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第9話:初クエスト(2)

 酒場のマスターが再起動を終えたようだ。彼は街の外をうろつくゴブリンたちを100匹ほど狩ってきてほしいとのことであった。


 しかし、そいつらはすでにミッチーの荒い運転で成し遂げてしまった。ロケバスの前面が真っ赤に染まってしまったことを思い出す。


"さすがオープンワールド。何が結果に繋がるかわっかんねーなこれ!"

"ゴブリンは退治しました。それはロケバスですか?"

"異世界系ダンジョン最強ロケバス"

"俺、ダンジョンに行く時にはロケバス持っていくわ!"

"ロケバスって普通免許で運転できたっけ?"

"ググってみるか……"

"いや、そもそも世界感壊れるからヤメロw"


 TVクルーが手に持つ中型のモニターに色々なコメントが表示されていた。ヨッシーはスッ……とそのモニターから視線を外す。


 酒場のマスターへと視線を向け直す。すると、彼がカウンターに膨れ上がった革袋といくつかのアイテムを並べだした。


「ゴブリン100匹ノック、達成おめでとう。報奨金とアイテムだっ」


"こういうところはゲームっぽいんだな"

"この世界のお金って、外に持ち出していいのかな?"

"鋳つぶして、それそのものを換金したほうがいいんじゃね?

"ヨッシー。そこんとこどうなの?"


 むむ……と唸るしかない。ダンジョン内には現実世界で有効活用できそうなアイテムがごろごろと転がっているかもしれないと言われていた。


 ダンジョン内の物をどう活用するかまでは、今は研究段階だ。国の研究所ラボではサンプルがもっと欲しいという要望が出ている。


 カウンターに向かって歩いていったミッチーがパンパンに膨らんだ革袋とアイテム類を懐に仕舞っている。


 ミッチーにその辺りは任せておいて良さそうであった。次に考えるべきことがある。酒場のマスターが「次はこの依頼を受ける気はないか?」と言ってきた。


 要領はわかった。クエストを受けて、それをクリアして、報酬を受け取る。ゲームとさほど変わらない。


 隣に座るノッブがこくりと頷いてきた。彼もこちらと同じ気持ちなのだろう。次のモンスターを始末するために依頼を受けることにした。


「ゴーレムを量産している悪い魔法使いを退治してほしいと?」


 ヨッシーは隣に座るノッブを見た。ノッブは今、アロハシャツを着て、ビーチサンダルを履いているグラサンちょんまげエルフだ。彼はそんな格好でも立派な魔法使いである。


「ここにも悪い魔法使いがいるでおじゃる。こいつを叩きのめしたらクリア報酬が出そうでおじゃる」

「ふふ。悪い魔法使いはお姫様をさらいます。さあ……ヨッシー。先生が宿屋まで付き添いますよ」

「何をぬかしておる! その手を離すのじゃ!」


 ノッブがこちらの手を両手で包み込んできた。彼の熱を感じる。それとともにトゥンクと胸にときめぎが走ったが、それを無理矢理、腹の下へと押し込む。


 そうした後、手をぶんぶんと振り回して、ノッブから少しだけ離れた。ノッブが「つれないヨッシー……」と悲しげであったが、無視だ。


 ノッブに付き合っていては日が暮れる。さっそくくだんの悪い魔法使いを退治しにいくことになった。


 だが、ここで女神にストップをかけられた。なんじゃ? とばかりに女神に注目する。


「んとね? ヨッシーって今、バグってるじゃない?」

「うむ、その通りじゃ。どこぞの駄女神のせいでな!」

「よっしー、ひっどーい! 駄女神扱いはやめてよね? わたくし、ヨッシーには悪いと思ってるんだから。これでもしっかり経過観察してるの!」


 女神から褒めて褒めて! というオーラがあふれ出している。誰が褒めるものかと思ってしまう。つっけんどんな態度で女神と話を続ける。


「そりゃ、女神様の仕事じゃからのう」

「言葉よりも、実際にその目で見てもらうほうが早いわ! オープン・パラメータ!」


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名前:ヨッシー

統率:23

武力:91

政治:87(-10)

知力:56(-10)

