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第四章 07話『決断』

「エムジの、お母さん」


 声が聞こえるが姿は見えない。しかしこれは思念通信ではない。声が、肉声が聞こえる。楽園という連結脳サーバー内で肉声というのも変な話だが。


「はじめまして、シーエさん。ごめんなさいね。お互いのためにも、たぶん、私の姿は見せない方が良いと思って。詩絵美さんもまだいる事だし。名前も、あなたには教えない方が良いわ」


 ここでは姿を自由に変えられると聞いていたが、透明になることも可能なのか。いや、詩絵美はお互いが望めば肉体的接触も可能と言っていたから、今は透明人間ではなく、人格情報だけがこの場に存在する状態か。



 合体していた石灰夫妻がいそいそと元に戻る。特に詩絵美はバツが悪そうな様子だ。自分が殺した相手。その登場に、流石に行為を中断したのか。……ウチが殺した相手でもあるのかな。


「あら詩絵美さん、続けないの?」


「いや流石に……マ、いえすみません。名前はシーエの為に言わない方が良いですね。ウチだって、このメンツの前だからセックス出来てただけで、ウチが殺した相手にはふざけた姿は見せられません」


「もう、あなたの事は許したと言ってるでしょう? エムジもこっちに来た事だし。私が亡き後エムジの人生を幸せにしてくれたのも、あなたのコピーなんだから」


 複雑そうな顔をする詩絵美。エムジ母の方は過去の事は清算出来てても、殺した側の心の中ではまだ整理が付いてないのかもしれない。ウチと同じ性格だ。許されたとしても、ずっと懺悔し続けるのだろう。


「母さん、シーエの事をコピーって言うのはやめてくれ。こいつは詩絵美とは別人。シーエっていうれっきとした人間だ」


「あらあら。うちの息子は惚れた女の子に夢中なんだから」


「……母親相手だと毒づく事も出来なくて、居心地が悪いな」


 エムジを言いくるめられる唯一の人かもしれない、エムジ母。強し。


 ウチは彼女に対し──



「お義母さん、とお呼びすればいいのですかね? この場合」


 元の人格が殺した相手であり、ウチの最愛の人の母親であり、ウチはどう接したものが困る。


「……あなたにそう呼ばれるのもむず痒いわね。まだ結婚してないのに。もしあなたが死んで、この楽園でエムジと結ばれたら、そう呼ばせてあげるわ」


 …じゃあウチは何と呼べば? っていうかウチとの結婚許してくれるの?? 人格情報同士の結婚は、厳密には結婚じゃないんだろうけどさ。



「姿も見せないし、名前も教えない。残念だよ。せっかくなら俺の最愛の人を母さんに紹介したかったんだがな」


「ちょ!? え、最愛の人!!?」


 全く、楽園で再会してからのエムジは爆弾発言を連発するな……。ただでさえ情報量過多なのに、ウチの脳がオーバーヒートするぞ。


「愛してる人間に愛してるって言って何が悪い。死ぬ直前にも言ったじゃないか」


(こいつ6年デレなかったくせに、一気にデレやがって!! しかもそこに恥じらいも気まずさも全くねぇ! むしろウチが赤面する!)


「え、何赤くなってんの? キモイ」


「おいいいい!!」


 やっぱエムジだった。何も変わってねぇ。その上でデレてる。何だコイツ。



「それはそうと、その刺激の強い見た目は何とかならないのか。シーエも詩絵美も。童貞の俺には刺激が強い」


「な、なんて可愛い事を! たべちゃうぞよ!? その童貞、ウチが食べちゃうぞよ??」


「へー」


「あ、すみません……」


 エムジ母に一言言われただけで勢いがなくなる詩絵美。弱い。

 ていうかエムジ、それ絶対嘘だろ。さっき石灰夫妻が合体してても顔色一つ変えて無かったろ。詩絵美からかうためにわざと言ったな。エムジなりの場の和らげ方か。


「詩絵美には悪いが、エムジの童貞はウチが貰う」


 ……エムジのお母さんの前で言う話じゃない気もするんだが、何か今宣言しておかないといけない気がした。詩絵美は、危ない。同族嫌悪だろうか? けん制しておかねば。


「ああ。もらってくれるんだろ? バニ様との会話で聞いてたよ。俺の為に取っといてくれてるってな。楽しみにしてるぞ?」



「…!!?……!!?!?!?」



 なんだコイツほんとに! ウチの爆弾発言を無視して、むしろそれを利用してウチを動揺させに来やがる。なんでウチがめっちゃ恥ずかしくなってんの!?



