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第94話 新幹線で京都へ行く

 格好いい背広を着て、良い天気の吉日、朱雀さんと一緒に俺は新幹線の客となった。


 モーンという重低音の中、窓の外が高速で飛び去って行って、ああ新幹線だなあという感じだね。

 座り心地のいい座席に腰掛けて、目の前のテーブルにはビールとさきイカでご機嫌だ。


 今回の京都旅行は朱雀さんに陰陽師の偉い人を紹介してもらって、ゴリラたちの謎を解くという旅だね。

 ゴリラ達は通路に居ると邪魔なので、昇降スペースに座らせている。

 見えないけど、なんだか、人が寄りつかないのだよね。

 透明ゴリラの不思議さよ。


「朱雀さんはどうして京都へ? 里帰りですか?」

「それもありますけど、本格的に川崎に活動拠点を移しますので、転校の手続き等がありまして」

「そういえば、まだ高校生だったんですよね」

「ええ、老けて見られますので」

「いやいや、落ち着いているからですよ、うん」


 朱雀さんは現在売り出し中の『Dリンクス』という配信冒険者パーティの僧侶さんだ。

 元は魔物を退治する陰陽師集団だったので、符術とかも使えるらしい。

 黒髪の大人しそうなお嬢さんなのに、小説に出てくるような退魔組織の人なんだね。

 格好も黒いスーツ姿で大人っぽいね。


 さきいかを食べながら、ビールを飲む。

 うーん、電車の中で飲むお酒は美味しいね。


 新幹線で二時間ほど揺られていると、京都駅に着いた。


「さあ、下りますよ、ヒデオさん」

「はい、わかりましたよ」


 さて、京都で下りるのは始めてだなあ。

 というか、箱根を越えて西に行くのは初めてだったりするよ。

 おじさんは出不精だから、あまり旅行とかはしないんだ。


 朱雀さんは京都の地元民だから、すたすた行くね。

 俺は後に付いて行くのでいっぱいいっぱいだ。


「登紀子っ」


 駅前の道で、黒塗りの高級車から、厳ついお爺さんが顔を出して、朱雀さんを呼んだ。

 朱雀はコードネームで、本名は登紀子さんなのかな。


「お爺さま、お迎えありがとうございます」

「いやいや、登紀子はタカシくんの所に呼ばれて良かったのう。活躍は動画で見たぞ」

「ありがとうございます。お爺さま、こちら、丸出英雄さんです」

「おお、前鬼後鬼の丸出家の方ですな、京都にお帰りなさい。陰陽鍛冶の東郷と申します。よろしくおねがいいたします」

「ああ、いえいえ、私は家の記録は知らないのですが、そこら辺を確かめに参りました。丸出英雄と申します」

「そうですかそうですか、護法童子の家は、丸出家と村田家に別れていまして、村田家の方はまだ京都に残っております。そちらに護法童子の詳しい記録もあろうかと思いますよ。とりかえず、今日は我が家で羽を伸ばして、明日から色々と調べましょう」

「はい、よろしくお願いいたします」


 立派なお爺さまだな。

 俺はぺこぺこと頭を下げた。


 朱雀さんが後部座席のドアを開けて誘ってくれたので、ありがたく先に入って座る。

 朱雀さんが入ってくる。

 うん、なんだか良い匂いがするね。


「車で移動の時は、ゴリラさんたちはどうするのですか?」

「ああ、勝手に走って付いて来るよ」

「そうなのですか」

「護法童子は剣の車輪に乗って空を行くと言いますが、そこらへんは無理なのですか?」

「ゴリラたちは、まあ、ゴリラなので、強いですが、そんなに便利な物じゃないですよ」


 昔は空を飛んでたのか、ゴリラのくせに生意気だな。


 黒塗りの高級車はなんだか凄く広いお屋敷に滑り込んで止まった。


「さあ、遠い所からよくいらっしゃいました、実家だと思ってくつろいでくださいね」

「本当によろしいのですか、無関係なおじさんなのに」

「なんのなんの、陰陽の家系はみな親戚みたいな物ですよ、今日は丸出家の人が京都に帰ってきてくださった記念的な日です。遠慮は無用ですぞ」

「そうですよ、ヒデオさん」


 わあ、暖かく迎えてくれるなあ。

 まあ、もっとも京都の人のいう事を真に受けて増長すると、ぶぶ漬けとか喰わされるので遠慮は忘れないようにしよう。


「朱雀ねえちゃん、お帰りなさいっ、って……、わあ、すごい、ゴリラだ」


 おかっぱの小学生ぐらいの女の子が、ゴリ太郎、ゴリ次郎を見て固まった。


「おお、見えるのかい」

「うん、私は[謡]候補だし」

「[謡]って? えーと」

「ああ、職業ジョブで言うと『吟遊詩人バード』ですよ、ヒデオさん」

「おお、それは凄いね」

「うん、中学生になったら難波迷宮に行って、『吟遊詩人バード』になって、アイドルになるんだあ」

「そうかー、俺は丸出英雄だよ、君は」

「あ、ごめんなさい、丸出のおじさん、私は志保里、東郷志保里ですっ」

「よろしくね、志保里ちゃん」

「はい、よろしくおねがいしますっ」


 志保里ちゃんはペコリと頭を下げた。

 なんだか、可愛い子だなあ。


 こうして、俺の京都旅行の一日目が始まったのだ。

 ゴリラのパワーアップが出来たら良いなあ。


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