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第四章 03話『首都』

 1ヵ月後。戦力が終結したらしいレジスタンスは、グーバスクロの首都へと向かった。

 時刻は早朝。天候は晴れと良好で絶好の奇襲日和だ。魔力による位置探知が出来る我々にとっては戦闘時、光の量は重要ではない。相手が寝起きで思考が鈍い事と、雨が降っていないことが重要だ。

 ウチらレジスタンスは今日に備え、ある程度昼夜逆転の生活を行っているので早朝でも脳のコンディションは抜群だし。


『もう一度確認する。目標は首都の地下、600メートル程の場所にある物体の破壊だ。地下に入る道はいくつかあるが、最深部へ向かう道は一つしかない。これは私をはじめとした動機を知っている者達で行う』


 御劔からの通信が入る。


『動機を知らない者達は地上での支援を頼む。破壊対象に近づくと動機に汚染される可能性がある。動機を知らない者は地上での戦闘を起こし、私達が地下へ侵入出来る可能性を少しでも上げてくれ』


 これはウチら、動機を知らない組への指示だ。当然ウチもその後方支援組に配置される訳だが……。


『そろそろ各チーム共、首都に到着するわね。全チームが到着次第、作戦開始よ。……首都を見ても驚かないでね。特にマキナヴィスの人たちは』


 意味深な通信を最後に、しばらく御剣からの通信は止む。全員が到着するのを待っているのだろう。

 かく言うウチらも、森を抜け首都が遠目に視認できる位置に付いて──機械の体を持つマキナヴィス側のレジスタンス達から、息を飲む気配がする。

 遠方から敵側を確認できるという意味では、晴で良かったのかもしれない。



 そこには、グーバスクロの首都が広がっていた。いや、首都だったもの、それが広がっていた。

 赤い。色が赤い。周囲の岩も、中央にそびえ立つ塔も、地面も、全てが赤い。

 赤い素材で色相を統一しているのだろうか。いや、違う。これは……



「肉だ」



 見渡す限り肉に侵食された空間が、眼前に広がっていた。



 都市が丸ごと肉に包まれている。いや、肉で出来ていると言った方が良いか。建物も地面も脈動し、ヌラヌラと光る粘液に覆われている。都市部の端は普通に森林地帯なので、その赤さがより目に焼き付く。

 都市の中央には巨大な塔がそびえたっている。良く見るとそれと同型の塔は首都の後方にも続いて立ち並ぶ。中央にそびえたつ塔以外、人の住める空間は少なそうに見えた。塔のふもとに街らしきものも見えるが、肉に侵食され居住区として機能してるかどうか……。

 周囲には竜の様な見た目の飛行型グーバニアンが飛び回っている。恐らくは楽園派の、警備担当だろう。



 ウチは左目のレンズを調整しズームをする。と、中央の塔付近にも蠢く影が多く確認できた。中には機械の体を持った者もいる。楽園派、動機に汚染された者たちだ。海を渡れた者は少ないらしく、大多数はグーバニアンで構成されている。


 中央の塔だが、肉に覆われてはいるもののその内部には機械の構造も見える。宗教上の理由で肉だらけの街という訳では無い様だ。マキナヴィスの技術も利用し、何かをしている。恐らくは、脳仕掛けの楽園とやらを──。


『揃った様だな。……驚いたでしょう。これが私たちの国、宮葉巣玄ぐうばすくろの元首都、亜卯巣玄あうですくろよ』


 周囲のマキナヴィス人は固まっている。そりゃそうだ。こんなおぞましい光景を見せられたら、誰だって固まる。レジスタンス側のグーバニアンも、悲しい顔をしている。恐らく以前はこんな状態ではなかったのだろう。その証拠に、ウチも不思議と悲しい感情に支配されている。


(ウチは昔の首都に来たことがあるんだな……)


 なんとなく、地形に既視感を覚える。記憶のコピーに失敗したとはいえ、ウチにはかすかな記憶が残っているみたいだ。最初から胸に空いてた穴もそうだし、隣に置いてる鋼の竜を見た時もエムジを連想した。忘れてても、どこかで微量に覚えている。この土地も、そういう事なのだろう。


