伊藤博文はしばらく言葉を失ったまま、カナダの金鉱の話を頭の中で反芻していた。数秒後、ようやくその意味を理解したかのように、顔に微笑みを浮かべた。彼の心は高鳴り、胸に熱いものが込み上げてきた。
数ヶ月前のあの混乱した日々が、まるで夢のように思えた。まさか、こんな素晴らしい転機が訪れるとは。しかし、喜びだけでは済まされないこともすぐに思い至る。金鉱の発見は一時的な救済であり、復興の本当の目標は持続的な成長を築くことに他ならない。
「これで、金鉱はアラスカ、アイダホ州、そしてカナダと三つになったか。確かに、これだけの資源があれば、財政面で困ることはないだろう。復興のスピードも格段に早まるに違いない」と伊藤博文は興奮気味に言った。
彼は立ち上がり、窓の外に目を向けた。晴れ渡った空がどこまでも広がっている。遠くの山々がほんのり紫色に染まって見えるその風景に、復興への希望を重ね合わせた。
「よし、すぐさま大蔵省の大久保を呼べ! 今後の方針について話し合いたい」
少しして、大久保利通が部屋に入ってきた。伊藤博文はすぐにその顔を見て、軽く頷いた。大久保もまた、金鉱の発見について驚きを隠せない様子だったが、その表情には明らかな喜びが浮かんでいる。
「大久保、カナダの金鉱の話は聞いているな?」伊藤博文が切り出した。
「もちろんですとも、首相。喜ばしい限りです。」大久保は興奮を抑えきれない様子で答えた。「これで我が国は、しばらく金銭面で困ることはないでしょう。しかし、最も重要なのはその資源をどう活用するかです。復興に向けて一気に進むべきです」
「その通りだ」伊藤博文は少し考え込み、次に言った。
「金を採掘すれば、復興はより早く進む。だが、復興が済んだ後には次の手を打たねばならない。領土拡大だ。財政面から見て、どこに手を出すのが賢明か? メキシコか、それとも東南アジアか?」
大久保は考え込み、しばらくしてから言った。「一財政官としては、メキシコが適切でしょう。東南アジアはフランス領も多く、関係が複雑ですから」
伊藤博文はその意見に納得し、頷いた。
「確かにその通りだ。東南アジアの問題は予想以上に入り組んでいる。メキシコならば、比較的スムーズに進められるだろう。よし、その案を採用しよう」伊藤博文は決定的な言葉を口にした。「帰り際に西郷と勝の二人を呼んでくれ。今の軍事力を把握して、戦略を立てたい。」
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数時間後、西郷隆盛と勝海舟がそれぞれの軍服を身にまとい、伊藤博文の前に並んだ。二人の将軍は顔に真剣な表情を浮かべており、伊藤博文の決定を聞く準備ができているようだった。
「さて、二人はどう思う? まずは西郷、お前からだ。」伊藤博文が尋ねた。
西郷隆盛はしばらく黙って考えた後、ゆっくりと口を開いた。「メキシコを奪うことで、南米への足がかりができる。しかし、問題は陸地が少ないことだ。今回は海軍に活躍してもらうことになるだろう」
「なるほど」伊藤博文は深く頷き、続けて言った。「海軍の力を借りることが鍵だな」
次に、勝海舟が口を開いた。「私の考えも同じです。特に海軍の出番となるでしょう。戦争が始まれば、いかに早く海上での優位を確保できるかが勝敗を分けるはずです」
「それならば、問題はないな。」伊藤博文は自信を示し、二人の意見を聞いたことに満足した様子で言った。「戦略を立て、準備を進めよう。メキシコ進出で、我が国は新たな扉を開くことになる」
将軍たちはそれぞれの任務を受けて、伊藤博文の元を離れ、計画を練るために動き出した。伊藤博文はその背を見送りながら、心の中で確信を深めた。この戦争が成功すれば、国の未来は大きく変わるだろう。そして、その先に広がる可能性を考えると、胸が高鳴った。