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第12話:初クエスト(5)

「うきー!」


 本願寺顕如の下にサルが急いで駆け付けた。回復魔法をかけてもらった顕如がゆっくりと立ち上がる。


 巨大ゴーレムがもう一度、顕如に向かって右足を振り下ろす。先ほどの反省を活かして、顕如が石頭で迎え撃った。


「ごふっ!」


 顕如は口からだけでなく、鼻からも血を噴き出した……。


"石頭って言っても……"

"ぐっばい顕如。お前の雄姿は見させてもらった"

"いや、石崎の顔面ブロックを思い出せ!"

"そうだ! ガッツを見せろ、顕如!"


 顕如の身体がぐらりと揺れる。だが、それでも顕如は頭を振って、態勢を整える。サルが懸命に顕如を回復していた。


「顕如殿! 何故、そこまでわっちのために!」

「ふっ……前世でタッグを組んで、ノッブに対抗したではありませんか! 今世も義昭殿にゴフッ!」

「チョオマ! ゴーレム! 空気を読むでおじゃる!」


 巨大ゴーレムが間髪入れずに顕如の石頭に右足を振り下ろしてきた。さすがはモンスター。一切の戸惑いがない。


 それでも罵詈雑言を巨大ゴーレムに飛ばす。巨大ゴーレムが首を傾げた。


「ぐおぉぉぉ?」

「そうじゃ! ちょっと顕如と会話するから、攻撃を待つのじゃ!」


 巨大ゴーレムが動きを止めてくれた。これで顕如を回復させる時間を稼ぐことができた。サルが続けて、顕如を回復してくれている。


 その間に顕如に助言を行った。彼とともに連携攻撃をする算段を組んだ。


「待たせたでおじゃる! さあ、攻撃してきていいでおじゃるよ!」

「ぐおぉぉぉ!」

「うぉぉぉ! 光れ禿げ頭! 唸れ石頭!」


 巨大ゴーレムの動きに合わせて、顕如がまず動いた。一度、身を屈めた後、身体に勢いをつけて、振り下ろされてくる奴の右足に合わせた。


 バキッ! という音が鳴る。ブフー! と顕如が鼻血を噴き出す。それでも顕如の石頭によって、巨大ゴーレムの右足の裏に亀裂が走った。


「ぐおぉぉぉ!?」


 巨大ゴーレムは驚愕の色をその顔に映した。それをヨッシーは見逃さない。顕如と立ち位置を入れ替える。腰に佩いた刀から光が発せられた。その光が顕如の禿げ頭によって乱反射する。


 巨大ゴーレムは眩しいのか、右手を己の顔面の前へと持っていく。奴は顔を攻撃されると感じたのだろう。


 だが、ヨッシーの狙いは巨大ゴーレムの顔面ではない。亀裂が走っている右足の裏だ。


「もらったのでおじゃるー!」


 ヨッシーは居合斬りを叩きこむ。キンッ! という甲高い音が鳴る。次にはカチャッという音が鳴った。ヨッシーが鞘に刀を納めた音だ。


「鹿島新當流が居合斬り……でおじゃる」


"すげえ! 顕如の石頭とヨッシーの居合斬りの連続コンボだー!"

"てか顕如の石頭、ゴーレムよりも固いのかよ!"

"さすがは石山本願寺"

"石頭本願寺に改名しとけっ"

"10年も織田家と抗争してた頑固石頭……だぜ"


「顕如フラ―――シュ!」


"さらに自前で光るのかよっ!"

"反射させるためだけかと思えば……"

"もう真っ白で何も見えんぞこれ(´・ω・`)"

"ある意味、放送事故だな"


「顕如殿ぉ! わっちも目が潰れてしまうでおじゃる!」

「おっと失礼。興奮してしまいました」

「ほんと、昔からそうなのじゃから、気をつけてくれでおじゃる!」


"昔……から?"

"顕如、夜襲の時、すげー不便そう"

"ちなみに戦国時代では夜襲は実際には行われなかったんだっぞい"

"え? なんで?"

"今と違って、当時の夜はマジで真っ暗だから"

"光秀が本能寺の変を起こす前日は満月のおかげで亀山から京まで移動できたんだぜ?"

"(´・∀・`)ヘー"

"夜襲じゃなくて朝駆けが主流な? 第4次川中島は謙信の朝駆けだったろ?"

"( ..)φメモメモ"