(生活習慣としていた記憶は忘れないらしいしな)


 現にウチは、記憶を失った直後に背中の穴にエムジの母親の脳をセットして保護した。この土地も、何度も訪れてるなら覚えてるはずなのだ。

 その既視感が、わずかな記憶が、恐らく今日役に立つ。そのための準備は済ませて来た。背中の穴は、既に開けてある。グーバスクロ流の脳の保存方法だ。


『中央にそびえる塔。あの下に破壊対象があるわ。奥に見える似た様な塔はその破壊対象を維持するための装置で、まあ目の前の塔も同じ代物なんだけど、とにかく破壊対象はアレの下よ。動機は知ってても首都を訪れるのが初の人間は、しっかりとルートを頭に刻み込みなさい』


 周囲を見渡すと数人がブツブツと独り言を言っている。何だ? 思念通信なら声に出す必要はない。誰かと会話してるみたいだが、内容は聞き取れないし、会話対象もいない。しいて言うなら、塔を見ながら、いや、塔の下を見ながらブツブツ呟いている。


「……」


 ウチはまた仮説を立てる。何と通信してるのか、そして、何故声に出さないといけないのかを、説明するための仮説を。


(バニ様とアルビも、どこかで独り言を言ってたのかな?)


 日記にはそのような記述はない。あの二人は隠すのがうまかったのか。それともウチの仮説が的外れなだけか。


『さて、そろそろ突撃よ。心の準備はいいかしら? 一か八かの、人類を救う戦いが始まるわ』



 ウチは鋼の竜にまたがり、決意を固める。戦争を、終わらせる決意を。


 戦いの火ぶたは切って落とされた。



   * * *



「サァァァァァァイ!!!」

「「「うおおおおおおおお!!!」」」


 後方支援組、つまりウチらが雄叫びを上げながら塔へとなだれ込む。ウチらの役目は地上で出来るだけ敵を引き付ける事。つまり陽動だ。動機を知らないウチらが暴れてる隙に、動機を知っている御劔達が地下へと攻め込み、首都の地下を爆破する。


 プランとしては簡単だが、内容は全く持って簡単ではない。特に、御劔率いる爆破班は……


「らああああ!!」


 鋼の竜で一気に切り込み、数人のグーバニアンを排除する。御劔達の心配は一旦後回しだ。今はウチのやるべきことを。ここで死ぬ訳にはいかない。

 ウチは鋼の竜からエムジの母親の脳を取り、自身の背中にセットした。あらかじめ開けておいた、肉の穴に。そのまま竜は乗り捨て、詩絵美の体で切り込みにかかる。


「サァァァァイ!」


 今回の戦闘、敵も味方もグーバニアン率が高い。そしてマキナヴィス人だからと言って敵かは判断できない。普段は思念での通信で敵味方を判別したりもするが、敵が動機を振り撒いてくる可能性があるため皆思念も聴覚もブロックしている。つまり、誰が敵で誰が味方か分かりにくい。


 ただ今回の作戦では、それは大して問題にはならない。とにかくウチらは上で騒げばいいのだ。同士討ちをしたとしても特に問題は無い。


(使えそうな、素材を!)


 そんな中、周囲に群がる人物を適当に切り倒しつつ、ウチは別の思惑の元動いていた。程よくクリーチャーな、ウチが擬態可能な体を探して──


「……見つけた」


 今のウチの姿に近く、足が逆関節になった、グーバニアンを。


「サァァァァァイ!!」


 ウチは一目散にそのグーバニアンに近づき、手足を切断にかかる。待ってと聞こえた気がする。もしかしたら味方かもしれない。まあどっちでも良い。もらうぞ、その手足。

 何故聞こえた気がしたか、理由は簡単だ。だってウチは、最初から思念も聴覚もブロックしてないから。幸か不幸か、敵も動機の流布はしてきていない。レジスタンスが思念をブロックすると知っていたのだろう。そう、知っていたはずだ。


