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第23話 毒舌OL、勘違い姫に左遷サプライズ贈呈中!最終宣告は録音オフで。

「綾坂さん。な~んで〝あなたごとき〟が東薔薇様と秘密を共有してるわけ?本来なら、私に報告するのが筋でしょ~?」


事前にサプライズの内容を知らされていなかった絵梨花は、明らかにご機嫌ナナメ。いや、それだけじゃない。私と主任が親しくしていたこと自体、気に入らないのだろう。

言い返したい気持ちもあったけど──サプライズが成功するまでは余計な火種を撒かない方が得策だと、ぐっとこらえた。


その時、不意にイヤホン型インカムから主任の声が響いた。


「綾坂さん、池園さん。準備、整いましたか?」


「はい」と答えようとした矢先、絵梨花の猫なで声が横から飛び込んできた。


「はぁ~い!東薔薇様~、いつでもどうぞぉ~!」


……ああもう、タイミングかぶせてこなくていいから。


すでに謝恩会は始まっている。私は用意していた花束を絵梨花に手渡し、ステージ脇で控えていた。


「綾坂さん、控室の方へ向かってください」

「かしこまりました、主任」


──部長のご挨拶を聞けないのは少し残念だけど、今は〝神〟こと専務のエスコートという大役が待っている。


まぁ、正直、こうして役割があった方が気が楽でもある。丸テーブルにちょこんと座って、周囲とうまく会話できるか不安だったから。


そんなとき、ララ様の声が耳に響いた。


『さぁ、そろそろ絵梨花に引導を渡す時間がやって来たわね~』

『はい、最終宣告のお時間です。ララ様』


控室から主任の指示どおり〝神〟こと池園専務を会場入口までご案内すると、ちょうど部長の挨拶が終わったタイミングだった。拍手と歓声がホールに響き渡っている。

絵梨花が笑顔を振りまきながら花束を渡しているが……なんだかその姿がやけに痛々しく見えた。


そして──


「池園専務取締役、ご登壇です」


主任の進行にあわせて、スクリーンが切り替わる。彼の映像が映し出されると、会場が一斉にざわつき始めた。突然の〝神の御来光〟に、出席者たちは大いに驚いた様子。…まぁ、それが狙いなんだけど。


ステージ脇からそれを見た絵梨花は、満足げにドヤ顔。花束の意味に気づけば分かりそうなものなのに。浮かれモードの彼女は分かってないみたいだ。


そして、ステージから戻ってきた彼女は──父親の威光を背に、こちらを氷のような視線で見下ろしてきた。


「……その胸、ホンモノだったのね~?てっきり〝お詰め物〟でもしてるのかと思ってましたわ~、オッホホホホ!」


はいはい、ご想像にお任せします。スルー、スルー。今は相手にしても仕方ない。


「ふん。そんなに胸を強調して、男を引っかけようなんて……本当に品がないわねぇ。いやらしいったらありゃしない」


……こっちのセリフですけど!?

そちらこそ、純白のウェディングドレスもどきに、胸元パックリ大開放じゃありませんこと?気づいてないんですか、それ。


「まさか、東薔薇様を狙ってるわけじゃないでしょうね?ま、あなたには無理だと思うけど~」


悪態もそこまでくると、逆に芸術よね。最後だから黙って聞き流してあげようかと思ったけど──やっぱり、少しはお返ししておきましょうか。


「池園さん。私の服や胸のことより、御父様の〝最後のご挨拶〟に耳を傾けたらいかがです?」

「はぁ!?あんたにそんなこと言われる筋合いないんだけど!」

「でも、これは大事な〝お別れ〟ですから」


「お、別れ……?」


……ああ、やっぱり気づいてないのね。ほんとにおめでたい人だわ。うふ。


私はゆっくりと、絵梨花の目の前でボイスレコーダーのスイッチを「ピッ」と切った。


「さっきまでの品のない悪口、全部録音済みです。ご安心を。これからは〝オフレコ〟です」


「なっ……!?あ、あんた、なにそれ……!」


絵梨花の顔が見る見る青ざめていく。言葉を探してるけど、出てくるのは呼吸音だけね。


「専務──つまりあなたの御父様は、本日をもって子会社へ左遷だそうよ。感動のご挨拶、ちゃんと聞いた?……ああ、無理か。理解力が伴ってないものね」


私はにこやかに、でも一言一言にトゲを仕込んで続けた。


「つまり。あなたが今まで振り回してきた〝御父様カード〟は、本日限りで無効。まさかいつまでも通用すると思ってたの?……ちょっと面白い発想ね」


そして、にっこりと微笑む。


「じゃあ池園さん。お疲れさまでしたの気持ちを込めて──その花束、しっかりお渡ししてきて。これがあなたの〝幕引き〟よ」


潮目は、もう完全に変わった。

ここからが本番だ。




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