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【伊藤博文・西郷隆盛】それあげるから、これください!

 勝海舟にフランス領アフリカへの物資補給を命じた後、伊藤博文は再び西郷隆盛を呼び出した。西郷が部屋に入ってきたとき、伊藤の顔には冷徹な決意が浮かんでいた。その目は、まるで次の大計画を胸の内で練っているかのように鋭く輝いていた。



「それで、用件とは何でしょうか?」西郷が穏やかな声で尋ねると、伊藤は一瞬の沈黙を破って、静かに口を開いた。



「次に攻める場所が決まった。それは、しん――だ」



「中国ですか。しかし、なぜこのタイミングで?」西郷は驚きの表情を浮かべながらも、その裏に隠された意味をすぐに探り始めた。「……そうか、フランスとイギリスが戦争中だからですか」



 伊藤博文は静かに頷き、重々しく言葉を続けた。


「中国は、実質的にイギリスの支配下にある。十数年前、イギリスが中国にアヘンを密かに輸出したのが発端だ。中国政府がそれを禁じると、イギリスは戦争を起こし、見事に勝利した。その結果、中国はイギリスの影響下に落ちた」



 西郷はその説明をじっと聞きながら、思索にふける。



「なるほど。フランスとイギリスが戦争をしている現在、中国の守りは薄いということですか?」



「その通りだ。そして、イギリスが劣勢になればなるほど、中国の守りはさらに脆弱になる。だからこそ、フランスへの武器の補給を勝海舟に命じた」伊藤の声には確信が滲んでいた。



「アフリカをフランスに譲る代わりに、中国は大日本帝国のものとする。それが、アジアの覇権を握るための第一歩だ。」



 西郷の顔に一瞬の驚きが走ったが、すぐに冷静さを取り戻した。



「つまり、アフリカよりも中国を得るほうが、より効率的だということですか」西郷はその計画を納得しつつ、重くうなずいた。「そして、そこからユーラシア大陸に進出するというわけですね」


「その通りだ」伊藤博文は、まるで世界を手に入れるかのような目をして言った。「アジア全土を大日本帝国の手にするためには、まず中国が不可欠だ」



「では、中国への進軍の準備を進めます。」西郷はその場で立ち上がり、引き返しの準備を始めようとしたが、伊藤はすぐに言葉を続けた。



「いや、準備はまだだ」伊藤は手を振り、少しの間をおいてから、さらに深い意味を込めて続けた。「まずは、朝鮮半島を攻めることから始めよう。その後、中国に向けて進撃するのだ」



 西郷はその言葉を受けて、再び深くうなずいた。戦争の流れが見えてきた。朝鮮半島を制圧し、そこを足がかりにして中国へと進撃を開始する。だが、伊藤の計画には何か大きな目論見が潜んでいるような気がして、彼は静かにその先を思案した。



 その時、伊藤は一度深いため息をつき、椅子に深く座り込んだ。



「今は経済よりも、領土拡大が優先だ」伊藤はひとりごちるように呟き、目の前の地図をじっと見つめた。その目は、これから先の大きな戦局を見据えているようだった。


**


 西郷隆盛は中国との戦争をあっけなく終わらせた後、どこか物足りなさを感じていた。戦争がこんなにも短期間で終わってしまうことに、逆に面白さを見出せなかった。思い返せば、戦争を重ねるたびに感じる達成感や興奮、それがあまりにも薄れていくような気がした。自国を守るために戦うことは誇りであったが、その一方で、戦場での戦いが減っていくことの寂しさも感じていた。



「本当に、どうしたものか……」西郷は一人つぶやいた。大日本帝国が大きくなるにつれて、戦場は減少し、戦争の機会も少なくなる。それは確かに皮肉なことだ。戦争を愛する自分にとって、国が強くなればなるほど、戦の機会が減っていくのだ。



 しかし、そんな思いを抱きながらも、西郷は自ら の使命を理解していた。大日本帝国を強くし、安定させ、そしてその後の時代に託すために、どこかで新たな戦争が必要だと感じていたのだ。しかし、今はそのタイミングではなかった。

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