】【ブレス】かあ、多彩だなあ』


「う、歌う暇が無かった~」

「何もすることがない」

「くつした強いなあ、お前、よーしよしよしよし」

「わおーん」


 チアキにヨシヨシされて、くつしたは目を細めて喜んだ。


 オルトロスたちが粒子に変わり、我々は魔力霧を吸い込む。

 くつしたの心臓あたりにも吸い込まれているな。

 魔力が沢山溜まったら元のごっつい『片靴下』みたいに成るのかな。


 くつしたに乗ったチアキに先導されて、下り階段まで来た。


 安全地帯では、『川崎タン麺』の人達が小休止していた。


「やあ、無事かあ、『Dリンクス』」

「ケロベロスを倒したぜ、兄ちゃん」

「マジかあっ!! あのネームドは異常に強いからみんな逃げ回ってたんだぜ。やるなあ」

「あれ、そのワンコなに?」

「えっへっへ、なんかレア出て、ケロベロスを従魔にしたんだ」

「「「「「え~~っ!!」」」」」

「わおんわおん」


 『川崎タン麺』の人達が声を揃えて驚愕した。

 うん、なんか誇らしくて嬉しいね。


「ネームドを倒してレアドロップまで、すごいわ」

「前にドラゴン倒したりしてるからなあ、経験値が入ってレベルが上がったんだよ」

「見た見た、通路に挟まったドラゴンはラッキーだったよなあ」

「でも、うちらだと倒せないから、どっかで隠れていたと思う、『Dリンクス』さんはやっぱり凄いわよ」

「ありがとうございます」


 友好的なパーティと会うのは久しぶりだな。

 ここの所、みんな黙って襲いかかってこられたからなあ。


「これ、うちの店のチラシ。駅ビルの地下でやってるから来てくれよ」

「駅ビルの地下なんだ、行きますよ」

「じゃあ、またねー」


 『川崎タン麺』の人達は腰を上げて、戻って行った。

 今日の狩りは終わりのようだ。


「うちはどうする、タカシ」

「二十五階を覗いて帰ろう」

「くつしたが居るから、きっと早いよっ」

「わおんわおんっ」


 うん、そうかも知れないな。

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