「ぷぷぷぷぷ」
「笑っちゃ悪いわよ、ヒカリ」
「に、似合わないなあ」
お昼が終わって『サザンフルーツ』の三人娘に美容院に連れてこられた。
俺に付いてくれたお姉系の美容師さんもあきれ顔だ。
「これはアレねえ、顔が地味だから小綺麗にまとめるとファニーな面白さが出てしまうというか、正直に言うとお笑い芸人っぽさが出るわね」
「なんだか、なんだろうねえ」
「これはうちでは何ともならないわねえ」
「そうですか、ありがとうございました」
なんだか鏡に映る自分の顔にイラッとして頭をガシガシと搔いてセットを台無しにした。
「うわ、寝癖頭が一番ヒデオっぽい」
「ま、まあ、だんだんと慣らして行く感じで、ほら」
良いんだよミキちゃん、気を使わなくて。
「じゃあ、次は着る物、行ってみよーっ!!」
「「おーっ」」
「タワラヤに行くの?」
「タワラヤもヌマヤも行きません」
そう言ってヒカリちゃんが連れてってくれたのは、なんだか高そうなブティックであった。
「社長から予算が出てるから、なんでも買って良いわよ」
「うっは、なんだこの値段?」
「普通、というか、安いぐらいだよ」
「値札が俺の着る物と桁が違うっ!」
「良いのよ、商売の制服だからお金掛かるのっ!」
そういって、ヒカリちゃん、ミキちゃん、ヤヤちゃんが一生懸命に洋服を選んでくれたんだが……。
「に、似合わないっ」
「なんだか、体型がシュッとした服を拒絶しているというか」
「中年小太りだからねえ」
「だから、いつもの感じで大丈夫だって」
「いえ、確かにヒデオさんらしい格好なのですが、その、もうちょっと、ねえ」
「うちの事務所が賃金を払わなくて虐待してるように見えちゃうでしょ」
「こんなおじさんを好んで見る人なんか居ないから大丈夫だよ」
「甘いですよ、意外にヒデオさん人気です。Dチャンネルにヒデオスレが出来て、いま三本目です」
「『サザンフルーツ』がやっとスレ五本目なのに!!」
「ヒデオさん、地味で親近感湧くのに、ゴリちゃん達が滅茶苦茶強いですからね」
「自分が活躍してる感じがするんでしょうね」
「そんなもんなのかねえ」
日がな一日中、Dチューブ配信を見ているリスナーというのが解らないなあ。
学校とか職場とかに行かなくていいのか?
「リスナーの大部分は配信冒険者だからねえ」
「みんな詳しいからね」
時代のあだ花みたいな感じがするねえ。
「ヒデオは装備どうするの?」
「どうするのって?」
「剣とか持たないの?」
……。
「なんで、そんな物、付けなきゃならないんだって顔をするのはやめなさい」
「いやあ、でも、なんで」
「ゴリちゃんが居るっていっても、ヒデオは戦ったりしないの?」
「俺は喧嘩が弱いからなあ」
「回復魔法はヤヤがいるし、応援はミキが『
「ゴリ太郎、ゴリ次郎のマネージャーで」
「経験値がもったい無いよ。何か職業に就けばボーナスステータスとかスキルとか貰えるからさあ」
「そうですね、ポジション的には中衛ぐらいですかね、槍?」
「槍、格好いい!」
「槍かあ」
おじさんはあんまり武道の経験が無いから、ピンと来ないなあ。
「『
「まだ解って無いですよ」
「テイマーが出れば、ゴリちゃんたちにもボーナス付くだろうし、良いのにね」
「解らない物は仕方が無いわね、まずは『
「そうだね、いつまでも『
「その、ジョブって職業に就くと、良い事があるの? 賃金が上がるとか」
「まあ、賃金は上がらないけど、
「そうなのかー」
迷宮はレベルが上がるだけじゃなくて、いろいろな
とりあえず、まずは『
しかし、俺は……、何になりたいのだろうか。
俺は学生時代から、何かになりたいという気持ちが無くて、サッカー選手とか、画家とか、何かになりたくて努力する友達たちが眩しかったんだよねえ。
今、迷宮で稼げる事になっても、いまだに俺は何になりたいのか、解って無いんだよなあ。
うーん。
まあ、魔法とか治癒とかはガラじゃ無いから、戦士とか盗賊とかが良いんだろうね。
「一応装備を買いに迷宮の売店まで行こうよ」
「なんで売店? 外の専門店の方が良いんじゃない?」
「迷宮の装備が安くて数が揃ってるのがやっぱり迷宮の売店なのよ」
「そうなのかー!」
「重い装備を持って外界に出て運びたい奴はあまり居ない感じでね」
「外では剣と薬品類、あと呪文書が高く売れるんだけど、斧とか防具とかはあんまり高く売れないのよ」
確かに昨日沢山装備とか出たけど、持ってかえるのは大変かもしれないな。
なんだか思ってたよりも迷宮での冒険ってしんどい感じだね。