謙信の身体から発せられた竜のオーラがヨーヨーに吸い込まれていく。謙信はヨーヨーを懐に仕舞い、こちらへと丁寧にお辞儀してきた。
「では拙者は街を守ります。将軍様、どうぞ先へ」
「う、うむ。この場は頼むのじゃ……」
謙信の足元から竜のオーラが立ち上る。彼女はそれに跨り、風のように現れて風のように去って行った……。
「扱いが超むずかしそうじゃな……」
「謙信くんは絶対正義マンなので、冗談でもヨッシーが裏金を集めてるー! 成敗してー!とか言えませんね」
「チョマテヨ! わっちは裏金を受け取っていないでおじゃる! 冗談でもやめてほしいのでおじゃる!」
断じて裏金は受け取っていないという自信があった。内閣総理大臣に就任した際、ノッブから鎧10領、名刀、名馬、さらに反物と黄金100両を受け取った。
こちらはしっかりと帳簿に記載している。これらは国会で裏金ではないのかと一部野党から追及されたが、ノッブがしっかりと否定している。
「そう言えば……ヨッシー様。鹿児島県知事の島津義弘殿から献上された黄金100両はどう処理されたのですか? ノッブ様からは突き返しておけと言われていたはずですが?」
ミッチーがじろりとこちらを睨んできた。ぎくっ! と心臓が跳ね上がってしまう。ミッチーがこちらを目だけで非難してきた。
「そ、それは……」
言い訳をなんとか思いつこうと、頭の中をこねくり回した。だが、冷や汗がだらだらと体中からあふれ出てきてしまう。
「ヨッシー……」
「ノッブ殿……」
「だめだぞ☆彡」
ノッブがこちらの額をこつんと指で軽く押してきた。さらにはミッチーにウインクしている。ミッチーが「やれやれ……」と頭を左右に振っていた。
とりあえず、ミッチーからこれ以上の追求はなさそうであった。ホッと胸を撫でおろす。
(ミッチーめ……TVカメラの前で、そのような発言をするでないでおじゃる。あああ! 内閣支持率ががっくりと下落したでおじゃるーーー!」
"JC姿と言えども、しょせん政治家か"
"裏金反対!"
"まあでも裏金とか言い出したら、そもそも政治献金自体も裏金の一種だよな"
"まあ、どこの政党も裏金もらってるだろうし?"
"[\50000]どうぞ、献金です。お収めください"
"公然な裏金キタ――(゚∀゚)――!!"
"[\300]俺からも献金です!"
"しょっぺーなwww"
ヨッシーは下がってしまった支持率に涙した。そこにそっとノッブがハンカチを差し出してきた。それを受け取り、地面へと叩きつける。
「何か薬品臭かったでおじゃる」
「チッ。クロロホルムの匂いを感じるとはやりますね?」
「ククク。ポンコツ将軍と言われていても、毒殺される危険性はあったのじゃ。こんな自己主張の激しい薬品などすぐ嗅ぎ分けれるわい!」
ノッブに抗議したが、彼は涼しい顔のままだ。地面に叩きつけたハンカチを拾い上げている。土を払い落とし、それをポケットへと仕舞っている。
ヨッシーは「ぐぬぬ……」と唸ったが、ノッブは平然としたままだ。とりあえず、彼から3歩、距離を空ける。
「ん? ヨッシー。何故、先生から離れるのですか?」
「それはノッブ殿が危険人物だからでおじゃる!」
「失敬な……ほら、ゴーレムたちがこちらに向かってきています。先生よりも奴らのほうがよっぽど危ない存在ですよ?」
「前門のゴーレムに肛門狙いのノッブ殿でおじゃるーーー! 誰か助けてくれなのじゃーーー!」
ゴーレムは街を襲う部隊とヨッシーたちを倒そうとする部隊の二手に分かれていた。街の防衛は謙信が担当している。
こちらが対処するのは残りの500体のゴーレムだ。まだまだ数が多い。サルに火力を求めることができない以上、少なくとも自分だけで100体以上はゴーレムを倒さなければならない。
「オープン・ゲート! そして装甲車を召喚!」
「ノッブ様、ありがたし!」
「光秀くんは装甲車で300体ほどお願いします。残りの200は先生とヨッシーで対処しておきます」
ノッブが召喚した装甲車にさっそくとばかりに光秀が乗り込んだ。機銃を乱射しながらミッチーがゴーレムの大群へと正面から突っ込んだ。
ゴーレムの隊列がおおいに乱れる。そこへノッブが詠唱を唱えながら、次々とゴーレムを火だるまにしていく。
"装甲車キタ――(゚∀゚)――!!"
"予想通り、装甲車だったな……"
"次は戦車を召喚しそうだぜ……"
"戦車はさすがにないんじゃね?"
"ちなみに装甲車つっても、ノッブが召喚したのは自衛隊じゃ輸送車扱いな?
