24. 一緒にいるような
まさか本当に真凛もデートについてくるなんて……昨日の作戦会議で真凛が突拍子もない提案をしてきた時は、冗談だと思っていたのに。
でもこうなってしまった以上なるようになるしかない!それよりも、今はせっかくの葵ちゃんとのデートだ。真凛のことは一旦置いておいて、葵ちゃんとの時間を精一杯楽しまないと……そんなことを考えながら街を歩いていると、隣にいる葵ちゃんが少し遠慮がちな声でボクに話しかけてきた。
「雪姫ちゃんの妹さん、可愛いね?」
「え?そっ……そう?」
「うん。すごく可愛いし……高校1年生なのに私より大人っぽいかも」
葵ちゃんは真凛のことを興味深そうに観察しながらそう言った。
「え?そっ……そんなことないよ!全然、葵ちゃんの方が可愛い……し……」
思わず口が滑って『可愛い』なんて言ってしまった。葵ちゃんはそんなボクににっこりと微笑み返してくれた。あぁ……本当に、可愛いなぁ……
そのまま三人で、しばらく街を歩いていく。今日の行き先は真凛のやつが「任せて」と言っていたから、正直、ボクでもどこに行くのか全く分かっていない。一体、真凛はどこに連れて行こうとしているんだろう?そんなことを、ぼんやりと考えていると前を歩いていた真凛が急に立ち止まった。
「あの。葵さんは、カラオケとか、お好きですか?」
「カラオケ?まぁ、好きだよ。よく友達とも行くし、歌うのは好きなほうかな」
「じゃあ、カラオケに行きましょ!」
「え……」
カラオケ……ボク、一体何を歌えばいいんだ!?オタクのボクにとって、カラオケはあまりにもハードルが高すぎる。せいぜい知っている曲なんて、アニソンとかボカロとかしかない!いやいやダメだ!絶対に葵ちゃんに引かれてしまう!
「あの……真凛。カラオケは、ちょっと……」
「え~、いいじゃん?」
「雪姫ちゃん、カラオケ嫌なの?」
「えっと……あまり、歌が得意じゃないというか……」
「じゃあ、雪姫姉は歌わなければ?」
ボクが断る言葉を見つけるよりも早く、真凛は葵ちゃんの腕を掴むと、強引に引っ張ってそのままカラオケ店へと入っていってしまった。ボクはもうどうすることも出来ず、二人の後をトボトボとついて行くことしかできなかった。
受付を済ませて、個室のカラオケルームへ入ると、真凛は早速リモコンを手に取り、慣れた手つきで曲を入れ始めた。そして最初に流れてきた曲はまさかのアニソンだった。
「上手だね、真凛ちゃん」
「ありがとうございます。最近はアニソンとかボカロとか流行ってますから。葵さんも聴いたりします?」
「うん。普通に好きだよ。SNSでも、よく流行ってるもんね?」
「そうですよね~」
そんな感じで楽しそうに仲良く話している二人。最近の流行りって、そういうのが多いのか……勝手に、自分だけがオタクだって一人で恥ずかしい思いをしていたけれど……そんなことないのかもしれない。少しだけ、肩の力がふっと抜けた気がした。
そんなことを思っていると、真凛が突然、ボクにマイクを差し出してきた。そしてリモコンの画面に表示された曲名を指差した。
「雪姫姉、これ歌いなよ。好きでしょ、この曲?」
その曲は……少し前にネットで流行った人気のボカロの曲だ。もちろん知っているし、好きな曲でもあるけれど……さすがに、こんな可愛い葵ちゃんの隣で、ボクが歌うのは恥ずかしいよ!そう思って、必死に拒否しようとしたら葵ちゃんが興味深そうな声を上げた。
「あ。この曲、私も知ってるよ?」
「そうなんですか?あれ?この曲って、確かデュエット曲でしたよね。雪姫姉と一緒に歌ってください」
「こら、真凛!迷惑だよ!」
「そんなことないよ。雪姫ちゃん。私も一緒に歌っていい?」
葵ちゃんは上目遣いで、可愛い顔でボクにお願いしてきた。そんな顔をされたら断れるわけがないじゃん!ボクは恥ずかしくなって、小さく頷くことしかできなかった。
結局、デュエット曲ということで、葵ちゃんと二人で歌うことになったけれど……なぜこんな展開になっているんだろう?そう思って真凛の方を見ると、ニヤニヤと「してやったり」という表情を浮かべていた。
どうやらボクの戸惑ったり恥ずかしがったりする反応を見て楽しむために、わざわざカラオケに連れ込んだみたいだ。本当に、性格が悪いな……
でも横で楽しそうに笑顔で歌っている葵ちゃんを見ているだけで、ボクはなんだかとても幸せな気持ちになれた。そして、夢のような一曲が終わりホッと息をついていると……真凛が、スマホを取り出して得意げな顔で言った。
「これ、上手に撮れてませんか?」
どうやらボク達が歌っている姿を、こっそりと撮っていたらしい……そんなことしなくてもいいのに……葵ちゃんに失礼だし!
「真凛。何、勝手に撮って……」
ボクが非難するように言うと、葵ちゃんは全く気にした様子もなく笑顔で言った。
「良く撮れてるね。真凛ちゃん。その動画、私にも送って欲しいな?」
「はい。いいですよ」
「葵ちゃん、ごめんね」
「なんで、雪姫ちゃんが謝るの?私は……嬉しいけどな。だって、いつでも雪姫ちゃんと一緒にいるような気分になれる……からね?」
一緒にいるような気分……その葵ちゃんの何気ない一言に、ボクは思わずドキッとして顔が一気に赤くなってしまった。