空を切り裂くジェットの轟音。
太平洋上をロービジと言われる灰色の日の丸を掲げた四機の航空機が空中を飛んでいた。
ステルス性能のためにやや丸みを帯びた形状をしたそれは戦闘機だ。
「ソーサラー・リーダーより各機。敵機迎撃ラインを越えた。
編隊を組む四機の戦闘機の先頭を飛ぶパイロットから残り三機に通信が飛ぶ。やや歳をとった男の声だ。
「スカイアイよりソーサラー、コンジャラー。
方位
方位
「ソーサラーチーム、貴チームは初陣を連れている。斥候のワイバーンタイプ2を叩け」
「スカイアイ、ソーサラー・リーダー、
「ソーサラー
「ソーサラー
「ソーサラー
と続くのはやけに若い声。まだティーンエイジャー程度と思われる少年少女の声に聞こえる。当然、戦闘機に乗っているなど似つかわしくない。
それでも、ソーサラーチームと呼ばれた四機の戦闘機は一気に加速、まだ目視では確認出来ない何かに向けて飛翔を始める。
「ソーサラー・リーダー、
まだ目視では何も見えないが、戦闘機のレーダー上では何かが存在していることが確認出来る。それを見て、先頭の戦闘機に乗るパイロットが告げる。
「こちら、スカイアイ。ソーサラーチーム、
「ソーサラー・リーダー、
「ソーサラー2、
「ソーサラー3、
「ソーサラー4、
先頭の戦闘機に乗るパイロットの声に続き、やはり三人の若い男女の声が響く。
「
先頭の戦闘機が底面につけられた蓋を開き、
ミサイルの飛翔先を追いかけると、そこには黄緑色の翼竜が存在していた。
まるで恐竜の時代から飛び出してきたかのようなワイバーンタイプ2と呼ばれた四匹の黄緑色の翼竜が翼をはためかせ、周囲に散る。
それを追尾するミサイルは綺麗な孤を描きながら四匹のワイバーンタイプ2にそれぞれ迫る。
ワイバーンタイプ2はしぶとく逃げるが、ミサイルの方が速度が速く、逃げきれない。
ミサイルが炸裂する。
しかし、ワイバーンタイプ2は爆炎の中から四機の戦闘機群に向けて飛び出してくる。
「命中確認。しかし、
「やはり魔法なしではバリアを破れないか」
AWACSからの報告に、悔しげに先頭の戦闘機に乗るパイロットが呻く。
爆炎と煙の中から飛び出し、高速でパイロット達の視認範囲まで接近してきた四匹のワイバーンタイプ2が大きく口を開ける。口の中に魔法陣とでも言うべき青白い複雑な模様を描く円が出現し、煌めく。
「ブレスが来る。各機散開!」
四機の戦闘機がそれぞれ上下左右に向けて進路を変更し大きく散開すると同時、先ほどまで戦闘機が飛んでいた進路上に、ワイバーンタイプ2の口から放たれた火炎が通過する。
「ソーサラー・リーダーより各機、ここからは乱戦になる。やれるな」
「はい!」
「お任せください!」
「勿論です!」
先頭の戦闘機に乗るパイロットの問いかけに若い三人の返答が返ってくる。
「頼もしいな。だが、お前達はまだ
「
三人の声が重なる。
「ソーサラー2よりソーサラー3、4へ。訓練通りに行くよ」
「オッケー」
「了解」
ソーサラー2を名乗る少女の声が通信機越しに響き、ソーサラー3とソーサラー4とそれぞれ呼ばれた少年二人が頷く。
「魔法戦の始まりだ」
そして、三人の言葉が重なる。
四機のうち上空に逃れた一機が、
「我が声に応えよ、鳴神の打ち手よ! サンダー!」
少年の声に呼応するように、機内に固定装備された25mm機関砲の発射口にワイバーンタイプ2の口の中に出現したのと同じ魔法陣が出現し、そこから鋭い雷が放たれる。
