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第三章 04.5話『シーエの開発話』

 夜。アルビが寝静まってから、ウチはバニ様に昼間聞きたかった事を聞いた。


「バニ様バニ様、昼言ってた、ウチを開発したって話、本当か? あと濃厚な夜の件も詳しく」


「早速食いついてきたわね。流石詩絵美……いや、シーエちゃん。でも亜瑠美ちゃんが寝るのを待つだなんて、昔より節度を守れるようになったじゃない」


 昔のウチはどれだけ性欲の塊だったのだろうか。



「あなたの露出症、治ってなくて安心したわ」


「医者の口から出る言葉とは思えないな」


 流石医者。露出狂と言わずに露出“症”と病名で言ってくる。しかし今のウチは違う。ふふん。

 露出衝動で生活に支障が出てるのが露出症。困って無ければただの露出癖だ。


「ウチは今、ただの露出癖だよ。特に生活に困って無いからね。この症状では」


 こんなご時世だ。わいせつ物陳列罪程度の軽い犯罪など取り締まっている余裕はないだろう。戦争以外の犯罪も多数発生し、治安は悪化の一途を辿っている。

 まぁそんな事情が無くとも、傭兵稼業に支障をきたしかねないから露出は自重しているが。



「そっかぁ。そういう時代だもんね。昔のあなたはしょっちゅう警察に連行されてたから、立派な露出症だったわよ。まあ開発したのアタシだけど」


「おい医者!! お前それで良いのか!! ウチの生活困りまくってるじゃねぇか!!」


「あれは……あなたが15、6位の歳だったかしら、アタシの所に「生理痛が酷い」って受診しに来たのよね」


 ウチの突っ込みは無視ですか。そうですか。



「とりあえず見てあげて、痛みが出ない膣の構造になるように、肉体を改造する稼働魔術を教えてあげたわ。ついでに邪魔だったから処女膜はぶち抜いたけど」


「生娘に何してんの!!!?」


 こいつ、ヤバ過ぎる。



「ん? っていうかバニ様ずっと女性口調だよね? ウチの処女ぶち抜いたってことは、両刀?」


 まさかの初体験がバニ様説が浮上。萌え……るかなぁ。


「失礼ね! 魔力でぶち抜いたに決まってるでしょ!! アタシのおち〇ちんはアタシだけのためにあるの! あなたなんかに使うワケ無いじゃない!」


 謎理論でキレられる。つーかウチなんかて。酷くない? そして処女喪失は魔力によるロマンもクソも無いものでした。うむ。ある意味ウチらしい。



「でその診察の際にね、詩絵美ちゃん、恥ずかしそうにしてたんだけど、同時に目がトロンとしてて、気持ちよさそうにもしてたのよ」


「あーそれは容易に想像できるな。他人に、しかも異性に性器見られるとか、ウチとしてはおいしさしかない」


「アタシを異性として見ないでくれる? アタシは性別なんかに縛られないわ」


 めんどくさいなこいつ……。しかしそれ、初めての経験だったんだろうな。あー、その時の記憶が欲しい。オカズ的な意味で。


「アタシそれ見てピーンと来ちゃってね! 即詩絵美ちゃんを下半身裸のままキャスター付きの椅子にM字開脚で縛り付けて、院内をお散歩したのよ」



 M字……



「シーエちゃん? リアクションが薄いわね」


「ああ! いやいやいや! おい! 医者!!! なんだその病院!? そんなことが許されるのか!!? どういう事!? ねぇどういうこと!?」


 ウチは必死で混乱を“装う”。不意に挟まれたエムジという言葉に、思考が完全に持ってかれてしまって。


 しかし混乱はせずとも、冷静に考えてその病院はどういう事なんだよ。話だけでは病院の規模はわからない。総合病院なのか、小さな町医者なのか。町医者なら多少の狂行は隠せるだろうが、院内と言っていた。ある程度広いのだろうか。わけわからん。


「詩絵美ちゃん「やめて下さいぃ!」とか「見ないで下さいぃ!」とか言ってたけど、本心では喜んでるのがバレバレでね。可愛かったわぁ。ぐるっと一周回って、多くの人にじっくりねっとり見てもらったわ。わざとゆっくり院内を回ったからね♪ たまに止まって他の患者さん集めたりして」


 あ、やばいその話、おいしすぎる。聞いてるだけで股間に来るものが……



「診察室に帰って来たらもう、詩絵美ちゃん完全に出来上がっちゃっててね。それから生理痛は無くなったはずなのに、何かと理由をつけてアタシの所に受診しに来たから、病院外で開発をしてあげる事にしたのよ。毎回受診料払わせるのもかわいそうだしね?」


 変な所で良識あるなこの人は。つーか疑問なんだが……


「バニ様は何故にウチの開発を? さっき可愛いとか言ってたけど、異性、いや他者にも性的興奮を催すのか?」


「いや? アタシが興奮するのは、アタシに対してだけよ?」


 ナルシストか、こいつ。



「アタシはね、シーエちゃん。人が真実の姿に気づく瞬間が好きなの。アタシは根っからのグーバスクロ人だからね。生き物の、真の欲求、肉の欲望、そういったものを開花させることに喜びを覚えるのよ。だから医者になったの。性欲は生命へ直結する欲望。命を作る欲望よ。美しいじゃない?」


