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第二章 02話『墜落』

 凄まじい衝撃と風の音。さらに重力を忘れるような浮遊感。ウチ等の乗る旅客機は前後に真っ二つに分かれ、墜落して行った。


「シーエ! 無事か!?」

「足以外は大丈夫! アルビは!?」

「大丈夫!」


 とりあえず3人は全員無事。良かった。足は後で何とでもなる。とりあえずさっと止血だけしておく。



「何が起きてる!?」

「ウチも解んないよ! ただウチの足ごと切れたみたいだから、鋭利な何かで機体ごと一気に切断されたみたいだ!」

「魔力か!? そんなでかい刃物、空中では振り回せないだろうしな」

「たぶん! それより……」


 今重要なのは、現状をどう解決するか。飛行機は前後に分断され、双方共どんどんと高度を下げている。ウチ等の乗ってる後部の着陸はウチとエムジでまぁ何とかなる。問題は前部に乗っている乗客だ。

 隣を見るとエムジも同じことを考えてるのか、苦い顔をしていた。



「前部の乗客は、諦めるしかない」


 絞り出すように、エムジが言う。風の音が凄すぎて音としては全く聞こえないが、思念魔力も飛んできているので何を言っているのかはわかる。どんな心境で、その言葉を出したのかも。



「……しょうがない。ウチ等はこっちの乗客を助ける事に全力を注ごう」

「……ああ」


 見捨てたくない。誰一人。でも、助けられない。なら、やることは手短に。地面への衝突まであまり時間もない。

 ウチは思念魔力を飛ばし、後部に乗っている乗客に話しかける。



『皆さん聞いてください! ウチと隣にいるヤツは軍人で、丁度今複数の脳を所持しています! なので墜落の衝撃はかなり和らげる事が可能です!』


 ウチとエムジの背中にはそれぞれ4つ、合わせて8つの脳が収容されている。これらを全てリミッター解除し稼働魔力を使えば、機体を一瞬浮かせる事も可能だ。もちろんこんな質量のものを動かしたら背中の脳はオーバーヒートして使えなくなるが、そんなものは命には代えられない。



『着陸時の衝撃は和らげますが、あくまで和らげるだけです! 相当なショックが予想されるので、各自魔力で自分の体を保護して下さい!』


 そう伝え、ウチとエムジは魔力行使のタイミングを計る。後ろの席からは泣き声や叫び声、神に祈る声など色々な声が聞こえてくるが、風の音でほぼシャットアウトされている。もしかしたらウチ等に思念魔力を使って色々言ってる人もいるかもしれないが、作業に集中したので乗客側からの思念はブロックしておく。


 地面が近づいてくる。墜落場所は森の様だ。キャド空港付近は賑わっていたように見えたが、すこし離れるともう森になるのか。


 着陸までのカウントダウンをエムジと合わせる。



 5


 4


 3


 2


 1…


 今だ!!



 轟っ! と周囲の空気が音を立てて木々を揺らし、急激に速度を緩めた飛行機の後部は、森に無事不時着した。凄まじい衝撃はあったものの、機体は大破していない。急いで後ろを確認したが、乗客は全員無事だ。



「よかった…」

「まだ気を抜くには早い! 爆発の危険もあるし、敵が近くにまだいるかもしんねぇぞ!」


 エムジに急かされ、ウチ等は急いでシートベルトを外し、外に出る。貨物室も破壊されていたのか、周囲には乗客の荷物も散らばっていた。エムジはズンコの店から持ってきた武器を見つけ拾い、携帯する。



「シーエ、足の具合はどうだ」

「止血はしてるけど今は歩けない。魔力で飛べるのは短時間だけだ」

「しゃあねぇ。俺がおぶってやる」

「役得ぅ!」

「こんな時くらい気ぃ引き締めろ!」


 エムジに後ろ向きで背負われる。後方も確認出来るようにと。生き残った乗客たちはよくわからない顔をしながら、ひたすらに何かを警戒しているウチとエムジを見ている。


 警戒。そう、警戒しているのだ。ウチ等を襲った、何者かを。

 飛行機が勝手に分断されるなんてありえない。明確に、何かに攻撃されたのだ。しかも空を飛んでる飛行機を。

 そんなものを真っ二つに出来るなんて、相当な魔力だ。正直、背中も含めすべての脳をリミッター解除しても可能とは思えない。しかし、敵はそれをやってのけた。



 そんな敵が、近くに潜んでいる可能性がある。

 もしくは乗客の中に敵が潜んでいたか…。



 どの道近くに敵がいる可能性がある。その危機を乗客に伝え、避難を促そうとした、矢先。ウチは見てしまった。その、姿を。



「エムジ!!」


 一直線にこちらに向かうグーバニアンを目にとらえ、背後のエムジへ伝える。エムジは振り返ってアサルトライフルを連射するが、全て稼働魔力による空気のバリアで防がれてしまう。



「な、なんだコイツ…」

「みんな逃げろ! こいつがウチ等を襲った張本人だ!!」


 もしかしたら他にも味方がいるかもしれないが、まずは目の前の肉の狂兵士、グーバニアンへの対処が先だ。乗客は散り散りに逃げていく。ウチとエムジは応戦の構えを取る。が……



「きゃあああ!」

「な!?」


 グーバニアンは先に乗客を襲撃、一瞬で首を切断し脳を摘出した。敵の背中を見ると脳が全て無くなっている。膨大な魔力を使用し全てオーバーヒートしたのだろうか。今まさにその脳を補充している。


 まずい。乗客を守らねば。


 しかし乗客は散り散りに逃げており、全員の防衛は不可能。そうしている間に敵はどんどん乗客を殺害し、脳を集めていく。



「糞がぁぁぁぁぁ!!」


 エムジが銃を乱射するも、バリアで防がれる。敵も脳の演算力が上がり、バリアしながらの移動もどんどん早くなっている。



「逃げるぞエムジ!」

「でも!」

「このままじゃ、こっちも全滅だ。ウチ等の今の力では、誰一人守れない! アルビもエムジの肩に乗れ!」

「わかった!」


 日記に書いてあった、以前戦ったグーバニアン共とは明らかに違う。奴らはエムジのアサルトライフルで簡単に負傷させられたらしい。ウチの攻撃も安く通ったと書いてある。

 せめてウチに足があれば、近接戦を仕掛けることも出来たかもしれないが。


 吐き気がする。目の前で殺されていく乗客たち。それを全く守れない自分の非力さ。これが、散々聞いたグーバスクロの狂兵士か。施設で戦った際には奴らが殺しをしている現場を見てはいなかったらしい。初めて生で見る。殺戮の現場だ。


 飛行機一機なんか襲って、どうするつもりだ。何で無実の乗客を殺していくんだ。折角助かったのに。お前らはいったい、何がしたいんだ。



「糞っ!」


 エムジが走り出す。ウチは後ろ向きに縛られているので、最後の乗客が殺される様を見ていた。

 乗客の生き残りはウチ等を除いて4人いた。これで敵の保有脳は4つ。ウチ等の保有脳は恐らくオーバーヒートしていて使い物にならない。


 逃げ切れるのか。この化け物から。



 グーバニアンは肉体を改造して強化している。前にウチがニュースで見た奴や、戦った奴もそうだったと日記に書いてある。

 ただ、目の前のグーバニアンはその情報を知っていてもなお、異様な見た目をしていた。



 顔の鼻から上が全く無い、どこに脳があるかも解らない全裸の女性が、ゆっくりと首を上げ、次のターゲットであるウチ等を、存在し無い目で見据えていた。

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