伊藤博文は、勝海舟からの一報を受け取った瞬間、思わず胸の高鳴りを感じた。その知らせがもたらす重大さに、彼の思考は一瞬で集中した。スリランカの制圧に成功したこと自体は予測通りだったが、それが示すものは、今後の大きな戦略の第一歩に過ぎなかった。しかし、彼が抱えている不安の種は、フランスからの報告が遅れていることだった。戦局を左右するフランスの勝利、あるいは敗北が今後の流れを決定づけるのだ。伊藤博文は机の上に広げた地図をじっと見つめながら、その重要性を再確認した。
「フランスが勝ったかどうか……それがすべてだ」と、彼は心の中で呟いた。アフリカでの戦況が安定し、イギリスの戦力がインドに割かれなくなれば、大日本帝国にとっては絶好のチャンスとなる。しかし、そのチャンスが現実のものになるかどうかは、フランスの動向にかかっている。今はただ、待つしかないという焦燥感が彼を支配していた。
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数日後、ようやく届いたフランスからの一報。扉が勢いよく開かれ、側近が息を切らせながら入ってきた。その顔には、何かしらの緊迫感が漂っており、伊藤博文はその瞬間、胸の中で不安が膨らんでいくのを感じた。報告が待たれている今、この瞬間がどれほど重いかを理解していたからだ。
「それで……アフリカでの戦いはどうなった? フランスが勝ったか?」伊藤博文は、声を震わせながらも、無理に落ち着こうとする。答えがどんな内容であれ、この一言が全てを決めると感じていた。
側近の口から出た言葉は、伊藤博文の期待を裏切るものだった。
「……フランスの辛勝です。いえ、辛勝かもしれません……。というのも、ある都市では勝ちましたが、その後は膠着状態です。勝ち負けがはっきりするのは、まだまだ先になりそうです」
その報告を受け、伊藤博文は背中にじっとりと汗を感じた。勝利を手にしたとはいえ、その戦果は長期戦の予兆に過ぎない。膠着状態が続けば、戦局の見通しは立たず、またイギリスの反撃が始まる可能性も高い。このままでは、いつまでも動きが取れないままであろうという不安が、彼の胸に重くのしかかった。
だが、どこか冷静さを取り戻した伊藤博文は、すぐに次の一手を考える。膠着状態が続く限り、イギリスの戦力がインドに向かうことはない。ここが大日本帝国にとってのチャンスだと確信した。
「長期戦か……だが、この膠着状態こそが我々のチャンスだ」と、伊藤博文は心の中でつぶやくように呟いた。その瞬間、目の前に広がる未来が少しだけ明るく感じられた。イギリス軍がアフリカに引き付けられる間に、スリランカを拠点にインド全土を制圧すれば、世界の覇権に向けた大きな第一歩を踏み出すことができる。この一歩を踏み出せば、後は流れに乗るだけだ。
伊藤博文は冷静に通信機を取り、勝海舟に指示を送る。「スリランカを拠点として、インド全土を攻略せよ」
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勝海舟は伊藤博文からの指示を受けて、その場で思わず笑みをこぼした。これまで準備をしてきたすべてが、ようやく実を結ぶ瞬間が訪れたのだ。スリランカの占拠があっけなく終わり、イギリス軍がその余力を失っていたことも、彼の心を熱くさせた。だが、その裏には冷徹な計算もあった。インドという大きな地を攻略するためには、スリランカ以上に難易度が高く、時間との勝負が待ち受けている。だが、このチャンスを逃す手はない。勝海舟は、地図を見つめながら次の行動を練り直していた。
「インドか……」勝海舟は静かに呟き、地図を見つめる。最終目標は首都を制圧すること。それが成功すれば、大日本帝国はインド全土を支配することができ、世界の覇権に一歩近づく。しかし、その道のりは決して容易ではない。ムンバイに到達するためのルートをどこから取るか、上陸後の戦闘をどう進めるか、すべてが計算されなければならない。
勝海舟は冷静に計算しながらも、その胸の中には、戦の興奮が渦巻いているのを感じていた。これが自国の未来を切り開く瞬間だと確信して、彼はすぐに出航の準備を整えた。「インドだ、これが世界の覇権を握るための第一歩だ」と、心の中で呟きながら、遠くの地平線を見つめた。