「……楽しそうで何より。ともかく、息子の意見は尊重するわ。好きにすると良いし、楽園が存続して、あなたがシーエさんと、ここで結ばれるなら歓迎する」


 エムジのお母さんは涼しい声で言う。さっきから思ってたけど、親公認? エムジも生前から大概な性格してたが、母親も相当な大物だなこれ。


「でも、私は詩絵美さん事は許したとは言え、その行いは正しいものでは無かったと思ってる。その意思を継ごうとしてるシーエさんにも、言いたい事がある」



 あぁ、ここからが本題だろう。



「私は、人類を滅亡させるのは間違ってると思う。人間は出会いと別れを繰り返し、子孫を次に残し、生きて行くべきなのよ。この楽園は存在しない方が良いわ」


 以前グーバニアンも言っていた、至極まともな意見。その意見に対してはぐうの音も出ない。でもそれをあなたが言うってことは──


「あなたの人格ごと、エムジも消えても良いと、考えてるんですか?」


「そう、ね。正直詩絵美さんの気持ちもわかるし、楽園派の気持ちもわかる。でもその上で、ここは存在しない方が良いと私は思うわ。私もエムジも、既に死んだ身。しかもここにいる私たちはコピーされた人格。本物の魂じゃない。ここを守るために人を殺すのは、本末転倒よ」


 強い、強い意志を感じる。恐らくは御劔やレジスタンス上層部と同じ類の。


「そもそもこの楽園は生きてる人を応援するために作られたはずよ。楽園が原因で人が死ぬなんて、本末転倒にもほどがあるわ。私はエムジに生きていて欲しかった。たぶん他の親も同じ気持ち。子に、生きて、可能なら世代をつないで欲しい。エムジが死んだ今、それは叶わないけど、子に生きていて欲しいと願う親は沢山いるはずよ。次の世代に、命を繋げるの」


 詩絵美がつらそうな顔をしている。彼女は、彼女らの願いを沢山潰してきたから。



「母さん、理屈ではわかる。たぶん、ほとんどの楽園派がそう思っている。でも俺は、母さんが先に死んでしまって、ここで再会出来て、とても嬉しかった。俺は既に死んでるから選択肢はもう無いが、もし生きてこの楽園を知ったら、母さんを守るために世界を敵に回したかもしれない」


「エムジ……」


 エムジもどこか悲しそうに呟く。心情的には彼も詩絵美達と同じなのだろう。これは恐らく、先に死んだのか、取り残されたのかの違いってだけで……



「ボクはエムジのお母さんに賛成だったな。先に死んだ人間ていうのは、意外とそういうものなのかも。まだ生きている人に、幸せに、人として生きて欲しいって思う。ボクも詩絵美にずっと思っていた」


 亜瑠美が言う。恐らく、ウチもそうなんだろう。エムジと最期に一緒に戦ったあの日、先にウチは死ぬ気だった。エムジを守るため、エムジに幸せになってもらうために、最期の攻撃を仕掛けようとした。

 もし先に死んで楽園に来ていたら、ウチはエムジに対し同じ思いを抱いてたろう。ウチの事はいいから、楽園の事はいいから、幸せになってくれと。

 アルビがウチにしてくれたみたいに、楽園の事を知らずに、どこかで暮らしてほしいと。



「ただ残された人間はそうはならない。再会できた喜びと、また別れなくてはいけないのかという恐怖と戦う事になる。ウチはそうだった。新しい方のアルビだって、エムジ失ってそうなったろ?」


