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第二章 17話『不利な戦い』

 長期戦。まさに長期戦だった。先ほどの橙子との戦闘が嘘のように長い戦闘が続く。かれこれ2時間以上戦っているのではないか? 辺りはだんだんと暗くなって来ている。

 人数では圧倒的に不利な中、ウチとエムジは協力し合いながら着実に敵の数を減らして行った。流石に6年も一緒に戦ってると息もピッタリだ。記憶は1ヶ月しかなくとも、体が覚えている。


『上だ! シーエ!!』


「サァァァァァイ!!!」


 四方八方から押し寄せる敵をいなし、隙を見て攻撃にかかる。

 今回たまたま一緒に仕事をした軍人さんも凄腕の様で、複数の敵を相手に立ち回っている。ただどうしても人数で不利は変わらず。軍人さんには悪いが、彼が立ち回って敵の意識がそっちに向いた隙にウチとエムジで波状攻撃を仕掛ける。腕が良い軍人さんに敵の意識を持っていかせる、おとりの様な作戦だ。


『おらああああああ!!』


 エムジが銃器で遠くの敵をけん制し、近くの孤立した敵をウチが倒す。10人以上いた敵の数は既に8人まで減っていた。これならいける!


 そんな中──



「ぐあああ!」



 在中軍人が悲鳴をあげる。首を取られ、ハックされていた。背中の脳も奪われている。

 まずい。今ウチとエムジはそれぞれ2つずつ脳を消費してしまっている。ここで軍人さんの脳も取られると演算力で確実に不利になる。


 ウチは後退しつつ橙子の脳を摘出。死後しばらくたっているが若干の演算力は残っている。無いよりマシだ。


 その間にエムジが目の前で敵を一人殺す。これで残り7人。流石に戦闘に特化したエムジの体は出来が違う。脳の数が減っても、体の馬力が違う。蒸気機関で動くエムジの体は魔力を必要としない。敵の肉の体を、機械の体が握りつぶす。

 エムジはそのままその敵から脳を奪い返し、脳を4つにチャージ。余りの1つもウチがもらい、再び形成は少し回復する。


「シーエ! 右!!」


「らあああ!!」


 アルビからの指示で死角をカバー。既にアルビは戦闘中も会話も魔術使用も可能になっている。力は弱いがサポートとしては優秀だ。


『押し切るぞ!! シーエ!!』


「おう!」


 敵の持つ脳も次々とオーバーヒートしている。数では不利だが、戦闘の経験や連携はウチ等の方が上みたいだ。無頭の女性クラスの敵がいないのも幸いしてる。


 だが──


『ちい!』


「エムジ!!」


『大丈夫だ! 腕を一つ持ってかれただけだ! まだ3本ある』


 ウチらの体も限界が来ていた。いくら金属のパーツと言え、複数のグーバニアンに筋力や魔力で攻撃を受け続ければいずれ壊れる。ウチのローラー付きの前足も壊れ、普通の二足歩行モードに戻ってしまっていた。


『らあああ!!』


「サァァイ!!」


 それでもウチらは奮闘を続け、敵の数をあと1人まで減らす事に成功した。最初に話していた、リーダー格っぽいグーバニアンだ。


 人数的には有利になったが……ウチらの四肢も限界を超え、かなりの部位が破損している。ウチは倒れたグーバニアンの体を使い即席の義肢にしてはいるが、保持するのに余計な魔力を使ってしまい戦闘の効率も悪い。特にエムジは体が重い分、足を破壊されるとグーバニアンの足では代用できず、動きが極端に鈍くなっていた。


(背中の脳もお互い尽きた。敵の保持脳は1つ。勝てないことは無い!)


ただ敵は五体満足、移動に魔力を使わない分、スムーズな攻撃が飛んでくる。そんな中、敵がターゲットに選んだのは……


『! 避けろシーエ!!』


「く!」


 生身の部位が多いウチだった。

 エムジの脳は腰のパーツの中に収納されており、露出していない。あれを破壊するにはかなりの力か魔力がいる。対してウチは脳も含め大半が生身。加えてエムジは今足も遅い。先にウチを殺そうという算段だろう。


(正解だよ糞野郎め!)


