23. 何を考えているの?
その週の日曜日。待ちに待った葵ちゃんとのデートの日がやってきた。待ち合わせ場所は、駅近くの緑豊かな公園の入り口。ボクは妹の真凛と共に、約束の時間よりも少し早く到着し、葵ちゃんの到着を少し緊張した面持ちで待っていた。
「真凛……本当に、大丈夫?」
ボクは隣に立つ真凛に、改めて念を押すように尋ねた。
「しつこい!大丈夫だってば。おにぃは『白井雪姫』。雪姫姉。アタシは白井真凛。オッケー?」
「うっ……うん……」
ふと我に返ると、なぜ真凛が一緒にいるのか状況がよく理解できていない。しかも女装した姿で、実の妹と一緒にいるなんて……なんだか無性に恥ずかしくなってくる。
そりゃ……好きでこの格好をしているのだから自分が悪いんだけど。それにしても、真凛のやつも今日はバッチリお洒落に決めてるしさ……
それよりも、真凛は一体何のためにわざわざこのデートに同行しようと言い出したんだろう?そんなボクの複雑な感情を読み取ったのか、真凛がニヤリと笑いながらボクに向かって言った。
「なに?別におにぃのことバラそうなんて思ってないよ」
「いや……それはさすがに思ってないけど、なんで一緒に来たの?」
「……ナイショ。アタシのことはいいじゃん!ほら!もう葵ちゃん来るんじゃない?」
「うっ……うん……そうだね。葵ちゃん来ちゃうし……」
そんなことを話していると、公園の向こうの方から見慣れた葵ちゃんの姿がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。そしてボク達の姿を見つけたのか、嬉しそうに手を振っている。
「おはよう雪姫ちゃん!」
葵ちゃんの明るい笑顔が遠くからでもよく分かる。
「葵ちゃん」
それを見た真凛が、ボクの背中をぐいっと強く押した。
「ほらっ!行ってきなよ」
「うわっ!」
不意打ちだったので上手く踏ん張ることができず、ボクはそのまま葵ちゃんの方向へよろけながら体勢を崩してしまった。なんとか地面にぶつからないように必死に体を支えようとしたけれど、バランスを崩してしまいそれは叶わなかった。
そんな体勢を崩したボクを葵ちゃんは受け止めてくれた。すごく柔らかくて、それにふわっといい匂いもする。思わず、このままずっとこの温もりに包まれていたいような……って!ダメだ!葵ちゃんに変態だと思われて嫌われちゃう!ボクは慌てて勢いよく葵ちゃんから離れた。
「ビックリした……あはは。大丈夫、雪姫ちゃん?」
葵ちゃんは少し驚いた表情を見せたけれど、すぐにいつもの笑顔に戻ってボクの心配をしてくれた。
「ごっ、ごめん、葵ちゃん!もう!真凛!」
ボクは振り返って真凛を睨みつけたけれど、真凛は知らん顔でそっぽを向いている。コイツ絶対わざとだろ……
でも……ボクの身体には、ほんのりと葵ちゃんの温もりがまだ微かに残っている。手を握るだけでもあんなに緊張しているのに、まさか葵ちゃんにこんな形でくっついてしまうなんて……嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちとが同時に込み上げてきて、心臓がドキドキと激しく鼓動している。
「あのさ雪姫姉。アタシのこと、紹介くらいしてよ」
「え?あっ。葵ちゃん。この子は、妹の真凛」
「白……井真凛です。今日は無理言ってすいません」
「あ。藤咲葵です。私も楽しみにしてたから気にしないで大丈夫だよ。真凛ちゃんって呼んでいいかな?私の事は好きに呼んでいいよ」
「はい。じゃあ、葵さんで。葵さんは、雪姫姉のこと『雪姫ちゃん』って呼ぶんですね?」
「え?うん。なんか……変だったかな?」
「いえ?別に、変じゃないですよ」
真凛が意味深な笑みを浮かべながらそう言うと、葵ちゃんはますます不思議そうな顔をしている。なんで、そんな含みのある言い方をするんだ!葵ちゃん困ってるじゃないか!そんなことを心の中で叫んでいると、真凛はニヤリと不適な笑みを浮かべている。
真凛は一体何を考えているんだろう?まさか……本当にボクのことバラそうとしてたり!?そんなことになったら……
「ん?雪姫姉!」
「え?」
「なに、ボーッとしてるの?置いてくよ?」
「あっ、ごめん」
そんなことを頭の中でぐるぐると考えながら、ボク達はそのまま賑やかな街へと繰り出すことになった。葵ちゃんと真凛と3人でデート……なんでこんなことになったんだろう?それはボクが真凛に相談したのが全ての始まりなんだけど……