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第18話:現実世界

 悪い魔法使いは研究家の一面を持っていたようだ。彼が書いたと思わしき本、さらには彼が作っただろう護符を接収した。


 グリーンドラゴンの卵だけは自分で預かっておこうと、こっそり懐に忍びこませた。ノッブに渡してはマジでとんでもないことになってしまう恐れがあった。


「ヨッシーく~~~ん? 何か隠しました?」

「な、何も隠しておらんのじゃ!」

「ミッチー。先ほどのドラゴンの卵はどうなりました?」

「ヨッシー様が懐に入れましたでござる」

「ミッチー、おのれーーー!」


"さすがミッチー。めざとい"

"ミッチーは京都守護をノッブに任せられたくらいだからな。有能なんだぜ?"

"ミッチーなんでお前、ノッブを裏切ったんや……"

"本能寺の変の真相プリーズ"


「ふふっ。ストレスで禿げたからでござる!」

「ひっどいー、ミッチー。そんな理由で先生に謀反を起こしたんですか?」

「今生では裏切るつもりはございませぬ。つるっぱげになるまでは……ね?」

「その言葉、信じさせてもらいますよ?」

「もちろんでござる」


 前世の本能寺の変のことをこんなにもあっけらかんに話し合っているノッブたちはすごいと思ってしまう。未だに自分はノッブに対して、うしろめたさを持っている。


 ミッチーとノッブは前世のしがらみを越えた仲になっている。自分もノッブと真の意味で仲直りしたいと思ってしまう。


 そう思っていると、ノッブがこちらにウインクしてきた。不覚にもトゥンクと胸が高鳴ってしまった。


「先生のヨッシー。いつでも先生の腕の中に包まれてください」

「うっさいわ! ノッブ殿に抱かれる気はちっともないのでおじゃる!」

「つれないですね……」

「くぅ! 捨てられた犬のようなオーラを出すでないでおじゃる!」

「ふっ。押してダメなら引いてみろってやつですよ!」

「こやつーーー! 時代が時代なら打ち首にしてやるのにでおじゃるー!」


 ノッブにおもちゃにされてしまう。戦国時代の時と変わらない、このノッブという男は。「くっ!」と唸りながら、ノッブに背中を向ける。


 ノッブを見なくても彼が「やれやれ……」と肩をすくめている姿が想像できる。


 なにはともあれ、グリーンドラゴンの卵はヨッシーが預かることになった。ノッブの追及は気持ち悪いくらいにぴたりと止まった。


 うすら寒さを覚えながらも、ヨッシーは悪い魔法使いの住処を後にする。


◆ ◆ ◆


 悪い魔法使いを倒した後、ヨッシーたちは再び街の入り口へとやってくる。1日目の探索はこれで終わりだ。


(本当に長い1日だったでおじゃる……)


 酒場に寄ると酒場のマスターがニコニコ笑顔だった。カウンターにクエストの報酬品を並べてくれている。


「じゃあ、これで帰るでおじゃる」

「うん。明日も来てくれるんでしょ?」

「来るしかないでおじゃるー! 本当はもう嫌でおじゃるー!」

「明日はもっとすごいダンジョンとクエストを用意しておくわっ!」

「この駄女神! おぬしがやる気を出すと、危険な香りしかしないでおじゃる!」

「死なないギリギリのところを攻めるわっ!」

「もうええわ!」


 女神に見送られながらノッブが開いてくれたゲートをくぐる。なんともまあ、ノッブの適応力や順応力は素直にすごいと感心してしまう。


 ダンジョン内は現実世界とは違って、魔法と呼ばれる奇術を使える人間もいる。そのひとりがノッブだった。


 ノッブの凄いところは、彼は魔法を使う練習をほとんどしていないことにある。それなのに、難易度SSダンジョンで魔法を使って暴れまわってみせた。


 さらには高難易度すぎると言われたゲート魔法も自在に操っている。うらやましさを通り越して、悔しさが心の奥底から滲み上がってくる。


 こちらの気持ちに気づいたのか、ノッブが振り向いてきた。


「ヨッシー。本当にJC姿のままなのですね。ヨッシーは心細いでしょうが、先生がついていますよ」

「ノッブ殿……」

「先生を頼るんだぞ☆彡」

「うっさいわい!」


 ノッブの尻をゲシっと蹴飛ばした。あちらの世界ではグラサンちょんまげ男エルフだったのに、こちらの世界に戻るなり、いつものグラサンちょんまげ国会議員の姿に戻った。


 ミッチーはスキンヘッドドワーフ姿から、前髪が寂しい国会議員の姿に戻った。


「うきー。サルからヒトの姿に戻れました」

「秀吉くん……いまいち戻りきれてませんよ?」

「うわ……顔がサルのままです」


 ノッブが秀吉に手鏡を渡している。どこをどうツッコめばいいのかわかない。猿面冠者なだけだ、秀吉は元々が。


(絶対にツッコまないでおじゃる!)


 ノッブたちを無視する形で首相公邸へと戻る。あっちの世界はまだ昼だったのに対して、こっちの世界はすっかり辺りが暗くなってしまっていた。


 身体が疲れ切っていることもあり、この後の官邸記者会見は京極高吉官房長官に任せておく。彼は戦国時代に細川藤孝と一緒に自分を将軍職に就けるために尽力してくれた男だ。


 京極高吉は信頼できる男だ。変なことを口走ることは無いだろうという絶対的な信頼があった。


 だが、その男がこちらの信頼を裏切る発言をかました。彼にとっては自分をフォローしているつもりだったのだろう。


「えーーー。総理は女性を産む機械だとは言っておりません。ただ単純に嫁とセックスしたいだけの発言だったかと」

「しかし国民からはおおいに反発されるでしょう!」

「総理はすけべなだけです。セックスレスを解消したいのです。3人目発言はその延長です」

「国民は納得しませんよ!」

「総理が納得すればいいのである!」


 あまりにも口が悪い京極官房長官だった。総理を呼べ! というマスコミの怒号が飛び交った。


 ヨッシーたちは別室で遅めの夕食を取りつつ、モニターに注目していた。マスコミ対応に追われる京極官房長官をノッブがゲラゲラと笑っている。


「いやあ、ひどい官房長官会見ですね?」

「セックスレス、セックスレス連呼するでないでおじゃる! プライベートのことでおじゃるよ!」

「まあまあ。ヨッシーの大失言をフォローしようとしてくれているだけ、マシじゃないですか?」

「ノッブ殿を官房長官に指名したかったでおじゃる……」

「いやでーーーす。織田焼討党まで、ヨッシーの失策に巻き込まれるじゃないですかー!」

「この畜生がー!」


 ヨッシーが総理大臣の座に就いたのはノッブの尽力あってこそのことだった。しかし、ノッブは足利政権の重要なポストを欲しがらなかった。


 それでは感謝の意を伝えられないと何かのポストに就いてもらおうとした。ノッブは代わりに副将軍という名誉だけのポストを欲した。


 それで満足してしまったのが、ヨッシーの一番の失策であった……。


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