 心の中で悪態をつきつつ、ウチは目の前の敵と戦闘をする。脳の数でも身体能力でも圧倒的に不利。即席の義肢もどんどん捥がれ、ウチは手足を無くし、無様に地面に横たわる事しかできなかった。

 ズンコの義手はやたら頑丈なのか無事だったが、敵に踏みつけられ、押しのける魔力も残って無い。


(これで、終わりか)


 むしろよくここまで善戦した方だと思う。あの数を相手に。

 敵が悲しそうな顔をしながら、ウチに凶器である自身の爪を向けている。とどめを刺すつもりだろう。


「シーエ!」


 アルビが抵抗するも、敵の4本ある足の一つで踏み潰される。その程度では樹脂コーティングされた脳は破壊されないが、リミッター解除を使えないアルビは敵の筋力と魔力から逃れる事は出来ない。


(ああ、死ぬのか。ウチ)


 意外と落ち着いた心境だった。まあさっきまでは自殺も考えてた訳だし、死に対する恐怖は元々少ないのだろう。

 元がグーバニアンというのも影響しているはずだ。奴らは死を恐れず特攻してくる。奴らの動機は未だに解らないが、同じ精神構造をウチがしてても不思議ではない。


(橙子は死にたいって言ってたしね)


 ウチも恐らく、元は同じだったんだろう。死を求めて歩いていたのだろう。



 思い残すのは、エムジの事。


 恐らくウチがやられてもエムジは無事に戦線を離脱出来るだろう。純粋にあの体は強い。

 アルビはダメだろうが、ウチと運命を共にする覚悟は、たぶんしてくれてるはずだ。出来れば生きていて欲しいが、一緒に地獄に行けるならそれも有りだろう。お互いにグーバニアンなんだ。地獄で罪を償おうぜ? 欲を言えば生きていて欲しいけどね。


(ウチが死んだら、エムジは悲しむのか……)


 先ほど、エムジにそう言われた。死んでほしくないと。生きていて欲しいと。大事な人だと。母親を殺した奴なのにな。何てお人よしなんだ。ウチの大好きな人は。


 残される人のつらさは良く知ってる。エムジにそんな思いをさせることに胸が苦しむが、不思議なもので、少し嬉しくも感じる。

 これだけエムジに迷惑かけて、エムジの人生まで変えてしまったのに、つくづくウチは自分勝手な人間だ。好きな人に悲しんでもらえる。それが嬉しくてたまらない。




 死を受け入れる準備は整った。後は、最後の反撃を。




 ウチの脳はとっくにリミッター解除しているが、その上でも負荷がギリギリかからない様に今まではセーブしながら戦闘していた。当たり前だ。生き残るのが目的なんだから。フルパワーで使ったら数秒で脳が焼き切れてしまう。

 しかし、死の間際ならそんな事関係無い。ウチの脳は壊れているので大した力は出ないが、敵の攻撃に合わせカウンターくらいは出来るだろう。少しでも敵にダメージを与えられればめっけものだ。エムジが逃げられる確率が上がる。


(ありがとうエムジ、さようなら。元気でな)


 そう思い、フルパワーで魔力を行使しようとした、矢先──




『シィィィエエエェェェェェ!!!』




 巨大な鉄の塊が、空中を浮いて、突っ込んできた。


 ……エムジだ。でもどうやって。エムジはもう足も破壊され、背中の脳も使い切ってたはず…。




 ウチは、とても、嫌な、予感が、した。




「エムジ!!」


『らああああああ!!!』


 エムジが敵を握りつぶす。残った1本の腕で。これで敵の数は0。ウチ等の勝利。ハッピーエンド。そのはず。そのはずなんだ。


 ウチは再び即席の義肢を装備し、急いでエムジに駆け寄り、腰のパーツを分解する。以前分解方法を聞いて日記に書いていたみたいで、スムーズに脳の確認が出来た。

 普段は防衛用にロックされているが、使用する人物が許可した人間は自由に開閉出来るようになっている。


 そしてそこに、あったのは……


「嘘……だ」


 焼き切れ、オーバーヒートし、今にも絶命しかけてる、エムジの脳だった。

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