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第9話 地味子OL、職場ゲリラ戦決行中。もう戻れないので在宅勤務希望します。

プルルル……ピーー……


ファックスの受信音が響く。お局が記録紙を取りに席を立ち、数枚の紙を手に持って、一枚一枚じっくり確認し始めた。


果たして、裏に仕込んだ怪文書に気づくだろうか?


──しかし、そのまま何事もなかったかのように席へ戻り、いつも通りに業務を続け始めた。


……え、スルー!?こっちは心臓バクバクなのに!


と思ったのも束の間。記録紙の内容をシステムに打ち終え、ファイリングに移ったところで──彼女の手がピタリと止まった。


「……なんだ、これは!?」


『うふふ……気づいたみたいね』


お局は目をカッと見開き、口を半開きにしたまま硬直。そして、鬼のような形相でこちらを睨みつけてきた。思わずPC画面の陰に体をずらして隠れる。


──まぁ当然といえば当然だ。

同僚が大切に飾っていた美しい花びらを、ニタニタしながら千切っているところを、前方から隠し撮りされていたなんて、夢にも思わなかったはずだ。


……焦ってる。絶対に、相当焦ってる。


『あら~、すごい見てるわね。モロに花を疑ってるわ。お局ったら、興奮しすぎて血圧上がってるんじゃない?うふふ』

『あ、あの……逆上したりしないでしょうか?怒鳴り込んできたら、どう対処すれば……』

『確証がないから来ないと思うわよ?まあ、万が一来ても、とぼけなさい』

『……は、はい』


お局は記録紙を慎重にコピーし、それをファイリング。怪文書は、引き出しの奥深くにこっそり隠し込んだ。その手つきもどこかぎこちなく、ファイルをデスクから落とすなど、明らかに動揺している。


「有志一同」なんて信じちゃいないだろうけど、かといって──

あの地味な子が、こんな大胆な真似をするだろうか?

──と、思い巡らせているに違いない。


さぁ、私は地味で分かりにくいながらも宣戦布告をした。


大切な花を傷つけるのを、やめてくれるだけでも効果はある。

──けれど、きっとこのままでは終わらない。


相手は手強い。徒党を組み、絵梨花という強烈なボスも控えている。


私も、覚悟を決めなければならないのだ。


その覚悟の一端として──

やりたくもない会計の引き継ぎに挑むことにした。


前任の会計さんから有志会費の繰越金を現金で預かり、通帳を新たに作り直さないといけない。

その他、具体的な業務内容についても確認したけれど……


──かなり面倒だよ?


特に、幹事の東薔薇主任とは打ち合わせをしないと、とても回せそうにない。

企画、ホテルの手配、席表の作成、案内文の準備、景品の買い出し、表彰状やビンゴゲームの手配──

盛りだくさん過ぎて、目眩がしそうだ。


当日は受付や進行補助を担当することになりそう。

さすがに、花束贈呈の大役には選ばれないだろうけど……やること多すぎ!


今のところ、唯一形になっているのは「一年を振り返る業績ビデオ」だけ。

これも「なんで私が!?」と納得いかないながらも、何とか悪戦苦闘して作り上げた。


──なのに、肝心の東薔薇主任からは、いまだに打ち合わせの連絡が来ない。


彼が忙しいのは分かる。分かるけど……

幹事として、どこまで把握してるのか、正直ちょっと疑問だ。


……私から絵梨花グループの彼に、連絡を取らないとダメかなぁ?


景品の買い出しとか、一人じゃ絶対無理だ。

本来、こういう時のために、各課から「お世話役」というサポーターがいるのだけれど──

彼らを采配するのも、幹事の仕事だ。


『ララ様、在宅勤務中の東薔薇主任に、メールで確認した方がいいでしょうか?』

『そーねぇ。絵梨花と東薔薇って、次に出勤するのはいつ?』

『明日です。お二人はいつも同じ曜日で固定してます』

『じゃあ、明日まで待ちなさい』

『え、直接、主任に尋ねるんですか!?』

『それは絵梨花の出方次第ね。うふふ』


ラ、ララ様……何でそんな微笑んでるんですか!?


こ、怖い。

明日が怖すぎる。


──多分、心がズタボロに傷つくと思います。


ああ、私も在宅勤務した~~い!

人と接したくないよお!



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