 顕如は頭からのフラッシュを抑える。それによって、視界も開けた。巨大ゴーレムは地に伏している。


 今度こそトドメだとばかりにヨッシーは走る。倒れている巨大ゴーレムの身体の上に乗る。急いで奴の頭の方へと向かう。


 巨大ゴーレムは両腕で頭をカバーしている。奴のこの仕草から、頭が弱点なことが丸わかりであった。


 刀を両手持ちにして、上段構えを取る。そこから一気に刀を振り下ろす。カキーン! という甲高い音が鳴る。


「ぐぅ! 固いのじゃっ!」

「先生のちんこもかちかちです」

「うっさいわ! こんなときに下ネタをぶちこんでくるなでおじゃる!」


 やはり亀裂が入ってなければ、自分の剣の腕前でも刀を通すことができない。何度も刀を振り下ろしても、巨大ゴーレムの腕の表面を軽く傷つけるだけであった。


 そうこうしているうちに巨大ゴーレムが上半身を起こしてきた。それによって、体勢を崩された。


 だが、次の瞬間、ふわっと浮遊感を感じた。ノッブがこちらの身体を抱きかかえてくれた。


「苦戦しているようですね?」

「ノッブ殿っ!」

「ふふっ。さあ、先生にお願いしてください?」

「くぅ! 顕如殿が元気なら、ノッブ殿の手を借りずに済んだものをーーー!」


 顕如はぐったりと倒れ伏せていた。彼は十分に殊勲賞の働きを示してくれた。だが、それでも巨大ゴーレムを倒すまでには至っていない。


 ノッブが顕如と自分の間に割って入ってきた。まるで、この機を待っていたかのようだ。いつもこの男はこうだ。


 戦国時代において、ヨッシーは将軍の座に就いた。いくつもの施策・政策を発表した。だが、そのどれもが裏目に出た。困っていると優しくノッブが救いの手を差し伸べてくれた。


 裏を返せば、こちらが失敗するのがわかっていたかのように、その機を待っているかのような振舞ばかりである、ノッブという男は。


「今世でもわっちの失敗待ちをするつもりでおじゃるか!?」

「いいえ? そのようなつもりはありません。ただ……愛するヨッシーが可愛くて、まずはヨッシーの気が済むまでお任せしたまでです」

「き、きさま!」


 ヨッシーは激昂した。だが、こちらを抱きかかえるノッブは涼しい顔だ。本気でそう言っている可能性があった。


「降ろせでおじゃる!」

「おや? 先生の手助けはいらないのですか?」

「わっちひとりでどうにかなるのじゃ!」

「まったく、困った御人です。でも、そうだからこそ、可愛いんですよ、ヨッシーは」


 とてつもなく甘い言葉である。そして、その身から溢れさせるオーラも甘い。このままノッブに抱きかかえられていたいとさえ思ってしまう。


「先生の可愛いヨッシー。お手伝いしますよ?」


 ノッブがそう言うと、火炎球を巨大ゴーレムへと放った。その一撃で巨大ゴーレムの両腕がグニャリと曲がった。


 とんでもない熱量を持っている火炎球だった。ゴクリ……と息を飲むしかない。さらにはノッブが大きく振りかぶる。こちらを巨大ゴーレムに向かってぶん投げる気満々だ!


「お、おまえ!?」

「ヨッシーミサイルー♪」

「うぎゃあああ!」


 ヨッシーは頭から巨大ゴーレムへと突っ込まされた。空中で鞘から刀を抜き出す。急いで刀を閃かせた。ぬるりと泥に刃を突っ込んだ感触が手に伝わってくる。


(これならいける!?)


 ノッブに感謝するのは癪だが、巨大ゴーレムは彼の火炎魔法によって柔らかくなっていた。


 ズヌリ……と刀を巨大ゴーレムの顔面へめり込ませていく。途中で固い何かに刃先がぶつかった。


(これは……ゴーレムの核じゃな!? これを斬ればいいでおじゃるか!?)


 ゴーレムは核を持っている魔法生物だ。これを砕けば、ゴーレムは再生されなくなる。刃先から感じるこの感触。ボーリングの球くらいの大きさだ。


 ここで逡巡してしまう。このまま砕けばゴーレムは二度と再生されない。だが、ゴーレムの核を確保してほしいという研究所ラボからの要請を以前に聞いたことを思い出す。


(どうするでおじゃる!? 国の研究が進む道。それともこの場のピンチを凌ぐ道! わっちはどっちを選べばいいでおじゃる!?)


 時間にして1秒にも満たない迷いであった。だが、その隙はヨッシーが考えていたよりも大きかった。


「ヨッシー、何をしているのですか!?」

「むがーーー! わっちの大失敗でおじゃる!」

「まったく……欲をかくのはいけませんよ」


 巨大ゴーレムに捕まってしまった。ドロっとした両手がこちらを拘束している。迷っている時間は残されていない。奴の顔面に突っ込んでいる刀を横へと薙いだ。


 巨大ゴーレムの顔が半分になる。その中にあった核も真っ二つだ。「くぅ!」と呻くしかなかった。


 核を破壊された巨大ゴーレムの身体がどんどん溶けていく。拘束された身体も自由となった。泥水の上にふたつになった巨大ゴーレムの核が残されていた。


「むぁぁぁ! 無傷で手にいれたかったでおじゃるぅ!」


"ヨッシー、どんまい"

"気持ちはわからんでもない"

"ゴーレムの核とか、そのまま軍事利用できそうなのに……なっ"

"それでも憲法第9条が邪魔をするガハハ!"

"俺、ゴーレムの核を無傷で手に入れたら、原寸の女の子ゴーレム作りたい"

"おまえ……天才か!?"

"ヨッシーのアホたれ! なんでゴーレムの核を壊したんだ!"


 生命の危機からは脱することができた。だが、貴重品であるゴーレムの核を破壊したことで、コメ欄は非難業々だった……。


 それに連動するように内閣支持率がまたしても下落した……。


「踏んだり蹴ったりでおじゃるーーー!」


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