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7. お揃いは幸せな気持ちに

7. お揃いは幸せな気持ちに




 レモンタルトの甘酸っぱさをゆっくりと味わいながら、ボクと葵ちゃんは、お互いのことを少しずつ話すことにした。正直なところ、入学してからずっと同じクラスに在籍しているにも関わらず、まともに言葉を交わしたことすらなかったから。


 でも今は違う。憧れの葵ちゃんとこうして二人きりで、まるで夢のような時間を過ごしている。ボクは、心臓がドキドキと音を立てるのを感じながらも、勇気を出して葵ちゃんに色々なことを話しかけてみた。


 好きな食べ物のこと、家族のこと……本当にどうでもいいような他愛もない話ばかりだったけれど、葵ちゃんは、笑顔で真剣に耳を傾けてくれる。それが、なんだかすごく嬉しくて、つい普段の何倍も饒舌になってしまう。


「雪姫ちゃんは、お姉ちゃんと妹さんがいるんだぁ。じゃあ……三人姉妹ってことだね?」


「え……あっ、うん、そう」


「私は、弟がいるんだよね。いいなぁ~、私も、お姉ちゃんとか、妹が欲しかったなぁ~」


「そっ、そう?」


「うん。だって、洋服の貸し借りとか、一緒にお買い物とか、できるじゃない?」


「え?あっ、うん……そうだね。でも、私は……姉妹で趣味とか全然合わないし、そういうのはあんまり……ない、かな?」


「確かに、そういうこともあるかぁ」


 葵ちゃんは納得したように頷いた。そんな会話を続けながら、ボクは、喉の渇きを潤すためにおかわりのアイスティーをゆっくりと飲む。色々なことを話したから、少し喉が渇いていた。でも、あまりたくさん飲むとお手洗いに行きたくなってしまうから気をつけないと……。


 その後も会話が途切れることなく、色々な話題で盛り上がり、気づけば、あっという間に2時間ほどの時間が過ぎていた。


「ふわぁぁ……。……あっ、ごめん、雪姫ちゃん!」


「大丈夫だよ。待ち合わせの時間、早かったかな?」


「違うの!その……あのね……はっ、恥ずかしいんだけどさ……私……雪姫ちゃんとデートするのすごく楽しみで、昨日あんまり眠れなかったんだよね……」


「え……?」


 まさか葵ちゃんが?なんだか……すごく嬉しい……恥ずかしそうに少し俯いた葵ちゃんの頬は、ほんのりと赤く染まっていた。その普段とのギャップが、とても可愛らしく見えて、ボクは思わず顔が綻んでしまう。


「子どもみたいだよね……」


「そんなことないよ。私も……すごく楽しみだったから……」


 ボクが正直な気持ちを伝えると、葵ちゃんはパッと顔を上げて嬉しそうに微笑んだ。


「本当?ふふ……嬉しいなぁ」


 それから、私たちはカフェを出て、賑やかな街の通りを特に目的もなく歩き始めた。でも、葵ちゃんには行きたい場所があるらしい。


「ねぇ、雪姫ちゃん!ちょっと、寄り道していこっか?」


「え?……あっ、うん……」


 ボクは、言われるがまま葵ちゃんに手を引かれるようにして、人混みの中を進んでいく。そして連れて行かれたのは、可愛らしいアクセサリーが並んだ小さなお店だった。


 中に入ると、様々な種類のアクセサリーが、所狭しと並べられている。繊細な輝きを放つネックレス、耳元を飾る可愛らしいイヤリング、指先を彩るリングや、キラキラと光るピアスまで……どれも綺麗で見ているだけで心がときめく。


「雪姫ちゃんって、こういうアクセサリーとか、興味ある?」


「うん。えっと……可愛いと思ったりはするけど……」


「そっかぁ」


 葵ちゃんは少し考え込んだ後、何か良いことを思いついたようにパチンと指を鳴らした。そして、にっこりとボクに向かって微笑むと楽しそうな声で言った。


「……ねぇ、雪姫ちゃん!ちょっとつけてみない?私が雪姫ちゃんに似合うものを選んであげるから!」


 そう言って、有無を言わさずボクの手を掴むと、店内をあちこち歩き回り始めた。そして、ある小さなショーケースの前で足を止める。


「ねぇ!これとか、どうかな?」


 葵ちゃんが、そう言って見せてきたのは華奢なシルバーのリングだった。リングの中央にはまるで本物の雪の結晶のような、繊細で可愛らしいモチーフがキラキラと輝いている。


「確かに、可愛いかも……」


 思わず、そう呟くと、葵ちゃんは嬉しそうに頷いた。


「でしょ?じゃあ雪姫ちゃんの指につけてあげるね」


 そんな積極的な葵ちゃんの行動に、ボクは少し戸惑いながらも、されるがままにおとなしく従うことにした。ひんやりとしたリングが、そっと指にはめられる。それを見つめた葵ちゃんは、本当に嬉しそうな満面の笑みを浮かべた。


「わぁ、可愛い!雪姫ちゃんの細い指に、すごく似合ってるよ」


「そっ、そうかな?」


 照れ臭くて、思わず目を逸らしてしまう。すると葵ちゃんは、自分の指にはめられたもう一つのリングを見せてきた。


「えっと……見て?私も色違いのピンクゴールド!どう?似合うかな?」


 それは、雪の結晶の色が優しいピンク色になった可愛らしいリングだった。


「うん、すごく可愛い!葵ちゃんは、ピンクが本当に似合うね!」


「ありがとう。良かったら……このお揃いのリング、ペアで買わない?……ダメ……かな?」


 そう言って少し不安そうに、でもどこか期待を込めた瞳で、ボクを見つめる葵ちゃんを見て、胸がドキッとした。


 なんだろう……この、今まで感じたことのない甘く切ないような気持ちは……そして、不思議と何の抵抗もなく「可愛い」と、言葉に出ている自分に内心驚いていた。


 葵ちゃんとお揃いのペアリングを嵌めている……なんだか、すごく幸せな気分だ。それに、このリングを付けていればいつでも葵ちゃんと一緒にいられるような気がする。そう思うだけで、心が温かくなり、じんわりとした幸福感が全身を包み込んだ。

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