 手足を丁度いい長さに切り取りつつ、ついでにそのグーバニアンの脳も破壊する。今背中にはエムジ母の物の含め4つの脳がセットされている。これ以上はいらない。


 ウチは急いで服を脱ぎ、機械の手足をはずす。エムジとズンコの腕を外すのは寂しさもあったが……、今は目的のため、しょうがない。心を鋼にして、耐えろ。

 両腕と共に、大切なものが色々と落ちて行ってしまう気がした。凄まじい喪失感がウチを襲う。その穴を、埋められるか否かは、これからのウチの行動次第。



 素早く先ほど切り落とした手足を装備し、即席の義肢にする。ついでにその辺に転がってるグーバニアンから変形した指も切り取り、口に装備してみた。後は接合面が目立たない様に全身を血で塗りたくれば完成だ。

 これで、ウチはどこからどう見てもグーバニアンだ。全裸で、全て生身の素材で出来たクリーチャー。元々無い下顎にはその空間を埋める様にウあ顎から生やした生身の指が生えそろう。

 誰が敵か味方か解らない戦場。つまりウチも、グーバニアンに化けてしまえばどちらか分かりにくくなる。一応、レジスタンスの方がマキナヴィス人の割合は多かった。特に元々グーバニアンだったウチは、溶け込みも楽に行くだろう。もし楽園とやらに認証システムがあったとしても、この脳は以前アルビも使っていた、つまり一度は楽園派だったのだ。仲間と認識される可能性は高い。

 あとはウチの中に残っていた、首都の構造の記憶。地下への道筋をたどれば、たどり着ける。──脳仕掛けの楽園へ。



 そう思っていた矢先。



「「「はあああ!!!」」」



 複数のグーバニアン、恐らくは楽園派が、一斉にウチに切りかかってきた。



   * * *



「な!?」


 とっさに体を引いて攻撃を避ける。


(何故ウチだけを集中的に!?)


 確かに、ウチの戦果は今回の戦闘では上々だ。開幕鋼の竜で数人倒し、その後襲い掛かってくる敵と思われる人物も数人、そしてこの手足を持つグーバニアン。戦力として強そうだから潰そうというのはわかる。

 しかし彼らからは、そういった戦術的な意図とは違うものを感じる。彼らの目つきは、優しさに満ち溢れていた。

 グーバニアンは、楽園派は、人を殺す時に悲しそうな、つらそうな顔をする。しかし今、目の前の敵の顔は、正反対の表情をしてて。


(ウチの素性を知った上で、動機を知る前に殺そうとしている!)


 恐らく、これで当たっているはずだ。誰かが、ウチの存在を伝えたのだ。その証拠か、みなブツブツと独り言を言っている。周囲の戦闘音が大きく、何を言ってるか聞こえないが、口の動く動作は話す、止まる、話す、止まるを繰り返しており、誰かと会話してるのだろうと推測される。


 敵は会話しながらも、攻撃を仕掛けてくる。4対1。以前の様に頼れる相棒、強いエムジがいる訳ではない。このままでは、確実に殺される。今ここで死ぬ訳にはいかないんだ。



 だからウチは叫んだ。ありったけの声で



「…………………!!!!」



 敵の動きが、止まる。

 周囲の戦闘音によってウチの声はかき消されてしまったが、ウチを襲って来た敵にはその内容が通じたみたいで──


 彼らは攻撃を止め、道を開ける。そこは、地下に通じる通路の、一つ。

 ウチは彼らの脇を過ぎ、通路に入っていく。



「後悔するよ」



 グーバニアンの一人が、地下に降りるウチに声をかけた。



「しないよ。しないために、ウチは来たんだから」



 そう。後悔はしない。ウチは真実を確かめに来たんだから。ウチの推測が正しいのか。そして正しかった暁には……。

 いざ、脳仕掛けの楽園へ。



   * * *



 地下通路をしばらく進むんだ先には、多くの死体が横たわっていた。恐らく、レジスタンスの者達だろう。


「やっぱり」


 御剣も懸念していたが、恐らくはレジスタンスにスパイがいたのだろう。地上の敵が思念で動機を送ってこなかったのが証拠だ。こっちの作戦が全部伝わっている。


 動機を知った人間は、正気を失う訳では無い。自分の考えで動く。そして正気のまま、人類滅亡を望むのだろう。

 その方法は何も、目の前の人を殺すだけとは限らない。バニ様みたいに技術者として敵国に潜入し、動機を流布したり、アルビみたいに、楽園派でありながらも、もっと優先する対象、ウチの幸せを考えたり。


