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第5話 人生の風はノーブラの日に吹く──干し草OL、運命の出会い発生中。

これからは、ララ様の下着を身につけるのか……。


なんというか、もう違和感しかない。でも仕方ない。新しい下着を買う余裕なんて、今の私には皆無だ。


というわけで、今ララ様の自宅へ向かっている。

でも正直──今日一日、ノーブラで過ごしたこのヒリヒリ感、二度と味わいたくない。


歩くたび、胸がこれ見よがしに揺れるのだ。

もう、なんか別の生き物飼ってる気分。


これが、私の〝ララ化〟ってやつなのか……?

終着点はどこなの……?


『ふーん、ララ化ねえ。まあ、この肉体に馴染んできて、いろいろ分かってきたわよ』


『……ララ様、心を勝手に読まないでください』


『大事なことだから聞いてちょうだい。あのね、身体の〝主人〟はあくまでわたくし。でも、自我は花のままみたいね。思ったより脳神経細胞の遺伝子が、頑固で強靭らしいのよ~』


『えっ、それって……じゃあ、私はこれからも〝綾坂花〟として生きていけると?』


『たぶんね。でも、肉体や顔つきの半分くらいは、そのうちわたくし寄りになってくると思うわよ。よかったわね~、美人になれて』


……それは嫌味ですか?

ていうか、そもそもあなたのご尊顔、見えてないんですが。


『ま、とにかく。美しく変貌を遂げたら、絵梨花にリベンジしましょ!』


『えっ、いや、それは……ど、どうやって……?』


『美しいってのは、立派な武器よ。ふふ、作戦はわたくしにお任せあれ』


『……はぁ』


頼もしいような、危ういような。

でも、ほんの少し、心が軽くなった気がする。味方がいるって、こんなに心強いんだ。


たとえ外見は〝ララ様仕様〟に変態中でも、私は私。──いや、たぶん。おそらく。できれば、そうであってほしい。意識の中にいるもう一人の存在が、日に日に影響力を増してる気はするけど……。


『ところで、さっき連絡した〝弟様〟って、あの方ですか?』

『ええ。花より一つ年下よ。仲良くしてあげて』

『は、はい……』


ララ様の自宅と思われる高層マンションの前に、爽やかな好青年が立っていた。ただ、周囲の様子が明らかにおかしい。パトカーが何台も並び、警官がひっきりなしに出入りしている。まるで事件現場だ。


『……あら、入れる雰囲気じゃないわね』

『あの、これは一体……?』

『実はわたくし、殺されたのよ』

『ええーーっ!?』


し、死んだのはわかるけど、殺されたって、そんな……!

てっきり事故とか病気かと……。

で、なんで殺されることに!??


『あの……このあと〝ララ様の友人〟として弟様に会うんですから、事前情報をもっとください!』


私は足を止めた。これ、単に部屋を開けてもらって下着を回収するだけの〝おつかい〟じゃ済まない気がする。なんだか急に重たくなってきた。


『ざっくり言うと──わたくし、風俗嬢だったの。箱ヘル勤務ね。ランカーのキャストだったから、太客も多くて……特に一人、執着というか粘着してきた男に、店の近くで刺されて死んじゃった。なのであのマンションが現場じゃないから安心して。ちなみに弟には詳しく話してないわ──以上、健闘を祈る!』


い、いやいや、情報過多です!まず〝箱ヘル〟って何!?〝ランカー〟って……格ゲーの話じゃなくて!?


脳内パンク寸前の私の前に、〝弟様〟が歩み寄ってきた。顔に「誰?」って書いてあるような表情で。


「……綾坂さん、ですか?」

「は、はい。綾坂花です……」


間近で見ると、とんでもない美形。彫刻みたいに整った顔立ち、モデルみたいな長身、そしてシャツ越しにわかるしなやかな筋肉──

これが……眉目秀麗びもくしゅうれいってやつか……。


「えっと、このたびは……ご愁傷様です」


深くお辞儀をした。彼も静かに一礼。が、なぜかそのあと私の顔をじーっと見つめてきた。


え、近い、見すぎ……ま、まさか見破られた!?


「もしかして……外注課の……あ、ごめんなさい。勤務先に同姓同名の人がいて、つい」

え?会社の話?ってことは……?


「外注課の綾坂は、私ですけど……?」

「ああー、やっぱり!生産管理部の伊集院翔です。メールでよくやり取りしてますよね」

「あっ……!」


その名前、確かに見覚えがある!

業務メールで淡々と事務的なやり取りをしてた、あの〝伊集院翔〟さん!?

え、この人だったの!?美形すぎません!?


これは──もしかして運命の出会いってやつですか?干し草のように地味で乾いた人生を送ってきた私だけど……今、風が……吹いた気がする。







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