 詩絵美がコメントする。今のウチは、詩絵美と同じ状況だろう。聞かれたアルビは──



「そうだね。同じくボクもね、途中までは元のボクと同じで、楽園壊す事考えてたけど。ずっと言ってたでしょ? 幸せに生きてって。ボクとしてはエムジとシーエが生きたまま結ばれて、その上で楽園を壊してくれるのが理想だったけど……。でもそれは無理だった。それにボクは、先にエムジを失った。もう一人のボクには、このつらさは多分解らない。残されるつらさは。──だから、僕は楽園派になった」


 二人のアルビで、意見が食い違う。立場の、タイミングの問題なんだろう。先に死んだ方が気が楽っていうのも、変な話だけどさ。


 皆が意見を言う中、清聴していたエムジ母が口を開く。



「だからって、もう殺さなくても良いじゃない! 人間の数は激減した! 楽園の容量限界は、遠のいたでしょう!?」


 先ほどまでの皆のトーンと違い、エムジ母の口調は荒い。これ以上悲しみが増えるのが耐えられないのだろう。その気持ちは、気持ちだけは、ウチも同じだ。



「確かに遠のきました。でも完璧じゃなくては、ウチは、というか外の皆は安心出来ない」


 詩絵美は譲らない。



「詩絵美さん!! そんな……楽園の中の人々は、いつかはいなくなるのでしょう? 人の数が減った今なら、また以前みたいに増える数と減る数が同じになるんじゃないの?? それでも足りないならもっと脳を増設して容量を増やせばいいじゃない!」


 さっきと少し話がずれてる気がするが、エムジのお母さんの新しい主張も解る。ただ、それはたぶん叶わなくて。



「母さん。そんな簡単な問題じゃないんだ。何度も言ったろ。人は減った。しかし開発されてしまった技術は後退はしない。楽園派が攻撃を止めれば、また人口は増える。その時にまた、楽園を知っている人間は恐怖し、今と同じ間引きが始まる。今全て終わらせるか、定期的に間引いて悲しみを産み続けるか。どっちが良いかって議論を、グーバスクロは散々したらしいんだ」


「脳の増設はもう出来ないみたいなんです。ウチも詳しくは無いから、バニ様に聞いてみて下さい。今の国土の半分という大きさがもうギリギリで、これ以上はカロリーの生産と供給が追い付かなくなる」


「マキナヴィスの土地を使えば! 今あの国は崩壊してるのでしょう? ならそこに増設用の脳を置いて、作物を栽培してカロリーを作れば!」


「それも、問題を先延ばしにしてるだけだよ、母さん。いつか人は増える。楽園が出来た当初は、こんな人間が生きやすい状況じゃなかったんだよ。医療も、生活水準ももっと下で、人はそんなに増えなかったんだ。でももう、技術が出来た今は、その水準には戻らない」


 エムジと詩絵美が、無慈悲な回答をしていく。恐らくこの議論は、グーバスクロが人類滅亡を立案した時点で、散々しつくされた議論で。



「これ以上人が増えるのが困るなら、国が管理して人口を調整すれば!」


 エムジのお母さんは譲らない。でもそれはもう、最初にしていた楽園を不要とする主張ではなくて。


「それに、生きてる国民は納得できますかね? 自由に子を産めない国を。しかも国はその理由を言わない」


「隠れて産む人間も沢山出るだろうしな。俺は子を育てたことが無いから解らないが、詩絵美と母さんならそのつらさ、解るんじゃないか?」


「……」


 エムジのお母さんは黙り込む。



「この楽園も、正直今はディストピアだと思うが……人口を調整されて生きる世界も同じくディストピアだろうな」


「……楽園の情報を全人類に流布して、皆に納得してもらうのは? 国が説明して、みんな楽園のために自分達で管理するのは──」


 楽園は無くなるべきという主張から、だいぶ離れてしまった。でもそれくらい、エムジのお母さんは今の状況を何とかしたいのだろう。ウチだって、出来る事なら何とかしたい。出来るなら、だが。



