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【勝海舟・西郷隆盛】どうする、大日本帝国?

 勝海舟は船上に立ち、遠くに広がるインド洋をじっと見つめていた。青々とした海は穏やかに見えるが、その静けさの裏には、これからの戦いの火蓋が切って落とされる緊張感が漂っている。彼の瞳には、不安の影は微塵もなかった。むしろ、深い海のように冷静で、すべての状況を計算し尽くしているかのような鋭い輝きがあった。



 彼の頭の中には、何通りもの戦略が描かれては消えていく。港を正面から攻めるだけでは、前回と同じ失敗を繰り返すだろう。イギリス軍はすでに周到な防御を固めているに違いない。そんなところに突撃しても、大きな犠牲が出るだけだ。勝海舟はその無謀さを誰よりも知っていた。そして、彼の使命は勝利だけでなく、兵たちを無駄に死なせないことでもある。



 ふと、彼の脳裏に一筋の光が走った。敵の防衛線を正面突破するのではなく、戦力を分散させることができれば、勝機が見えるのではないか。そう考えた瞬間、彼の唇の端がわずかに上がった。妙案だ。敵の注意を引きつけつつ、真の目的地には別ルートで攻め込む。それこそが勝利への道だ。


**


 一方、陸軍大将・西郷隆盛は船の甲板で仁王立ちしていた。海風が彼の髭をなびかせ、険しい表情がそのまま心の内を映し出している。勝海舟の采配にすべてがかかっていることは理解しているが、それでも不安は拭えない。彼の中には、兵たちを守りたいという強い責任感があった。



「このまま進めば、港に到達するはずだが……」



 西郷は小さく呟いた。目の前には、はるか彼方に霞むインドの陸地が見え始めている。それなのに、勝海舟は悠然とした態度を崩さない。その背中は、まるで山のようにどっしりとしており、微動だにしない。西郷は、その背中に何か計り知れない自信を感じ取った。



 その瞬間、勝海舟の鋭い声が響いた。



「全軍、後退せよ!」



 西郷は驚愕の表情を浮かべた。目と鼻の先に目的地があるというのに、撤退の指示だと? 兵士たちも一瞬動揺したが、勝海舟の指示は絶対だ。誰もがすぐに命令に従い、船団は方向を変え始めた。



 次に勝海舟が放った言葉は、「南下しろ!」だった。



 その言葉が落ちると同時に、西郷は全てを理解した。南には、イギリス領インドの一部、スリランカがある。そこを占領すれば、インド本土への足がかりとなる。敵の目を欺き、効果的に戦力を温存する作戦だ。



「さすがだな……」西郷は深く息を吐いた。勝海舟の思考は、常に一歩も二歩も先を行っている。


**


 スリランカへの進軍は、まるで潮の流れに乗るように滑らかだった。現地の防備は驚くほど手薄で、イギリス軍はアフリカ戦線に多くの兵を割いているらしく、まともな抵抗もなかった。わずかな衝突の後、スリランカは日本軍の支配下に収まった。



 勝海舟はその報告を受け、静かに微笑んだ。彼の計画は、ここまでは完璧に進んでいる。この成功が、さらなる勝利への道を拓くのだ。



 一方、西郷隆盛は、地図を睨みながら次の一手を考えていた。彼の祈りは一つ――フランス軍がアフリカでイギリス軍を引きつけ、インドへの進軍の道が開けることだ。もし、そのタイミングが訪れれば、陸軍は一気に攻勢をかけ、イギリス領インドを手中に収めることができる。



 夜空には満天の星が輝き、静かな海が波音を奏でていた。しかしその静けさの中には、戦いの火種が確かに燻っている。歴史を動かす戦略は、今まさに、ここで形を成そうとしていた。

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