 ならば、動機を知った上でスパイとしてレジスタンスに入るという行動も特に違和感は無い。その人間の本心なんて、超低確率のハックを成功させない限り読めないんだから。


 だから楽園を破壊しに行った御劔達は、恐らく道中で楽園派の待ち伏せを受け、全滅することになるだろう。そう考えていたが、まさにその通りになった様だ。

 駐屯地を襲い中途半端にレジスタンスを分散させるより、まとまった所を叩く。楽園側はそういう作戦を取ったのだろう。周囲の地下通路には楽園派と思われるグーバニアンが無数に蠢いていた。


 死体を素通りし、ウチは地下へ向かう。思った以上にすいすい進める。もっと楽園派と戦闘になると思っていたが……。先ほど道を開けてくれたグーバニアン達が、通信を入れてくれたのだろうか。それとも──

 ともかく、周囲のグーバニアン達はウチに攻撃を仕掛けてこない。悲しそうな目でウチを見ているだけだ。まるでこれから地獄に行く人間に、同情してるような。

 彼らはウチへの同情を一瞬見せただけで、本来の役割、別のルートから入ってくるレジスタンスを警戒する作業に戻る。



 ウチは高鳴る鼓動を落ち着かせながら、地下へ地下へと、蒸気機関のエレベーターで降りて行く。600メールと言ったか。ずいぶん深い場所にあるものだ。

 降りるに従い、若干周囲の気温が上がった気がする。確か地下に潜るほどマントルに近づき、温度が上がると聞いたことがある。具体的な数値は忘れたが……日記に書いてないので記憶を失う前の記憶か。

 恐らくだが、ウチは理系なのだろう。そういった話題や造形物が好きなのだ。


(蒸気機関車を見た時も、はしゃいでたらしいしな)


 エムジとアルビと共に、空港に向かったときの大切な思い出。今は全く思い出せないけど、その時のウチがいかに楽しかったかは、日記にたっぷりと書いてあった。


(もしかしたら、もうすぐ……)


 高鳴る期待と、それに付随する絶望に心を揺さぶられながら、ウチはひたすら地下へ地下へと降りて行った。



   * * *



 地面が見えた。いや正確には見えてない。地面を感知した。

 こんな地下深くまで光は届かない。周辺に光源も無いのであたりは暗闇に包まれている。この空間では視力は全く役に立たない。なので薄暗くなり始めたあたりから、ウチは稼働魔力のセンサーを利用して降りていた。自身を中心に、半径50mくらいの範囲までなら立体構造を感知できる。そのセンサーが、階段ではない広い床の存在を感知した。


 地面に到着する。とてつもなく広い空間が広がっている。先ほどまで降りて来たエレベーターと階段側の壁と、今立っている床以外、特に感知出来るものが無い。


(もし数100メートルクラスの空間だった場合、センサーだけでは迷うな)


 何か基準になる物が無いとまずい。光源でもあれば視力も使えるが、この空間で火を燃やすのも怖い。可燃性ガスが満ちている可能性もあるし、地底では酸素が無くなる可能性もある。酸素の方はこれだけ広ければ大丈夫だろうが…。

 酸素濃度は特に低くは無いみたいだ。人が沢山住んでる訳でも無いだろうし、呼吸する生き物がいないのだろう。もしくは地上にダクトが伸びていて、新鮮な酸素が供給されているか。


