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第10話:初クエスト(3)

 震度としては2程度だ。だが、明らかに規則性を伴った揺れである。西から東へ振動の波が移動していると足裏で感じてしまう。


 ヨッシーたちは一斉に女神に注目した。「ふふんっ!」と女神が腰に手を当て、さらには胸を張っている。


 はっきりと嫌な予感がした。またこの駄女神が何かしでかしたのだろう。女神に今、何が起きているのかと問うた。


「クエストを受諾したことで、クエスト対象の悪い魔法使いがアクティブになったわ」

「えーーーと?」

「さすが悪い魔法使いね! さっそくゴーレムの大群をこの街へ送りつけてきたみたい」

「チョオマ! こっちは何の準備もしてないでおじゃるよ!?」

「ちなみにオープンワールドだからいろいろな選択肢が取れるわ。ゴーレムを無視して、悪い魔法使いを直接叩くことも可能よ!」


 女神はそう言っているが、それを素直に受け取る気にはまるでならなかった。酒場の外から悲鳴が聞こえてくる。


 何事だとばかりに皆で酒場の外へと出た。街行く人々が泣き叫んでいる。まるで本物の人間のように。


「よくできてるでしょ?」


 女神があっけらかんとした表情でそう言って見せる。しかしだ。ヨッシーは戦国時代に何度もこのような光景を目にしてきた。


 戦火から逃れようとする民衆たち。彼らを追いかける兵士たち。そして、傷つき、血を流し、地に倒れ伏せる。


 ヨッシーは「ぐっ!」と唸る。今度こそ、日本を真に平和な国にすると誓ったのだ。それが現代に蘇った自分の宿命だと思えた。


 前世で敵になったノッブと手を組んだ。それこそが自分の理想と夢を一日でも早く実現できると思ったからだ。


「ノッブ殿!」

「はいはい。先生のヨッシー。NPCといえども、ヨッシーは彼らを守りたいんですね?」

「その通りじゃ!」


 いくらNPCと言えども、この世界で生きている人間だ。ヨッシーは彼らも守ると心に誓う。


"いけー、ヨッシー!"

"俺たちのヨッシー!"

"ゴーレムの群れくらいなんぼのもんじゃってところ見せてくれ!"


 モニターのコメントは沸き立っていた。この時点までは……。


 街の外に出ると1000体近くのゴーレムが津波のように押し寄せてきていた。


"おわたおわた……"

"あばば……"

"これ、ムリゲーすぎんだろ!"

"グッバイ、俺たちのヨッシー"

"ゴーレムも1000体集まると、恐怖でしかないな"

"てかこれ、どうなってんだよ!?"

"終わりの始まりだー!"

"初クエストでゴーレム1000体はまじでない"

"これが難易度SSダンジョンか……"

"俺、難易度SSでも活躍できるって思ってた時期もありました"