義理:3

野望:100

スキル:鹿島新當流、呪いLv5、和睦、援軍要請

列伝:足利幕府の最後の将軍。以下略

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「ん? この(-10)ってのはなんでおじゃる?」

「デバフ効果ね。それよりもスキルの方を見てほしいの」


 デバフ効果という不穏な言葉のほうがはっきりいって気になる。ゲーム的に考えれば、自分は何かしら悪影響をどこかで受けたことになる。


 だが、女神はこちらの視線をスキルの方へと誘導してきた。むむ……と納得いかないが、ここは大人しく女神に従っておくことにした。


「和睦と援軍要請。さらには呪いがLv5に上がっているでおじゃる」

「援軍要請ってのはお助けキャラを召喚できるスキルよ。試しにLINEで援軍要請してみたら?」

「話が繋がらないでおじゃるよ?」

「よく考えてみて? サルは戦闘では回復役しかできないの。前衛は肉壁&銃火器戦士のミッチーと刀を振り回すしか能のないヨッシーじゃないの」


 呆れたという感じで女神がそう言ってきた。ぐぬぬ……とうめき声をあげるしかない。そもそも、こちらのパーティ構成を決めたのは、呆れ顔になっているこの女神である。


 だが、女神の言うことにも一理ある。こちらは戦闘で戦えるのが実質3人だ。ゴーレムを使役する悪い魔法使いを倒すのには心もとない。


 ここは素直に女神の言うことに従うことにした。呼び方は簡単であった。LINEなどで、援軍要請したい相手に了承してもらうだけであった。


 いざ、スマホを取り出したはいいが、LINEアプリを開いたところで手が止まってしまった。


 隣の席でにっこにこのノッブ。彼とは五箇条の条書で、LINE等を用いた他者とのメッセージ内容をノッブに見せるという約束を交わしている。


(当たり障りのない人物にしておくでおじゃる。カレシ面のノッブでも納得する相手となると……)


 ヨッシーは10秒ほど悩んだ。ノッブも納得する相手でなければならない。


「ふむ! ここは山梨県知事の武田信玄殿にLINEするのじゃ!」

「ふっ……果たして信玄くんは要請に答えてくれますかね?」


 ノッブがニヤニヤと悪い笑みを浮かべている。ノッブの顔を見ていると、胃がキリキリとしてしまう。


 ヨッシーは戦国時代の時を思い出す。信玄にお手紙を出して、信玄を動かしてみせた。そこまでは良かった。


 だが、信玄は陣中で病没した。そのことを武田家は秘匿し、自分に教えてくれなかった。これがおおいに信長包囲網を揺るがせた。


 信玄が没後も何度も信玄に西進を促すお手紙を書いた。さらには信玄を信じて、信長に対して、独立戦争を起こしてしまった……。


(うぐっ……信玄にLINEメッセージを送っていいのかえ? これが過ちの再現になるような気がしてならぬぅ!)


 スマホを持つ手が震えた。ノッブの悪い笑みが強まっている。嫌な汗が背中に流れる。


「わっちは信玄殿を信じておるーーー!」


 山梨県知事の武田信玄にメッセージを飛ばした。既読マークがつくまでの10秒が永遠の時間のように思えた。


 既読マークがついてから10数秒後、信玄から返信がきた。


『どしたん? 話聞こうか?』


 はっきりと言って嫌な予感がした。しかし、それでもこちらもメッセージを送る。


「信玄殿。応援を寄こせでおじゃる」

『信玄ちゃん。ヨッシーのエッチな写メがほしいにゃ~?』


"信玄……(´;ω;`)ブワッ"

"こんなのが知事で山梨県、大丈夫?"

"放送事故すぎる"

"ひゃっはー! 山梨県知事をリコールだー!"

"ネットでも署名活動に参加できますか?"

"でも、信玄の気持ちはわからんでもない"

"黒髪ツインテールJCだもんな、ヨッシー"

"ヨッシーは傾国のJC"

"ヨッシーがすべて悪い"


 ヨッシーはスマホを懐にしまう。スマホが何度もぶるぶると震えたが、一切合切無視だ。またしても巻き込まれ事故で内閣支持率がガクッと降下した。


「ノッブ殿。わっちの何が悪いのでおじゃる?」

「可愛いJCなのが悪いんだと思いますよ?」

「でも、30代おっさんのままの姿だったら、そもそも誰も配信を見てくれないじゃろ?」

「ふふ……行くも地獄、退くも地獄って、まさにこのことですね?」

「もう嫌なのじゃーーー!」


 およよ……と泣き崩れてしまう。そんな自分をノッブが支えてくれた。さらにはよしよしと頭を優しく撫でてくれる。


 そして、サルがこっそりお尻を撫でまわしてきた。ゴンッとサルの頭頂部にチョップを喰らわせておいた。


 そんなやりとりをしていると、遠いところから地面を踏み鳴らす音が聞こえてきた……。



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