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第215話 オバケ階を覗く

 階段を降りると途中で景色が変わった。

 オープンフロアになったらしい。


 どんよりとした曇りの空模様が広がり、地平線まで続くお墓の群れだ。


 異世界様式なのか、洋風の十字架ではなくて、十字架に丸の墓標が立っている。

 お墓で迷宮を作っているらしい。


「うわあ、夏にDアイドル肝試し動画をやる階だあああ」

「良くやってるよね、石川淳二さんとかが司会で」

「あの人の動画コワイので嫌い」


 幸い降りた所はベンチと東屋があって安全地帯になっているようだ。

 水場もあるな。


 見晴らしは良いのだが、敵の姿は見えないな。


『墓標に認識阻害の魔法が掛かっていて遠くまで見渡せないようになってるらしい。曲がり角でドッキリが基本』

『出てくる魔物は、ゴースト、ゾンビ、スケルトン、僧侶の奇跡が効くので、ここで修行するパーティも多いよ』


 なるほどねえ。


「とりあえず、みのりは【オバケ嫌いの歌】、泥舟とチアキは魔力弾、俺と鏡子ねえさんは退魔装備が効くか実験だな。くつしたはブレスか?」

「うおんっ」


 アンデットは火に弱いらしいしね。


 チアキがくつしたに跨がった。


 さあ、オバケ階を体験だ。


「ゾンビ二、スケルトン一」


 少し行くと遠くからゾンビとスケルトンが現れた。


「コ、コワイ、『おばけなんかこわくないさ~~、おばけなんかいない~~、なんかの見間違いだし死んだひとは帰ってこない~~♪』」


 みのりの陰気な歌が流れると、アンデットたちは苦しみ始めた。

 苦しんでいる。

 苦しんでいる。

 エンドレスで苦しむだけで、別に成仏しない。


「デバフ歌か?」

「攻撃力はないみたいだな、ただ、苦しんで何にも出来なくなるっぽい」


 ねえさんが踏み込んでスケルトンを殴りつけた。

 バカンと音がして骨がバラバラになって転がった。


「やったか!」


 やってなかった。

 骨はまとまって立ち上がり……、苦しみ始めた。


「やあ、酷い歌だな【オバケ嫌いの歌】は」


 みのりが心外だという顔をした。

 何も出来なくなるのは便利だけどね。


「骨のコアはどこだ?」

「心臓の位置に魔石があるね、アレを取ればいいんじゃない?」


 ぴゅっとチアキがムカデ鞭を振るってスケルトンの魔石を引き抜いた。

 魔石が離れた瞬間にスケルトンはバラバラに成って動きを止めた。


「チアキ、ナイス」

「えっへへへ」


 ゾンビは心臓か、脳か、どっちかな。

 何しろエンドレスで苦しんでいるので何ら脅威ではない。


 俺はゾンビの心臓を『暁』で一突きした。

 ジュッと音がして、ゾンビは崩れ落ちた。


 バキューン!!


 泥舟がゾンビにむけてヘッドショット!

 ゾンビは動かなくなった。


 脳でも良いのか。


「楽勝だねっ!!」


 チアキがムカデ鞭の先に付いた魔石を取りながら笑った。


『【オバケ嫌いの歌】が強いなあ、雑魚が何も出来なくなる』

『意外と楽そうだな』

『『Dリンクス』だからだよ、呪歌が無かったり、退魔武器が無かったりしたら、結構手強い。コワイし』


 ゾンビとスケルトンが粒子になって消えていった。

 チアキの持っていた魔石も消えた。


「あれあれっ」


 引っこ抜いた魔石は魔物の体の一部で、ドロップ魔石とは違うのだろうな。


 魔石が三つと、ドロップ品が落ちてきた。


 ドロップ品は、音楽DVD『魅惑のハイチミュージック全集』と聖典【鎮魂ターンアンデット】、あと、骨骨ビスケットの袋であった。


「犬用ビスケット?」

「いや、人用のカルシウムたっぷりビスケットだそうだ」

「くつした、食べろっ!」

「わうんっ」


 チアキとくつしたがビスケットを頬張った。

 ねえさんも袋に手を突っ込んでボリボリ食べる。


「「微妙」」

「わおーん」


 そうかそうか。


「オバケ階でも戦える、さあ、帰りましょう」

「ゴーストを倒してみようぜ」

「あと一戦したら帰ろう」

「ふええええん」


 みのりは、お墓とか、雰囲気とかがコワイらしい。

 呪歌を歌っておけば相手は何にも出来ないボーナス階なのになあ。


 墓地の十字路を曲がって少し進む。


「ゴースト来たよー、三匹」


 シーツをかぶったような伝統的な西洋ゴーストが三匹現れた。

 半透明で実体が無いっぽい。


「ひいっ、『おばけなんかこわくないさ~~、おばけなんかいない~~、なんかの見間違いだし死んだひとは帰ってこない~~♪』」


 呪歌を聞いてゴーストは苦しみだした。

 苦しみだした。

 うん、エンドレス苦しみ。


 バキューン!!

 ダキュンダキュン!!


 鉄砲組の銃弾が飛んだ。

 魔力弾なのでゴーストに当たり、吹き飛ばして墓石にぶち当てた。

 一匹昇天である。


 ねえさんがパンチを打つ。

 すかっとゴーストの体を通り過ぎるが、『金時の籠手』の表権能[楔]は魔法扱いなのか、内部で破裂するようになって霊体を四散させた。


「へんな感じだ」


 俺も『暁』切り上げる、飛び回らないゴーストは良い的だな。


 しゅぱん。


 こちらはすり抜ける事も無く霊体を切断し、悲鳴と共に燃え上がり消えた。

 さすがは太陽の属性剣だ。


「わりといける」

「普通の階より楽かもね」


 ゴーストの霊体が粒子になって消滅した。


 魔石とドロップ品が落ちてくる。


 ドロップ品は、無地の木綿シーツ(セミダブルサイズ)、と、聖水であった。

 聖水は体に振りかけるとしばらく魔物が寄ってこない消費アイテムだ。


「かえろ~、かえろ~」


 みのりが涙目で言うので帰ることにした。

 そろそろ空も暗くなってきたからね。

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