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第22話 推しは渡さない!厚化粧お局と戦う、逆襲OLの一日戦争!

お局がエスカレーター前でそわそわしていた。まるで誰かを待っているみたいだ。


……面倒くさいなあ。こっちはこっちで、〝神〟の異名を持つ池園専務をお迎えに行かなきゃいけないってのに。


『ララ様、お局……何か企んでるんでしょうか?』

『決まってるでしょ。男待ちよ、男』

『えっ、お局に……男性なんていたんですか?』

『ふふん。今日の彼女、明らかに気合い入った厚化粧じゃない。張り切ってる証拠よ~。こりゃ面白くなってきたわね』


彼女に関しては、浮いた話など聞いたことがない。少なくとも、絵梨花グループの盗撮・盗聴記録(通称:闇ログ)ではゼロ件だった。


じゃあ一体、誰を……?


そのとき、不意にスマホが震えた。翔様からのメッセージだった。


──「花さん、今ホテルに着きました」


……わ、わざわざ報告くれるなんて……うれしい。私も早く会いたいな。専務が来る前に少しだけでも会えたらいいのに……


そう思った次の瞬間、エスカレーターの方からひときわ甲高い声が響いた。


「翔くーーんっ!」


……はいぃぃぃ!?翔くん、ですって!?

いやちょっと待って、それ、うちの翔様では!?


『やっぱりね。あの人、翔のファンなのよ』

『えっ、どういうことですか!?』

『翔から聞いたことがあるの。書道クラブの先輩にずっと好かれてるって』


……あっ、思い出した。翔様とお局、そういえば繋がってたんだ。


『でも当然、翔はまったくその気なし。だから花、見せつけてやんなさい。ついでに東薔薇にもアピールしときなさい!』

『えっ、み、見せつけるって何をですか!?』


急にそんなミッション振られても困る……けど、私もそろそろエスカレーター前に向かわなきゃいけない。神(=池園専務)をエスコートする大任があるのだ。


……できればお局の近くは避けたかったけど、これはもう運命と割り切るしかない。


やがて、エスカレーターの上から現れた翔様。その瞬間──


「まぁ!なんて素敵なスーツなの~!」


お局、もう完全に舞い上がってる。

近所の叔母さんがイケメン俳優に遭遇したみたいなテンションだ。


「お久しぶりです、山本さん」

「ようこそいらっしゃいました~。えへへ」


あんなデレデレ顔のお局、初めて見たわ。

いつも怒鳴ってばかりの〝鋼鉄の女〟が、今日はすっかり溶けてるじゃないの。


彼女──つまりお局が、翔様にベタベタ張り付いたまま会場の方へ振り向いた、その瞬間。


……ばっちり目が合った。


私がエスカレーター前で仁王立ちしてるのが視界に入ったらしく、さっきまでのデレ顔が一瞬で「般若」に変化!


「どきなさいよ!!」って全力で言いたげな目線に、つい反射で一歩後ずさった。


こ、こわっ……!

でもそのとき──


「わぁ~、花さんだ~!」


翔様の朗らかな声が、私の不安を一掃してくれた。


「えっ!?し、翔く……ん?」


お局の悲鳴(未遂)をBGMに、ラブコメタイム開幕。


見せつけてやるチャンス、まさかの到来。自信はそんなにないけど──いま行くしかない。


「翔さん、ご連絡ありがとうございます。お待ちしてました」

「あっ、そのドレス……?」

「お姉様のを借りました。ちょっと派手すぎる気もしてますけど」

「いや、すっごく似合ってるよ。めちゃくちゃ綺麗だ」


……うそでしょ、もう完全に二人の世界じゃない。

お局はその場でフリーズ、口をぽかんと開けたまま石像化してるし。


もはや専務のお迎えなんてすっかり忘れて、私は翔様の腕に自然と手を添えてしまっていた。


その後ろを、オロオロしながらついてくるお局。

耳元には、ララ様の痛快な一言が。


『うふふ、動揺してるわね~。お局ったら見事に撃沈』


さらに──

翔様と楽しそうに話す私の姿は、しっかり絵梨花と東薔薇主任の目にも焼き付けられたようで。


「あっ……」

東薔薇主任、明らかに目で私を追ってる。うそ、ほんとに注目されてる……?


『いいわね、花。ジェラシーの炎があちこちで燃え上がってるわよ』

『は、はい……(燃やされないように気をつけなきゃ)』


まさかこんなことが起こるなんて、自分でも信じられない。でも──


驚いてる場合じゃない。

今日こそ、絵梨花とお局を〝完膚なきまでに叩きのめす〟と決めてるから。


私の逆転劇は、まだ始まったばかりだ!




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