 1000体ものゴーレムが軍隊のようにきっちり整列して、街へと迫ってきていた。こちらは「ごくり……」と息を飲むしかない。


 隣に立つノッブも「あはは……」と乾いた笑いを零している。状況は最悪と言えた。さらには砂塵の向こう側にひと際大きいゴーレムを視認できた。


「あの巨体がこのゴーレム隊の将軍よ! あいつを倒せばあとは雑魚のゴーレムよ!」

「いや、女神様。何を言っているのでおじゃる? 雑魚のゴーレムってどういう基準でおじゃる!?」

「難易度SSのダンジョンだもん、ここ。ゴーレムくらい雑魚の範疇よ」

「じゃあ、先ほどロケバスで轢き殺したゴブリンの群れは?」

「ゴブリン100体で雑魚ゴーレム1体ってところ!」

「どういう基準なのじゃーーー!」


 1体1体、倒していたのでは埒があかないのは当然であった。かといって、ゴーレムを野放しにしておくわけにもいかない。


 ヨッシーは急いでスマホを懐から取り出す。そして、素早くタップして、信玄にLINEメッセージを飛ばした。


『援軍してほちい? こちらからはエッチな写メを要求するにゃん』


 既読スルーした。てんで話にならない。もしも山梨県知事のリコール騒動が起きたならば、進んで署名してやろうとさえ思ってしまう。


「うむ。他の者に援軍要請を出そう!」

「いい歳した山梨県知事の信玄くんがJCにエッチな写メを要求するとか世も末ですね?」

「代わりに新潟県知事の謙信殿に援軍要請を出してみるのじゃ」


 気を取り直して、上杉謙信に援軍要請のLINEメッセージを飛ばしてみた。


『お久しぶりです、将軍様』

「挨拶は後じゃ! 今すぐ、こちらに来てもらえぬかえ!?」

『毘沙門天の化身として馳せ参じましょうぞ!』


 謙信はこちらに何も要求してこなかった。すぐさま援軍に駆け参じると言ってくれた。ヨッシーは次にどうしたらいいのかと女神に問うた。


「相手の了承を得たなら、あとはどこに召喚するか位置設定してね?」

「本当にゲームみたいな感覚じゃのう。えっと、この辺で良いのかのう」


 スマホから光があふれ出していた。その光を地面に向かって当てる。すると、そこにゲートが出現した。向こう側から謙信が現れた……はずだった。


 ヨッシーは目を疑った。自分の目の前にいるのはセーラー服姿のピンク髪のおさげの少女だった……。


「えっと……謙信殿で合っているのかえ?」

「合っています」

「あのその……すっごく聞きにくいのじゃが、なんで女子高生の姿なのじゃ?」

「これは拙者のアバター姿です」

「お、おう……」


"軍神キタ――(゚∀゚)――!!"

"これでかつる!"

"……なあ、謙信ちゃんの恰好に既視感あるんだけど?"

"ツッコミはヨッシーに譲ってやれ"

"お、おう……"


 ヨッシーは謙信を召喚したはいいが、女子高生姿の謙信の扱いに困ることになった。謙信を置いて、ノッブやミッチーたちと円陣を組む。


「どうしたらいいでおじゃる!? JCの皮を被っているわっちが言うことじゃないでおじゃるが、JKの謙信が現れたでおじゃる!」

「本人の中ではキャラづくりばっちりなんでしょうね。あれ、スケバン刑事がモデルですよね?」

「まさに正義の使者として名高い謙信殿でござる」


 義昭たちは相当悩んだ。何も聞かずに御帰りいただきたいというのが本音だ。召喚した者を送り返す方法を女神に聞く。


「対象クエストをクリアすれば自然と帰っていくわ。でも、クエスト途中で送り返す方法もあるけど、お勧めできないわよ?」

「なんででおじゃる?」

「ん? 普通に考えて、呼び出されたのに帰れ! って言われたら、へそを曲げるでしょ?」

「普通にそういう理由でおじゃるのかい!」

「援軍要請の扱いが難しいのって、そこなのよねえ……。ちゃんとフォローしとくのよ? 戦国時代でもそうだったんでしょ?」


 女神の言う通りであった。あの時代、援軍要請をしたのはいいが、それに関連して、味方内での調整が必須であった。


 下手なことを口にすれば、相手はへそを曲げて、本国に帰ってしまうなど、当たり前のようにあった。


 それだけならマシだと言えた。たまにそのことを恨みに思って、敵方に回る者も出た。


「一見、チートスキルのように見えるが、取り扱い注意スキルでおじゃる」

「いっそ、信玄くんもこの場に呼びましょうよ」

「ノッブ殿……わかって言ってるでおじゃるよね!?」

「さあ、何のことやら……」


 竜虎相打つと言われた2人だ。同じ戦場に呼び寄せるわけがいかない。今の時代が現代だからといって、戦国時代の時のいざこざが帳消しにされているわけではないことは、バカでもわかる。


「ねえ、謙信ちゃん。ヨッシーが雑魚ゴーレムの露払いをお願いしたいんだってー」

「チョ駄女神! 何を勝手に!」

「いいから、いいから! ここはわたくしに任せなさーーーい! 謙信ちゃん、任せていいかしらー?」

「ふっ……承知つかまり申した!」


 意外なことだが、女神は口が上手かった。謙信にあなたの実力が見たいと言って、謙信をヨイショしまくっている。


 謙信はゴーレム隊の前へとつかつか歩いていく。そして、手に持っているヨーヨーをゴーレムたちへと見せつけた。


「我、毘沙門天の化身なり! おまんら許さんぜよ!」


 謙信の身体から気迫が立ち上る。その気迫が天を駆ける竜となった。その竜が次々とゴーレムを破壊していく。


"謙信ちゃん、まじ強すぎる"

"さっすが軍神だぜ(ゴクリ)"

"存在がそもそもチートだな……"

"[¥3000]謙信ちゃん、お収めください"

"[¥5000]軍神の加護、俺もほしい!"

"[¥10000]謙信ちゃん、ぺろぺろ"

"[¥2000]謙信ちゃんフィギュアまだですか?(´・ω・`)"


 JK謙信の登場でスパチャが飛び交った。ヨッシーは「くぅ!」と唸るしかない。自分は酔い止め薬用にと1回だけのスパチャのみだったというのにだ。


「何故でおじゃる、ノッブ殿……」

「最近の日本人はロリコンが減ったみたいですね?」

「ロリコンこそ最高で至高なのでござるが……?」

「うきーーー?」


 JCヨッシーはJK人気に負けたといっても過言ではなかった……。



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