格好いい背広を着て、良い天気の吉日、朱雀さんと一緒に俺は新幹線の客となった。
モーンという重低音の中、窓の外が高速で飛び去って行って、ああ新幹線だなあという感じだね。
座り心地のいい座席に腰掛けて、目の前のテーブルにはビールとさきイカでご機嫌だ。
今回の京都旅行は朱雀さんに陰陽師の偉い人を紹介してもらって、ゴリラたちの謎を解くという旅だね。
ゴリラ達は通路に居ると邪魔なので、昇降スペースに座らせている。
見えないけど、なんだか、人が寄りつかないのだよね。
透明ゴリラの不思議さよ。
「朱雀さんはどうして京都へ? 里帰りですか?」
「それもありますけど、本格的に川崎に活動拠点を移しますので、転校の手続き等がありまして」
「そういえば、まだ高校生だったんですよね」
「ええ、老けて見られますので」
「いやいや、落ち着いているからですよ、うん」
朱雀さんは現在売り出し中の『Dリンクス』という配信冒険者パーティの僧侶さんだ。
元は魔物を退治する陰陽師集団だったので、符術とかも使えるらしい。
黒髪の大人しそうなお嬢さんなのに、小説に出てくるような退魔組織の人なんだね。
格好も黒いスーツ姿で大人っぽいね。
さきいかを食べながら、ビールを飲む。
うーん、電車の中で飲むお酒は美味しいね。
新幹線で二時間ほど揺られていると、京都駅に着いた。
「さあ、下りますよ、ヒデオさん」
「はい、わかりましたよ」
さて、京都で下りるのは始めてだなあ。
というか、箱根を越えて西に行くのは初めてだったりするよ。
おじさんは出不精だから、あまり旅行とかはしないんだ。
朱雀さんは京都の地元民だから、すたすた行くね。
俺は後に付いて行くのでいっぱいいっぱいだ。
「登紀子っ」
駅前の道で、黒塗りの高級車から、厳ついお爺さんが顔を出して、朱雀さんを呼んだ。
朱雀はコードネームで、本名は登紀子さんなのかな。
「お爺さま、お迎えありがとうございます」
「いやいや、登紀子はタカシくんの所に呼ばれて良かったのう。活躍は動画で見たぞ」
「ありがとうございます。お爺さま、こちら、丸出英雄さんです」
「おお、前鬼後鬼の丸出家の方ですな、京都にお帰りなさい。陰陽鍛冶の東郷と申します。よろしくおねがいいたします」
「ああ、いえいえ、私は家の記録は知らないのですが、そこら辺を確かめに参りました。丸出英雄と申します」
「そうですかそうですか、護法童子の家は、丸出家と村田家に別れていまして、村田家の方はまだ京都に残っております。そちらに護法童子の詳しい記録もあろうかと思いますよ。とりかえず、今日は我が家で羽を伸ばして、明日から色々と調べましょう」
「はい、よろしくお願いいたします」
立派なお爺さまだな。
俺はぺこぺこと頭を下げた。
朱雀さんが後部座席のドアを開けて誘ってくれたので、ありがたく先に入って座る。
朱雀さんが入ってくる。
うん、なんだか良い匂いがするね。
「車で移動の時は、ゴリラさんたちはどうするのですか?」
「ああ、勝手に走って付いて来るよ」
「そうなのですか」
「護法童子は剣の車輪に乗って空を行くと言いますが、そこらへんは無理なのですか?」
「ゴリラたちは、まあ、ゴリラなので、強いですが、そんなに便利な物じゃないですよ」
昔は空を飛んでたのか、ゴリラのくせに生意気だな。
黒塗りの高級車はなんだか凄く広いお屋敷に滑り込んで止まった。
「さあ、遠い所からよくいらっしゃいました、実家だと思ってくつろいでくださいね」
「本当によろしいのですか、無関係なおじさんなのに」
「なんのなんの、陰陽の家系はみな親戚みたいな物ですよ、今日は丸出家の人が京都に帰ってきてくださった記念的な日です。遠慮は無用ですぞ」
「そうですよ、ヒデオさん」
わあ、暖かく迎えてくれるなあ。
まあ、もっとも京都の人のいう事を真に受けて増長すると、ぶぶ漬けとか喰わされるので遠慮は忘れないようにしよう。
「朱雀ねえちゃん、お帰りなさいっ、って……、わあ、すごい、ゴリラだ」
おかっぱの小学生ぐらいの女の子が、ゴリ太郎、ゴリ次郎を見て固まった。
「おお、見えるのかい」
「うん、私は[謡]候補だし」
「[謡]って? えーと」
「ああ、
「おお、それは凄いね」
「うん、中学生になったら難波迷宮に行って、『
「そうかー、俺は丸出英雄だよ、君は」
「あ、ごめんなさい、丸出のおじさん、私は志保里、東郷志保里ですっ」
「よろしくね、志保里ちゃん」
「はい、よろしくおねがいしますっ」
志保里ちゃんはペコリと頭を下げた。
なんだか、可愛い子だなあ。
こうして、俺の京都旅行の一日目が始まったのだ。
ゴリラのパワーアップが出来たら良いなあ。