目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第95話 東郷邸でなごみまくる

 ビンバッチョロピピロン!!

 ビンバッチョロピピロン!!


 渋いお屋敷の和室に通されて、和んでいたら、いきなりDスマホがただならぬ着信音を放ち始めた。

 誰かと思ったら赤坂さんであった。


「あ、赤坂さん、なんですか」

『おう、私もヒデオを尾行してたんだが、東郷邸の中までは入れないから、なんかあったら電話しろ、近くにいるから』

「ありがとうございます。何も無いとは思いますけどね」

『油断すんな、知らない奴らの所だぞ』

「そうかもしれませんね、よろしくお願いしますよ」

『おう、まかせとけ』


 通話は切れた。

 やっぱり赤坂さんは頼りになるなあ。

 何か危ない事があったら拳銃片手に来てくれる事であろう。

 うんうん。


 俺自身は平凡なおっちゃんで、大した事は何も出来ないのだけれど、回りの人とか、ゴリラとか、他の人達が色々と骨を折ってくれて何とかやっているんだよなあ。

 ありがたい事だよな。


 フスマがちょっと開いて、志保里ちゃんがぴょこっと顔を出した。


「ヒデオさん、屋敷をご案内しましょうか?」

「わあ、助かるよ志保里ちゃん、おねがいします」

「はい、では付いて来てくださいね」


 志保里ちゃんに連れられて、東郷邸を見て廻る。

 さすがに旧家のお屋敷だから、広くてどっしりしていて隅々まで掃除が行き届いていて凄いね。

 こういうのは邦画のミステリー映画とかでしか見た事がないよ。

 歴史を感じてしまうね。


 志保里ちゃんは的確に案内してくれる。

 なるほど、旧家の人の動線はこうなっているのだな。


「私たちのお家はあっちなのよ」


 志保里ちゃんが指さした先には、独立した、ごく普通の二階建てがあって、ジーンズにTシャツというラフな格好になった朱雀さんがベランダから手を振っていた。


 そりゃまあ、平屋のお屋敷は住みにくいわな。

 フスマと障子だとプライバシーとか無いし、寒いしね。


 普通の二階建てと母屋を挟んで向かい側に陰陽鍛冶の防具工房があった。

 中で、お弟子さんたちが作業しているね。


「お、ヒデオさんじゃないですか、防具ですか?」


 職人さんが笑って声を掛けてきた。


「あら、俺の事知ってるの?」

「有名ですからね、いつも配信で見てますよ」

「わあ、ありがとうね」

「東郷義男と申します、よろしくお願いします」


 お世辞でも嬉しいな。


「志保里が家を案内してるのかい、偉いぞ」

「うふふ、そうなのよお父さん」


 志保里ちゃんのお父さんだったのか。

 仲良し親子のようで微笑ましいね。


「甲冑を作ってらっしゃるのですか?」

「はい、タカシ君たちのお陰で、退魔装備ブームでして、五年先までの予約が入って嬉しい悲鳴を上げてますよ」


 わりと伝統的な胴丸を義男さんは作っている。


「これは神さまが入ってるんですか?」

「解りません、出来上がって暫く経つと、稀に神さまが入ってる時があるんですよ」

「それは凄いねえ、今でも何かの特殊能力は入っているんですか」

「はい、表権能が出るかどうかは完成前に解りますよ」

「迷宮の金箱装備と同じぐらいの物だから、凄いねえ」

「外国から沢山注文が入っているのよ、ヒデオさん」

「そうなんだ、商売繁盛で素晴らしいね」

「はい、ちょっと前までの喰うや喰わずの貧困な生活が嘘みたいですよ」


 そうか、あまり儲からないけど陰陽鍛冶の火を消さないように努力してきて、今、Dダンジョンが出来て日の目を浴びたんだなあ。

 偉い人達だなあ。


 神さまが宿っている退魔装備とは、文字通り、神さまを降ろしてパワーアップ出来る武装の事だね。

 タカシくんの持っている陰陽刀『暁』が有名だ。


 俺も欲しいんだけど、たぶん一本作るのに何億って掛かかるんだろうなあ。

 そして、俺が持てる装備があまりないという。

 まだ『|魔物使いモンスターテイマー』にクラスチェンジもしてないからなあ。

 まあ、俺はがちがちにダンジョン攻略してるわけじゃなくて、アイドルたちの用心棒稼業だから、そんなにはね。


「ヒデオさんが退魔装備を手に入れたら、私が[謡]で発動させて上げますからね」

「それは頼もしいね」

「退魔装備が二つ揃わないといけないから、ヒデオさんは大変ですね」

「ははは、沢山手に入れば良いのですが」


 俺は義男さんと笑い合った。

 そんな日は来そうも無いけどね。


 義男さんに頭を下げて工房を後にした。


「広いお屋敷だねえ」

「うん、親戚も多いし、お正月とか法事とか、色々と大変なのよ」

「そうだろうねえ」


 俺の実家は貧乏な貸家だったからそういう気苦労は無かったなあ。

 親戚の顔も知らないしなあ。

 ミステリー映画の昭和初めの大家族とか、実感が湧かないのであるよ。


 しかし、京都の閑静な住宅地にあって、名門って感じだよねえ。


「ああ、ヒデオさん、こんな所に、村田家の七郎さんがいらっしゃいましたぞ」

「ああ、護法童子のお家の方ですね」


 東郷のお爺さんの案内で俺は応接室に通された。

 志保里ちゃんもなんだか付いて来たぞ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?