なんだかみんながっくりと肩を落としてしまった。
そんな駄目なスキルなのか【さちここばやし】って。
「あー、ヒデオにはピンと来ないかもしれないけど、【さちここばやし】というのはネタスキルの代名詞みたいになっていてね」
「アメリカのアーカンソー州の迷宮で見つかって、何のスキルか最初解らなかったんですよ」
「どんな効果があるの?」
「巨大な衣装に早着替えできます……」
ほお。
「それだけなのよ」
「要塞みたいな衣装だけど、特に効果とかはなくて、凄いだけっていう。で、日本人が見て、これは迷宮の冗談のスキルなんだって解ってね」
「そうなのか」
「だれか、このスキル取りますか?」
「ぼ、僕はちょっといらないかな」
「私もあんまり、ヒデオが取れば?」
「早着替えかあ、それは要塞みたいな衣装だけなの、それともリュックにある装備とかをゴリ達に着せる、とかは出来ないの」
「それは……」
『誰も真面目に【さちここばやし】の事を考えてないから解らない、だな』
さちここばやし……、ああっ! 小林幸子かあ!!
紅白歌合戦の要塞みたいな衣装が使えるスキルなのか!
そりゃあ、ネタスキルだね。
「でも小林幸子さんの名前が付いたスキルなんだから、歌手に効果あるんじゃないか?」
「「「!」」」
みんな顔を上げた。
「そういえば、【さちここばやし】が出た当時は『
「『
「試して見る価値あるかも」
ブインと音がして、フィールドがほどけた。
山下さんが入って来たぞ。
「おお、首尾良く、おおっ!! 金半箱じゃあないかっ! すごいなっ!!」
「それが、出たのが【さちここばやし】で……」
「あ、ああ……」
山下さんもしょぼんとしてしまった。
ミキちゃんがスキルオーブを手に取った。
「
「そうか、ネタスキルだから外で売っても十万という所だろう、問題は無いな」
お、山下さんからのお墨付きが付いた。
『【さちここばやし】って幾つ出てるっけか?』
『ちょとまてー、おお、意外や意外、これで二つ目だ。一つ目はアーカンソーの『
『有名なネタスキルだからもっと出てるかと思った』
『『
ミキちゃんはスキルオーブを持って天にかざした。
『スキルゲット』
スキルオーブがほどけるように金色の粒子になってミキちゃんの胸に吸い込まれた。
「これが……、【さちここばやし】……、ああっ!! 専用呪歌がありますっ!! 呪歌【おもいで酒】ですって!」
『『『『おおおお!!』』』』
「「「「おおおお!!」」」」
「歌の効果は?」
「『思い出が湧き上がり精神的ダメージを喰い、動きが鈍る』ですって」
「おお、良い歌付いてたなあ」
「ヒデオさんの助言のお陰ですよ!」
「そんな事は無いよ、よかったなあ」
「ちょっと使って見ます、【さちここばやし】!」
ミキちゃんが宣言すると、ピカリと光り、一瞬で三メートルぐらいの巨大な衣装となった。
でっかいなあ!!
「め、目立つわね」
「わああ、歌唱補正と呪歌補正が付くよ、あと【注目】効果」
「それはあるだろうねえ」
これだけ巨大だと良い的だね。
「それでは歌います、『思い出酒』」
ミキちゃんがリズムを取り始めると、ケインさんが口笛を吹き始めた。
おお、さすがはアイドル、口笛良いね。
ヒカリちゃんが弓をベンベン鳴らし、ヤヤちゃんが盾を叩いた。
『あなたの心の思い出に~~♪ 私の姿を刻み込んで~~♪』
おお、思っていた曲じゃないし、歌詞じゃない、でも良い歌だなあ。
あ、なんだかジーンとして涙が出て来た。
みれば、みんな泣いている。
「そうか、感動させて動きを鈍らせる呪歌だね、良い歌だ」
「うんうん、凄いよ、ミキくん」
「すごいよ、ミキちゃん、レア呪歌だよ、それ、ターゲット指定できる?」
「できるよ、今はこの場の全員だけど、敵だけに掛ける事もできるみたい」
それは凄い、選択制で敵を弱体化出来るとありがたいね。
反面、要塞服が動きにくく、しかも目立って狙われやすい欠点もある。
なかなか、難しいスキルだなあ。
フュンッとミキちゃんが要塞服からいつもの衣装に替わった。
「よかったじゃないか、これで『サザンフルーツ』がパワーアップだね」
「はいっ! 嬉しいです」
『そうかあ、【さちここばやし】は
『意外に補正多いし、レア呪歌付きで使えるなあ。バーターで注目集めやすいって欠点があるのも渋い』
『タカシの【オカン乱入】とか、ネタスキルと思っても、はまるとシナジーで凄くなる物があるよなあ』
迷宮を作った人は、なんか洒落が効いているね。