 医者になった件が全く理解できない。いや、前半の主張はわかる。でもそれが医者になった動機につながらない。謎。


「それからはいろんな場所で露出の喜びを教えてあげたわ。その甲斐あって、あなたはしょっちゅう捕まる立派な露出症になったと……」


「だから医者ぁぁぁぁぁ!!!」


「ちなみにあなたの元夫は、あなたを捕まえた警察官よ。彼も隠れ変態だったから、詩絵美ちゃんの事は一気に気に入っちゃったみたいね。一緒に開発してあげたら、すぐ仲良くなったわよ」


「警察ぅぅぅぅぅ!!!」


「その後は国家権力を利用して、色々ともみ消しながら二人で危ないプレイしてたみたいよ。シーエちゃんの逮捕率も下がったわ」


「犯罪じゃねぇか!! 権力の使い方が最低すぎるだろ!! ウチの元旦那!」


 てかウチの元旦那、出会った理由が酷すぎる。いや面白いんだけど、自分のことながら面白いんだけどね!! 彼の事に関しても、ウチの心には穴が開いてるはずなんだけど……ウチはその穴の形が卑猥に変形していく感覚を感じていた。



「二人とも貞操観念が緩かったから、アタシもよく一緒に参加して遊んだわ。あ、もちろんアタシは見たり魔力でいじったりするだけだけどね。旦那の名言「心さえ離れなければ浮気にはならない」は感動したわ。彼ネトラレ属性もあったみたいだし」


 ……それは感動して良い言葉か?



「濃厚な夜ってのはその辺の事か……」


「いや? アタシと二人きりの夜の事よ? もちろんアタシは魔力で攻めるだけだけど。触りたくなかったし」


「酷くない!?」


 ホントさっきからウチの扱いが雑い。エムジからもそうだったし、日常のアルビからもそうだけど、ウチは雑に扱われる星のもとに生まれたのだろうか。



「シーエちゃん、後ろも行ける口でしょ?」


「お、おう。……まさか」


「そう! それ開発したのもアタシよ♪」


 マジでか!! もうそれウチの元祖じゃねぇか。ウチという人格を形成した、父親だが母親だか良くわからない存在が、目の前にいる。


「ヤバイ。軽く感動する」


「ちなみに旦那の後ろもアタシが開発したわ」


「あ、ちょっとその話も詳しく」



 その後ウチはバニ様から、具体的な開発方法をじっくりと聞いた。露出方面でのプレイの数々、後ろの開発の数々。うわーやべー。これ当分オカズに困らねー。


 ウチが腰をモジモジしてたからか、バニ様が


「久しぶりに開発してあげましょうか。シーエちゃん。きっと気持ちよくなって、心も楽になるはずよ?」


「それは……」




『変な意地張ってないで、お前の色仕掛けに乗っちまったらよかったなぁ。俺だって年頃の男で、性欲あったんだぜ?』




 エムジが最期に言っていた言葉が頭を過る。その一瞬だけで、ウチの中に籠っていた熱は霧散していってしまって……悲しさと、愛おしさのみが心を支配してしまう。



「ごめん。バニ様。遠慮しとくよ」


「どうして? シーエちゃんらしくないじゃない」


「ウチさ、好きな人がいて。今ここで昇葬してる人なんだけど……エムジって言うんだ。そのエムジがさ、死に際に、ウチとヤりたいって、言ってくれたんだ。それまではずっとウチの誘いを拒否してた癖にさ」


「……」


「ウチは貞操観念が緩くて、バニ様にここでいじってもらうのも嬉しいんだけど……エムジが、悲しむかなって。シーエとしての初めては、前も後ろも、エムジのために取っておきたいんだ。ウチが天に昇って再会するまで、ね」



 そんな保証は、また会える保証は、どこにも無いんだけど。



「……そか。それも良いんじゃない? エムジちゃん、喜んでると思うわ」


「そっかな? そうだといいな」


「そうよ! 死者を想ってあげられるのは生者だけ。あなたがエムジちゃんの為にしてあげたい事があるなら、してあげると良いわ。それが、供養になるのよ。どっちの国の宗教も同じ」


「ありがとう。バニ様」


「どういたしまして。あ、でも気を付けて。死者を想うのは良い。でも死者に取りつかれるのだけは、やめなさいね」


「取りつかれる?」


「そ。人間は、あくまで生きてる方が主役なの。だから死者の為に自分の人生を投げ出すような生き方は、アタシはオススメ出来ないわ。あくまで、自分の幸せも探しながら、死者の事を想いなさい」


「中々難しいことを……」


「詩絵美ちゃんを知ってる身としては、難しいのは知ってるわ。でも、意識しておいて損はないわ。その方が、エムジちゃんと、ズンコちゃんだっけ? みんなも喜ぶわよ」


「そっかな……」


「そうよ! さあ、もう夜も遅いし、寝ましょう? 健康な精神は、健康な肉体から! 睡眠は重要なんだから、エムジちゃんを弔ってあげるためにも、しっかり寝ないと!」


「そうだな……。今日はありがとう。バニ様。ウチとしては出会ってまだ1日も経ってないのに、全然そんな感じしなかったよ」


「そりゃ詩絵美ちゃん時代からの友達だからねアタシは。あなたの本質は変わってない、優しい娘。だから生きててくれて嬉しいし、グーバニアンから解放されてくれて嬉しい」


「ん。ありがとう。じゃあオヤスミ、バニ様」


「おやすみなさい。シーエちゃん」



 その日の夜は、久しぶりによく眠れた。バニ様に言われた、死者に取りつかれてはいけないって話も、なんとなく分かった気がする。出来るだけ、幸せになってみよう。エムジとズンコを想いながら、今生きてるアルビとバニ様を大切にしながら。




 エムジの記憶が無くなるその日まで、ウチはそれが出来ると信じていた。


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