「無理、だと思います。楽園に汚染されるのは、先に大切な人を失った人のみ。特に不慮の事故や、望まない別れを経験した…人。悲しい別れを経験してない人は、楽園に特に魅力を感じません。楽園のせいで此度の戦争が勃発したのだと知ったら、楽園を憎むでしょう。だって今、双方の国は壊滅。生活はとても不自由になってますからね」


 動機は弱点でもあると、昔アルビは言っていた。汚染されない人間にとっては、邪魔な対象でしかない。それこそ先ほどエムジのお母さんが言ってた、人間の正しい生き方を阻害している装置に他ならない。元は、生きるのをサポートする装置だったにも関わらず。


「その楽園のせいで自由に子供が作れないとなれば、なおの事……。そういった汚染されない人間達が集まれば、またレジスタンスが出来る。外の楽園派は、それを恐れてます。なあシーエ、キミはどうだ?」


 詩絵美がウチに振る。ウチは──




「ウチは……怖い」




 ただ一言だった。口から出たのは。

 ただただ、エムジ達とまた別れるのが、怖かった。その可能性が少しでもあるなら、安心、出来ない。


 人が生きて行く道はあるのだろう。人口を管理したディストピアを作れば。でもそれは、不安の種を常に孕んでいて……。

 楽園派が寿命で減っていき、平和な期間が長くなれば、国民から反乱がおこってもおかしくない。その過程で楽園を知った人に、汚染されるタイプの人間がいれば、再び今と同じ殺し合いが発生する。その数が少なければ、楽園が破壊される。どの道悲しい争いが起きる。


 ウチはまだまだ、もっともっと沢山、エムジと一緒にいたいんだ。それこそ、普通の人間の一生と同じくらい。ウチの記憶は12年しかないんだ。あと70年くらいは最低でも、エムジと一緒にいたいんだ。グーバスクロの医療技術進歩で、今や人間は100歳まで通常に生きられるようになったんだ。本来過ごせるはずの時間を、エムジ達と共に……。ウチの本当の肉体年齢で考えても、あと40年くらいは一緒にいられるはずだったんだ。

 この楽園に出現した人格は現世で十分大切な人と一緒にいたとしても、それから100年程一緒にいるんだろ? ウチはエムジと、6年しか一緒にいられてないんだ。もっともっと、一緒にいたいんだ。

 折角会えた。折角、ずっと一緒にいる事が出来る場を提供された。それが無くなるなんて、耐えられるはずが無い。



「……シーエの今の反応が全てです。その結果が、今の惨状なんです。ごめんなさい。エムジのお母さん。それに今ここでウチらがシーエを説得しても、外の楽園派は止まらない。人類の滅亡は、止められないんです」


「そう……そうよね。楽園派を止めることは出来ないわね。それは解ってたわ。ごめんなさいね。途中で主張が変わっちゃって。でも私は諦めてないわ。だってレジスタンスの存在がある。まだ御劔さん、死んでないんでしょう? シーエさん、あなたが協力してくるなら、楽園の破壊だって」


 御劔が、生きてる!?

 ウチは衝撃の発言に驚いた。あの楽園派の中を、生きて突破したのか。それともスパイの存在に気が付き、どこかへ逃げたのか。

 何故生きてると解るのだろうか。楽園のシステムと関係が?



「できなくは、無いな。楽園の破壊。難易度はかなり高いが」


「エムジ!?」


 詩絵美が焦った声を出す。


「シーエの選択次第だって事だよ。いつだって選択出来るのは生きてる人間だけだ。この中じゃそれはシーエだけ。選択したところで失敗する可能性が99%以上ってだけで、不可能ではないだろう」


「エムジは、ここが無くなっても良いというのかい? ウチ……じゃないな。シーエと会えなくなっても」


「よかねぇよ。でもな、俺はシーエの選択に任せたいんだ。詩絵美は先に失った派だから、ここを何としても守りたいだろうが……俺は失ってもいるが、今生きてる大切な人もいるんだ。という訳でシーエ」



