『ララ様、やっぱり無理ですって……こんな、ほぼ露出狂みたいなドレス……!』
会場入りしてまだ二時間も経ってないのに、私はすでに羞恥心MAX。
動画チェックのためにホテルスタッフとやり取りしながらも、背中にビシビシ突き刺さる視線の数々。まるで透明なレーザーを浴びてる気分だ。
『あら、とっても素敵よ。ほら、みんな釘付けじゃない』
だからこそ恥ずかしいんですってば!!
真紅のミニドレスは、胸元の谷間が「見て見てー!」と大アピール中。背中はつるんと丸見えで、ボディラインは強調されまくり。
しかもアクセサリーがゴージャスすぎて、もはや〝パーティー〟じゃなくて〝舞踏会〟。謝恩会でこれは浮かない?って内心ビクビクしてるのに……
『大丈夫よ。ちゃんとショールも羽織ってるじゃない』
いやそのショール、布の存在感ゼロですけど!?
ラメ入りの透け素材って、むしろ見せる気満々に見えない?気のせい?
『美しいわよ、花。だから背筋を伸ばして、堂々と歩いて。今日は〝勝負の日〟でしょ?』
『う……はいっ』
そうだった。今日は、絵梨花とお局に反撃する決戦の日。
マスクも眼鏡も外したし、髪もメイクも気合い充分。外見はララ様プロデュース、中身は相変わらず小心者の私──だけど、逃げない。
今夜は、全部ぶつけるつもりで行こう。
そこへ東薔薇主任を先頭に、各課の世話役と絵梨花グループが会場に到着した。
絵梨花は当然のように主任の隣をキープして、ニコニコとご機嫌な様子。
「ん……あれ、誰?あの子」
ド派手な真紅のドレスに身を包み、スタッフと手際よく連携している女性を見て、一行は一瞬ぽかん。どうやら誰だかわかっていない様子。
『花、東薔薇に笑顔で声をかけなさい』
う、うん……今日は軍師(ララ様)の言う通り、頑張るって決めたんだ。
「東薔薇主任、お疲れさまでーす!」
私は思いきり明るい声で手を振った。これでもかってくらいの笑顔つきで。
「ああっ……もしかして、綾坂さ……ん!?」
ざわっ──と、一行に衝撃が走る。
特に絵梨花とお局のキンキン声が響きわたった。
「ええーーっ!? あれが〝
「ど、どういうこと!?誰かと見間違えてるんじゃ……!」
あきらかに全員が固まっていた。
まさか、あの地味で根暗だった私が──っていう顔だ。
「う、美しいな……」
「えっ!? 東薔薇様、今なんと……?」
主任が思わずつぶやいた一言に、絵梨花が聞き返す。でも彼は答えず、私の方へまっすぐ歩いてきた。
「綾坂さーん!」
「ま、待ってください東薔薇様!」
彼のあとを追うように、同期男子や後輩男子まで「マジで!?」と叫びながらなだれ込んでくる。
そして気づけば、絵梨花・お局・新卒女子の三人だけがぽつんと入口に取り残されていた。
『ふふ、主役の座は完全にあなたのものね、花。絵梨花たちの情けない顔……たまらないわ』
『ありがとうララ様。今日は、絶対見返してやるって決めてましたから!』
皆に囲まれてちやほやされながら、段取りの確認を済ませた私は、そのまま受付準備に取りかかる。
「ほんと、見違えるようだね、綾坂さん」
「主任……少し派手すぎたかなって、正直ちょっと後悔してます」
「いや、似合ってるよ。とても魅力的だ」
東薔薇主任の、どこかいやらしい視線が気にならなくもない。
でもそれ以上に──扉の影からじっとりと放たれる、怨念めいたオーラの方が怖い。
そっと視線を向けると、絵梨花がハンカチを噛みしめながら、こちらを睨みつけていた。
「池園さん、何度もこちらを気にされてます。主任、花束贈呈のサプライズについて、事前にご説明された方がよろしいのでは?」
「……そうだな。話してくる。君は専務の対応を頼む。登壇まで控室で待っていただいて」
「承知しました」
『ふふふ、絵梨花ったら……ずいぶん焦ってるみたいね』
『ララ様、私が主任とあんなに親しく話してるなんて、まさか想定外だったのでしょう』
『先制ジャブ、見事に決まったわ。さあ、次はお局の番よ』
『お局……ですか?』
とはいえ──あの人を痛い目に合わせる材料って、何かあったかしら?