"なーる。戦艦じゃなくて護衛艦って呼称してるようなもんだな?"
"そういうこと。輸送車に機銃がたまたまついてるだけだっぞい(白目)"
"これは武力行使じゃない。ってことで、憲法第9条にも違反しないぜっ!(すっとぼけ)"
"さすがは
(ノッブとミッチーに全て任せておいて良い気がするのじゃが?)
装甲車改め、輸送車が機銃から銃弾をばらまきながら戦場を爆走している。宙に浮くノッブが火炎球を次々と降らせている。
それらに対して、自分が手にしているのは刀1本だ。これではどうやっても視聴者の注目を集めることができない。
「ヨッシー、道が開けました! さあ、ヨッシーの見せ所ですよ!」
「チョマテヨ! わっちの出番をことごとく奪っておきながら、よくもまあそんなこと言えたでおじゃるな!?」
「そう……ですか? 先生の目はヨッシーに釘付けです」
「おぬしだけじゃわい!」
ツッコミが追い付かない。ノッブはきょとんとした顔つきになりながらも、火炎球をゴーレムに放っている。
どうにかして、ノッブやミッチーよりも目立つ必要があった。そこで、ぴんときた。
(そうでおじゃる! わっちには『援軍要請』のスキルがあるでおじゃる!)
ヨッシーは懐からスマホを取り出す。LINEアプリを立ち上げる。LINE友達一覧を見て、使えそうな人物を探す。
しかし、ヨッシーはスマホを見るのに夢中で、自分の身に迫った危険に気づくのが遅れてしまった。
スマホを見ていると、自分の身体全体に黒い影が差した。「なんじゃ?」とばかりにヨッシーは顔を上げた。
「はぁ!? なんじゃこの化け物サイズは!?」
驚愕するしかなかった。装甲車もひっくり返してしまいそうなほどの大きさを持つゴーレムが目の前にこつ然と現れた。
戦場はゴーレムたちの悲鳴で埋め尽くされていた。それゆえにこんな巨大なゴーレムが自分の近くにまで接近するはずがなかった。
「えっと……わっち、詰んだ?」
"ミッチーやノッブに注目してたら、ヨッシーが大ピンチでござる"
“わ……ぁ……”
"それでも、ヨッシーなら……"
"ヨッシーならきっと何とかしてくれる……!!"
"スレ民が陵南バスケ部"
"さあ、まずは1本いこうか"
こちらがピンチなのに対して、モニターに映るコメントを見る限り、皆が自分に期待を寄せてくれている。
(何がどうなってこうなったのかまったく理解不能じゃが……ここがわっちの見せ所でおじゃる!)
ヨッシーはスマホを懐に仕舞う。目の前に立つ巨大ゴーレムの身長はこちらの4倍はある。
ごくりと唾を飲み込みながら、刀を両手持ちする。中段構えになりながら、巨大ゴーレムの次の動きに注目した。
(足を振り上げたでおじゃる!)
こちらの予想通りの動きをゴーレムが示してくれた。ゴーレムの動きに合わせて、一気に距離を詰める。
気合一閃、地についている左足を薙ぎってみせた。カーン! とひと際乾いた音が周囲に響く。
「あっ……全然、刃が通らないでおじゃる」
"おわたおわた……"
"ヨッシーの目に留まらぬ剣さばきが通らない……だと!?"
"なんて固さしてんだ、この巨大ゴーレム!"
"逃げてー、ヨッシー(´・ω・`)"
スレ民の言葉に従い、その場から逃げ出そうとした。そうであるのに、巨大ゴーレムが右足でこちらを踏んづけようとしてきた。
地響きが鳴る。それに合わせて体勢を崩された。「くぅ!」と唸るしかない。
「先生のヨッシー!」
「わっちはノッブのものではないでおじゃる!」
「そんなこと言ってる場合ですか!? 誰でもいいので今すぐ誰かを援軍要請しなさい!」
「う、うむ!」
ノッブに促されて、スマホを取り出す。そうしている間にもゴーレムが右足を大きく振り上げている。
スマホを持つ手がおおいに震える。震えを無理矢理に抑えて、LINEで援軍要請を行った。
ヨッシーの目の前に袈裟姿の禿げ頭の坊さんらしき人物が現れた。
「南無阿弥陀仏!」
禿げ頭の坊さんが数珠を掲げて、ヨッシーの盾になってくれた。次の瞬間、巨大ゴーレムに踏まれてしまう。
「顕如殿ぉ!?」
ヨッシーが呼び出したのは大阪市市長の本願寺顕如であった。ゴーレムが右足を上げる。顕如はゴフッと口から血を吐き出した。
「ふっ。ここは石頭で受け止めるべき……でした」
「石山本願寺なだけあって、石頭とかけたでおじゃるか!?」
「そのとおり……がくっ」