 とりあえずセンサーで探れる範囲を探って、何も無ければ光源を作ろうという結論に至った。

 背中の階段を感知できる範囲でウチは前に足を進める。すると幸いな事に、前方にも壁を感知した。良かった。だだっ広い空間では無いみたいだ。

 ただ、その前方の壁の形が、何か変だ。さっきから壁には至る所に肉がはみ出ているので全て変と言えば変だが、前方の壁はただの肉ではない。



 ……これは、脳だ。脳の集合体だ。



「連結脳、サーバー……」



 ウチは確認のためその脳の集団に近寄っていく。どこまで近寄っても、センサーには奥に広がる脳の集団が感知され続ける。

 ついに脳の壁の目の前まで来てしまった。それでも50メートル先は脳の集団だ。それどころか、左右も、上も、感知出来る限り一面脳の塊だった。

 ウチはとりあえず右に移動してみる。どこまで行っても脳しか無かった。少し駆け足で、200メートル程走っただろうか。それでもまだまだ先は掴めない。壁に当たらない。


「こんなデカいサーバー、聞いたこと無い……」


 以前聞いた実験で使われたサーバーが高層ビル一つ分らしい。このサーバーは、どれほどの大きさなのだ? こんなデカいサーバーが、首都の地下にあるなんて。


 つまり、これが……


「脳仕掛けの、楽園」


『ああ』


「!?」


 不意にウチに思念が飛んでくる。近くに人はいない。このサーバーを介しての通信か。でも、この声。たった一言の声。


 聞いたことが無い声だった。初めて聞く声だった。なのに、ウチは、この声を知っていて。聞くだけで、涙が溢れてしまって。

 体を支えていた魔力が抜け、四肢がばらける。とっさの事にウチは脱力してしまった。だって、ずっと聞きたかった声だから。ずっとずっと、思い出したかった声だから──!




「──エムジ!!」




 ウチは気が付いたら、最愛の人の名を叫んでいた。もう声が聞けないと思っていた、もう思い出せないと思っていた、最愛の人の名を。



『……一言だけでわかるのか。嬉しい様な、キモイような』


「えぇ……」


 キモイて。でもこのふざけた感じ、安心する声。間違い無い、エムジだ。エムジがウチに通信をして来てる。



『やっぱり、ここまで来ちまったか。外の連中にもお前を殺すように伝えたんだがな……結局はお前に道を譲った。いつだって、判断や選択は生きてる人間にしか出来ない。レジスタンスにもダメ押しでお前を殺すように送ってたんだが、信用されてる人格以外は全部ブロックされてたからな』


『ごめんね。ボクがあの時しっかり殺せてなかったから、シーエは生きてここまで来ちゃった』


 もう一人、見知らぬ女性の声が聞こえる。とても愛おしい、可愛らしい声が。


「……アルビぃ」


 もう涙でぐちゃぐちゃで、何が何だか良く解らなくなる。涙をぬぐおうと思ったけど手が無かった。ああ繋がないと。



 会いたかった。ずっとずっと会いたかった。声が聞きたかった。もう二度と聞けないと思ってた。死は、永遠の別れだから。あるかどうかも解らないあの世を信じて、余生を送るしかないと。常に不安に押しつぶされそうになりながら、ここまで来た。

 それが、それがまた会えるなんて……声を聞けるなんて……生きてる内に、願いが叶うなんて……



『もう、気が付いていると思うが……これが、奴らの動機。俺らが戦っていた相手の、動機。はるか昔に作られた、超巨大連結脳サーバー、人工の天国、脳仕掛けの楽園だ』


 これが、脳仕掛けの楽園……名前からなんとなく想像はしていた。連結脳サーバーなのだと。そしてその能力も。でも、本当に実在するなんて。そんな技術があるなんて……。


 そしてこれが、知ると汚染されるという、動機の正体。人類滅亡を目指してしまう、トリガー。



『色々聞きたい事もあると思うが、まず一つ、聞いてほしい願いがある。なあシーエ、頼むから──』




『──ここで死んでくれないか?』




 ウチは最愛の人に、死を願われた。

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