『よろしい……! たとえもう人の姿に戻れずとも……!!』
ラムザスの巨体から、さらに濃縮された魔力が噴き出す。
空気が焼け、視界が歪む。
「ミスト、シオン」
私は静かに二人の名を呼んだ。
「この場にいる“被験者”たちを外へ連れ出せ」
瘴気の濃度が限界を超えている。
長くいれば、あの老婆のように体を侵されてしまう。
「わかりました!」
「了解…!」
二人が即座に動き、塔の外周へと走り出す。
『……この姿では、もう実験などできませんよ。どうでもいいことです』
「ふふ。そう言いながら、しっかり目では“逃げる二人”を追っているな」
『あなたは……本当に癇に障る方だッ!!!』
ラムザスの拳が唸りを上げて飛んできた。
私たちは三人で分かれて回避。
『本当に……もう、どうなっても知りませんよ!!』
次の瞬間、ラムザスの全身から業火のような炎が噴き上がる。
その温度――グレンの炎とは比べ物にならない。
「こいつ……! まだ“本気”じゃなかったのか!」
「それでも……俺が、みんなを守るッ!!」
(……エレナ)
(うん……。でも、たぶん三人で戦っても“倒し切れない”んだよね?)
(ああ。……癪だが、本当に強い。だから――“あれ”を使う)
(……みんなが無事でいられるなら、私はそれでいいよ)
(すまない。なるべく早く、終わらせる)
「お前たち――下がっていろ。」
「えっ……?」
「なっ……!?」
「ハッキリ言って、今の私たちでは倒し切れない可能性の方が高い」
「なら、どうするんですか!?」
私はフード付きのマントを外した。
「……! その服……!」
「これから私は、“本能のまま”戦う。
今はまだ、こちらの方が勝率が高いと判断した」
「っ……!」
グレンとシイナが、唇を噛み、悔しげに目を伏せる。
「だが――お前たちは、いずれ“私を超える”と信じている」
その言葉に、二人の瞳が静かに揺らいだ。
「だから……この悔しさを、次に活かせ」
グレンとシイナが、確かに頷く。
「さあ――楽しもうか」
私は、戦いの本能に身を委ねた。
(エレナの体よ……どうか、もってくれ。なるべく早く、決める)
俺 は跳躍した。
『さっきまで“連携”を語っていたくせにィィィ!!』
炎に包まれた拳が迫る。
俺はそれを、紙一重で躱した。
「アッハハハハハハハ!!!!」
『な、なんだ……!?』
そのまま、奴の左目を――
貫いた。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!』
響き渡る、絶叫。
今までで、最も大きな悲鳴。
それが、妙に……心地良い。
俺は眼球に刺した短剣を軸に体勢を変え、
そのまま顔面へ、強烈な膝蹴りを叩き込んだ。
バキィッ!!
折れる鼻骨の音。
「まだまだァッ!!」
……今の俺はきっと、とても楽しそうな顔をしているだろう。
『な、なんですか……この……怪物はァァァ!?!?』
あの猿面でさえ、恐怖に引き攣る表情がわかる。
「まだ……もう一個あるぞ? 眼球が、なぁ!!」
奴はもう一方の目を、慌てて腕で隠す。
(だが――今の俺を止められる者など、いない)
黄金の刃が閃き――
奴の“隠した指”を、すべて切り落とす。
『ヒィィィィィィイイ!?』
「そらあああああああッ!!! 貰ったぞ!!!」
俺の渾身の一突きが、
ラムザスの“もう一つの目”を、正確に抉り取った。
『私の目がァァァ!!!!!!』
「あははははは!!!」
俺の笑い声が高らかに木霊した。