 エムジはウチに選択を迫ってくる。

 恐らく最後の、選択を。



「シーエ、お前はどうするんだ? 出来ればお前にはグーバニアンと同じ道を、詩絵美と同じ道をたどって欲しくない。最愛の人に、不幸になって欲しくない。今すぐ死んで楽園の今後を見守らないか? 人類が滅亡して楽園が残るか、レジスタンスや他の勢力が勝って楽園が滅ぶか。前者なら一緒にいられるし、後者ならその時は一緒に逝ける。どっちでも俺は悪く無いと思ってる。お前と一緒にいられるならな。楽園を知ったほとんどの人間が自殺してるんだ。人を殺す選択なんて簡単には出来やしないからな。だからお前がここで死んでも、責める人間は誰一人いない」


 エムジはあくまでウチに楽になる道を進めてくる。ウチが逆の立場なら同じことを言ってるだろう。


「ボクも同感だよ。だからシーエ、自殺して、こっちに来て」


 エムジとアルビの提示した選択肢は、自殺。



「ウチは逆だ。元が同じ人間だからこそ、やり遂げて欲しい。キミの大切な人を、守るために人殺しをしてほしい。まだ完璧じゃないんだ。エムジの言う通り1%くらいは負ける可能性がある。シーエ一人で戦力がどうこうなる戦場じゃないけど、いた方が良い。少しでも勝つ可能性を上げたい。もう、別れたくないんだ。ずっと一緒にいたいんだ。ウチはここで、大切な家族と、友人と、一緒に。なあシーエ、キミも、ウチなら分かるだろ? この気持ちが」


 自分の仕事を引き継いでほしいと言う詩絵美。

 彼女の提示した選択肢は、生存して楽園派として人殺しをする事。



「私は反対。この楽園は永遠の停滞、未来が無い。好きな人同士、ずっと一緒にはいられるけどただそれだけ。新しい子供は生まれない。夢を目指して成長も出来ない。未来に向かって歩むことが出来ない。人としての、正しい姿が無い。達成はとてつもなく難しいけど、御劔さんと組んで、楽園の破壊を目指してほしい。別れの悲しみはつらいものよ。でも人は皆、立ち上がる。少しの休憩を挟んで、時間がたったら、また。そうしなければ、歩き出せるようにならなければ、人間じゃない。停滞しかないこの世界では、それが出来ないから」


 エムジのお母さんは、ウチに世界の正しい姿を取り戻してほしいと言う。これはウチが元々、エムジと一緒に傭兵をやりながらずっと望んでいた願いだ。そしてそれは悲しむ人のいない、愛が侵害されない平和な世界を作りたいという、エムジの初期の願いでもあって。

 エムジ母の提示した選択肢は、楽園の破壊。




 ──凄まじく簡単な3択だった。




 辛い今を放棄して自殺し、今後の展開を他者に任せ、大切な人とその後を見守るか。



 再び会えた大切な人を守るために、人殺しになるか。



 大切な人たちと再び別れ、世界に平和をもたらすか。




 大切な人を先に失った者が楽園へのアクセス権を得る。するとこの3つが選択肢に上がるのか。流布する楽園派は、楽園がこのままでは無くなる事もセットで伝えたのだろう。

 後は途中までアルビが言ってた、戦争から逃げて余生を過ごす選択か。これは1番目の選択に似てるな。

 もしくは大切な人を殺した楽園派への復讐をする、つまり最終的には楽園を壊すという道もあるか。でもこれは結局、3番目の選択肢とやってる事は同じだな。


 1番目の選択肢を選べない人間にとっては、これは地獄だ。折角会えた大切な人と、もう一度別れる恐怖に駆られ、人を殺すか。

 心を鬼にして、人類の為か復讐の為に、既に死んだ大切な人を、もう一度殺すのか。


 1番目の選択だって、待ってる間は気が気じゃないだろう。楽園が無くなるかもしれない恐怖。楽園の存続を、人殺しを、他人に任せてしまったバツの悪さ。そんな思いに苛まれる。



 これが、汚染。この地獄を知った楽園派が、当時戦っていたグーバニアンが、悲しい顔で戦っていた訳だ。死に際に、ホッとする訳だ。自分から死を選べないから、どこかで殺してほしいって思ってるんだ。




 じゃあウチは? ウチが取る選択は?




