「で、ボス犯人は誰なんすか?」
ヤスが無遠慮に聞いてくる。
こっちは頭が痛くて憂鬱なのに。
少しは自分で考えろ。
「ヤス。ベッドサイドの煙草の吸殻を見ろ」
ヤスがまじまじと見つめ「あっ」と叫ぶ。
「吸い口の部分が赤くなってるっす! これもしかして口紅の跡っすか! なら犯人は恋人で間違いないっすね!」
「あほ」
こいつはすぐに勘違いをする。
観察力がないのも考え物だ。
「恋人の女の口紅の色忘れたのか?」
「え? ……あ、そういえばピンクでしたね。あ、でも途中で口紅塗り替えたとか!」
はぁ……。
憂鬱だ。
ヤスの馬鹿さ加減にも段々イライラしてきた。
「よく見て見ろ。その赤いのは血だよ」
「血? なんでこんなところに? てか、誰のですか?」
「そんなもん決まってるだろ。仏さんのだよ」
「は? 意味わかんないっす。被害者は絞殺ですよ?」
「……お前煙草吸ったことあるか?」
「ないっす。煙草なんて百害あって一利なしっす」
なら、わからないでもないか。
はぁ、憂鬱だ。
「今日はとても空気が乾燥しているな。そんな時に煙草を加えると唇が裂けて血が出る時があるんだよ。それが付いたのがそれだ」
「はぇー。そうなんっすか。でもそれがなんなんっすか?」
「お前最初、この煙草見て何て思った?」
「え、口紅の跡だから犯人は恋人の女だ!って……」
「じゃあ、お前が仏さんの恋人の女だったとしてこれを見たらどう思う?」
「……? えっと、口紅の跡だから女が吸ったと。でも、自分の口紅はピンクだから……自分じゃない女が吸った? 直前まで違う女が居た? ……浮気?」
「って勘違いしたんじゃねーのか?」
「ああ、なるほど! 女は合鍵で部屋に入って、吸殻についてる赤い跡を口紅と勘違いして被害者を殺害するに至った! さすがっすボス!」
「まだ、確定じゃねーよ馬鹿。これからそれを調べるんだろうが!」
ああ、憂鬱だ。
また、今日も忙しい一日になりそうだった。
『解答』
さて、疑わしい人物とは誰であろうか?
→被害者の恋人
◇
「煙草の吸殻についている血の跡を口紅と勘違いしたのですわね。よくわからないのですけれども勘違いするようなものなのかしら?」
「近くで見れば違いはわかるやもしれませんが、遠目からでは勘違いしてもおかしくはないかと存じます」
「それにしても、乾燥って嫌ですわね。唇も裂けてしまうのですわね」
「はい、特に冬場はお嬢様もお気を付け下さいませ」
「あら、市川にしてはやさしいじゃない」
「私めはいつもお嬢様の事を案じておりますよ」
「ふ、ふーん。ちょ、ちょっと見直しましたわ。お給金上げてあげてもよ、よろしくてよ!」
「……お嬢様は頭が少しお弱く存じますので、悪い方々に騙されないかいつも案じております」
「……あなたわたくしのことやっぱり嫌いですわよね?」