それは鋭くワイバーンタイプ2達に命中し、筋肉を硬直させ、動きを止める。
戦闘機に固定装備された25mm機関砲の発射口には雷を発生させる機構など存在しない。まるで魔法のように突如発射口から雷が出たとしか形容出来ない、不可思議な様子だった。
左右に別れた二機の戦闘機がそれぞれ、左右からワイバーンタイプ2に迫る。
「
少年少女二人の声が重なる。だが、続く言葉は違った。
「それは全てを凍てつかせし氷の刃、ブリザード!」
「それは全てを焼き尽くせし赤き炎、ファイア!」
二機の下部ウェポンベイからミサイルが出現し、そのミサイルの先端にやはり魔法陣が出現する。
「ソーサラー2——」
「ソーサラー3——」
「——
二機からそれぞれ二発ずつ、計四発のミサイルが放たれる。
左右から挟まれるようミサイルに狙われたワイバーンタイプ2はそれぞれ上昇か下降し、回避を試みるが、最初に与えられた雷攻撃の影響で筋肉が硬直し、うまく動けなかった。
各ワイバーンタイプ2に一発ずつミサイルが命中する。ミサイルは爆発しなかった、代わりにうち二匹は激しく炎上を始め、残り二匹は一瞬のうちに凍結した。
それでワイバーンタイプ2は動きを止め、海中へと没していった。
「やったな!」
ソーサラー・リーダーと呼ばれていた男の声と同時、三人の歓声が上がる。
「よし、ミッションコンプリート、
四機は編隊飛行に戻り、日本に向けて帰還コースをとる。
「スカイアイ? どうした? 応答せよ」
だが、ソーサラー・リーダーはここで違和感に気づく。AWACSからの応答がないのだ。
「何か向こうで光った!」
無邪気なソーサラー3の声が聞こえたと思った直後、強烈な紫の線が薙ぎ払われ、四機を飲み込んだ。
ギリギリで上昇機動をとったソーサラー・リーダーは無事だったが、振り向くと、残り三機は跡形もなかった。
「な、何が起こった……」
状況が把握出来ない。
その状況を把握していたのはたった一機。
「こちら生徒会五番機、皐月。撃墜された貴部隊機の生存者なし。情報収集任務完了。RTB」
今、悠々と上空を通過して、そんな口数少なく言葉を告げた少女が操る戦闘機だけだ。
「死神め……」
ソーサラー・リーダーは思わず呻く。
突如、太平洋上、ポイント・ネモに出現した「ゲート」と呼ばれる異世界との通路は、後に「ドラゴン」とし呼ばれることになる空飛ぶトカゲ型の魔物を吐き出し始めた。
後に「魔法」と呼ばれることになる技術を用いるドラゴンは、バリアーとでも言うべき壁を周囲に纏っており、見た目に反して通常兵器での撃墜は困難を極めた。
そこでなんとか撃墜したドラゴンを解体研究して発見された「魔法因子」を適性のある子供に移植することで「魔法使い」を人工的に生成することに成功。これをドラゴンとの戦闘に割り振った。
だが、魔法はまだ不完全な技術だ。
そこで、特に魔法に優れた生徒を「生徒会」に所属させ、彼らに特殊任務を与えた。
それが「生存」。戦場に誰より早く駆けつけ、気付かれないように息を潜めて全ての情報を集め、そして帰投する。
ひいては、それが人類全体の魔法技術の発展と魔法戦術の発展に繋がるはずだと信じて。
ソーサラー・リーダーとて、それは知っている。
彼女とて、望んで我々を見捨てたわけではないだろう。
だが、それでも思わずにはいられない。
生徒会に優先的に与えられる最新鋭機と、そしてその優れた魔法技術が戦線に加わってくれれば、もっと戦いは有利に進むはずなのに、と。
これはそんな死神と蔑まれる生徒会所属の五番機、