なにやら秘書な感じの、出来そうなお姉さんに書類を山ほど書かされた。
日雇いじゃなくて、リーディングプロモーションの護衛部として正社員契約なので色々と大変なんだな。
あと山下さんに付いて行って、護衛部の先輩方にご挨拶である。
みなガタイが良くてイケメン揃いだなあ。
凄腕Dチューバーで全員三十階突破のプロらしい。
なんだか頼りになるね。
俺が忙しく書類作業をしている間に『サザンフルーツ』の三人はレッスンをしていたらしい。
さすがはアイドルなので、歌と踊りのレッスンは欠かせないようだ。
「ヒデオ、お昼行こうよ」
お昼になったので、『サザンフルーツ』の三人が昼食のお誘いに来た。
「いいねえ、天竜行く?」
「ぎゃあ、街中華は行かない~~」
「じゃあ、天下一とか」
「ラーメン屋さんも、ちょっと……」
アイドルは街中華に行かないのかあ。
美味しいのになあ。
四人で隣のビルの上の方にある高そうな小洒落たイタリアンに入った。
うーむ、何を食べればいいのやら。
ナポリタンにするかな。
ヒカリちゃん、ミキちゃん、ヤヤちゃんは、なにげに不思議なスパゲティを頼んでいた。
いやあ、おじさんが場違いなので、お客さんの注目を集めているね。
「ヒデオも私たちと一緒に動画に映るんだから、もうちょっと身ぎれいにしなさいよ」
「そうなのかい」
「さすがに寝癖じゃあねえ」
俺は自分の頭に手を置いた。
うん、寝癖があるね。
「午後は美容院ね」
「ええ~~」
「嫌そうな声をしない」
「だって、ヒカリちゃん、こんなおじさんを磨いてもねえ」
「磨かないと悪目立ちします」
それは確かにそうだけど、美容院かあ、理髪店じゃないのね。
おじさん、一回千円の格安散髪屋にしか行った事が無いよ。
「まだ迷宮にはもぐらないの?」
「ヒデオさんが良いなら明日にでも潜りたいですけど」
「十階に中ボスが居て、それを倒すと十階から始められるショートカットが使えるんだよね」
「ポータルですね。十階から先は半グレがあまり居ませんので狩りが楽になるそうです」
「ヒデオのゴリちゃんたちが居るから大丈夫だよ」
ヒカリちゃんはにっこり笑った。
うん、やっぱり三人とも日本全国から選ばれただけはあって、魅力的な美少女だよね。
「もう『サザンフルーツ』はデビューしたの?」
「しましたよ、『南国フルーツパラダイス』って曲で、結構ランキングの勢いが良いですよ」
「それはいいね」
お料理が続々と運ばれてきたので食べ始める。
うーん、ケチャップ味ではなかったなあ。
トマトソース味だ。
不味くは無いけど、まあまあかな。
値段は馬鹿高いけどねえ。
たぶん、ビルの上の方の地代であろうね。
なんだか食べた気にならないね。
でもカワイ子チャン三人とランチというのは異常事態でとても楽しいね。
「あはは、君たち可愛いね、どう、これからプールとか行かない」
なんかチャラそうで健康そうな色黒イケメン二人が声を掛けてきたな。
これは護衛が処理する案件かな。
「やめなさい、彼女たちは午後も仕事なので」
「……あ?」
「なんだ、喋ったぞ、この下層民……」
ああ、良く見られる視線だよね。
なんだか眼中に無い人が不用意に発言した事を咎める目だ。
「俺は彼女らの護衛なんで、引き下がっておくれよ」
「ああ? 誰が貴様が喋る事を許可しましたかーっ!」
「分際をわきまえろよ、おっさんっ、ああ?」
俺はミキちゃんを見た。
ミキちゃんは小さくうなずいた。
ふむ、とはいえ、怪我させちゃうのは、ちょっとスマートじゃないなあ。
「ぎゃはは、びびってるびびってる寝癖のおじさんっ」
「なんで、あんなアイドルみたいに可愛い子の護衛とかやってんの?」
「ゴリ太郎」
『うほうほ』
俺はゴリ太郎にテーブルを持ち上げ握りつぶすように思念で命令した。
急にテーブルが浮き上がり、バキバキと音を立てて丸まっていく。
「俺は冴えないおっちゃんだけどねえ、こういう事ができるんだよ」
「……、ふんぎょらわくあああっ!!」
短髪金髪の方が訳のわからない言葉を発して切れた。
切れて俺に殴りかかってきた。
が、まあ、ゴリ次郎が進路上に居て、彼を捕まえて持ち上げたのだが。
「あが、あがががががっ!!」
「ヒデオ、殺さないで」
「殺さないよ」
「た、たふけてください……」
「俺が壊したテーブル代、払ってくれる?」
「は、はひっ、払わせてくだしゃいっ」
「ごめんなさいっ!」
もう一人のラッパー風味の子は地面に土下座をして額を地面につけた。
「さ、行こうか、ミキちゃん、ヒカリちゃん、ヤヤちゃん」
三人は概ね満足そうな表情だった。
「ヒデオの分は私が持つわ。あとゴリちゃんたちは食べないの?」
「あいつらは何も食べないなあ」
「それは残念だわ、バナナを奢りたかったのに」
『ウホウホ』
『ウホウホ』
「お気持ちだけって言ってるよ」
「ありがとう、ゴリちゃんたち」
俺達は店の外に出てエレベーターで下に降りた。