   * * *




 少しの沈黙の後、ウチは動き出す。選択は決まった。さあ、旅立とう。





「待って待ってシーエちゃん!」


 いつの間にか起きていたズンコが、ウチを呼び止める。何だよ今決意を固めたのに。



「折角だから出発の前に、お茶していきましょう? 次はいつ会えるのか、そもそも会えるのかすらわからないしネ!」


 あぁ! お茶会。あの日叶わなかったお茶会を、今ここで。



「それはいいね。ズンコ」


「ホラホラ、皆も集まっテ! アルビちゃんも人間に変身して! エムジちゃんも、詩絵美ちゃんも、英雄ちゃんもエロい方の亜瑠美ちゃんも!」


「エロい方って何!?」


「ウチそろそろ自己満足の巡回に戻りたいんだが……」


「いいかラ! 座るノ!!」


 ズンコの押しが強く、結局はみんなテーブルに座る。


「母さんはいいのか?」


「私は遠慮しておくわ。すべてが終わって、それでも楽園があったら、参加させてもらうわ」


 そういってエムジのお母さんはどこかへ消えた。もしかしたら近くにいるかもしれないが、声は聞こえなくなった。



「Wow! やっぱり人間姿のアルビちゃんは可愛いしエロいね! パンツ履いてるノ? お揃いになろうヨ」


 おもむろにアルビのスカートをめくるズンコ。


「はいてるよ!! 何言ってるの!?」


「よーし、じゃあ脱ぎ脱ぎしましょうねー♪ パンツは脱がされるためにあるからね」


「やめ、詩絵美!! あー!!!」


 目の前で娘ver2のパンツを脱がす詩絵美。うむ、狂ってるな。でもウチもアルビにはノーパンを強要したい。ていうか絶対アルビ喜んでるだろ。いつでも好きな姿になれるのに、脱がされるのを許してる時点でもうね。エムジも見てる事だし。


「あ、エムジに脱がせてもらう方が良かった?」


「な!?」


 そう言ってパンツを上げる詩絵美。アルビは真っ赤になってる。


「否定しないってことはそういう事だね。じゃあエムジ、任せた!」


「おう」


「エムジいぃぃぃ!!!?」


 エムジは容赦なくアルビのパンツを脱がす。あ、いいな。羨ましい。ウチもエムジに色々脱がされたい。

 っていうかエムジ、アルビに対し容赦なくセクハラする様になったな。真っ赤になるアルビを見て楽しそうにしてる。真正のSだなコイツ。



 ──お茶会は女性陣が全員ノーパンというカオスなものになった。



「という訳で、シーエちゃんも交えた初のお茶会を祝っテ、乾杯!!」


 それ飲み会のノリやろ。相変わらずズンコは。




 それはとてもとても、幸せな時間だった。これからのウチの生き方の前の、穏やかな、幸せな時間だった。



   * * *



「じゃ、行ってくるね」


 お茶会も終わり、ウチは楽園を後にする。


「大丈夫か?」


「ありがとうエムジ。心配してくれて。あ、でも出る前に一つお願いしていい?」


「何だ?」


 ウチは少し照れながら、覚悟を決め……


「ウチが、シーエになってからのファーストキス、もらってくれないか」


 エムジにお願いしてみる。愛してるとは言ってくれた。でもキスをしてくれるかは解らなくて、内心かなりドキドキしてて。でも。



「ああ、そんな事……」


 エムジは真剣にウチを見つめて──


「俺の方が、ずっとしたいと思ってたよ」



 ウチは、もう会えないと思っていた最愛の人と、唇を重ねた。

 いつか飛行機の中で願った様に、最後の戦いの時にしてくれた様に、機械と機械の手を、重ね合わせながら。



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