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出番奪われポンコツ将軍

第20話:二日目開始

 現代ダンジョン。突如として世界中に出現した。


 吹雪を吐くワイバーンが城を襲う。海で人魚が唄を歌って船乗りを魅了する。大量発生したゴブリンが集落を襲う。


 それらの大小さまざまなモンスターたちが金銀財宝を隠し持っていると言われた。


 そんな危険な地であるというのに世界中の若者たちはダンジョンに我先へと足を踏み入れた。


 数多くあるダンジョンのひとつに姫武者姿のツインテールJC、アフロシャツ・ビーサン・グラサン・ちょんまげの男エルフ、ゴリマッチョ・スキンヘッド・男ドワーフ、そしてサルが侵入した。


 こいつらの目的はダンジョン配信で内閣支持率を回復させることであった。ダンジョンを冒涜しているといってよい。


 不届き者たちのダンジョン探索二日目が今まさに始まろうとしていた。そんな彼らに向かって、ダンジョンからの手厚い歓迎がなされた。


「ちょおま! なんで昨日倒したガーゴイルが復活して襲ってきているでおじゃる!」

「なんでだろー? よーくかんがえよー? AC~♪」

「ノッブ! 思考停止するのはやめるのじゃ!」

「ふっ……こういうこともあろうかと、ジャベリンを持ってきて正解でござったなっ!」

「ミッチー! それ1発4000万円でおじゃる! ガーゴイルに食らわせたらもったいないでおじゃるよ!?」

「30年度予備費5000億円のうちのたった4000万円でござる。ファイヤーーー!」


"ジャベリンは光学照準で、さらには熱感知もできて、ヘリや爆撃機も落とせちゃうぞ☆彡"

"陸上自衛隊では【01式軽対戦車誘導弾】てのがジャベリンに相当するんだぜ"

"ヒトに向かって撃つには高価すぎるから、なるべく兵器に当てろって言われてるやーつ"

"解説さんきゅっ、名無しのひと"

"つか1発4000万円をガーゴイルにぶっ放すってどうなの?"

"[¥30000]俺たちの血税ガー!"

"[¥50000]戦争反対! 改憲反対! 第9条絶対に守れ!"

"なんか今日は相手するのも面倒くさい手合いがいるな?"

"赤スパチャの無駄遣い"

"[¥60000]夏の参議院選挙には憲法絶対守る党に清き一票を!"


 配信開始直後から高額スパチャが飛び交っていた。賑やかなのは好ましいが、一般国民にエンタメを与える目的も含んだ配信だ。


 過剰な政治的発言にはブロックで対応してもらうことにした。その甲斐もあって、政治活動のコメントが一気に減った。


 なにはともあれ、3体のガーゴイルはミッチーが放ったジャベリン3発によって、粉々になった。


 これで予備費が1億2千万円も消えてしまった。


「ミッチー……ロケットランチャーは1発数百万円じゃったよね?」

「おや? ヨッシー様にしてはお詳しい。さては昨日の一件で勉強なさったのでござるな?」

「うむ。ダンジョン配信用に予備費から10億円を割り当てておる。しかし、その1割をおぬし……」

「いやあ、すっきりしたでござる!」

「なんの反省もしてないでいやがるでおじゃるー!」


"安定の非常識枠ミッチー"

"さすが俺たちのミッチー。配信開始からやってくれるぜ"

"てか、政府主体のダンジョン調査で予備費が10億円しか充てられないって、その方がおかしくね?"

"野党第一党がダンジョン調査のために補正予算を組むとはナニゴトダー! って連日大暴れしたのをもう忘れてるやつがいる(´・ω・`)"

"ガハハ! 誰が何に反対したとか誰も覚えてねーYO"


 コメント欄には国民の政治への無関心ぷりが如実に現れていた。このような世の中になったのは果たして誰のせいなのか?


「誰のせいでもありません」

「ノッブ殿……きっぱりと言い切ったでおじゃるな?」

「そりゃそうです。戦国時代からこの国の民衆は税の軽き重きくらいしか興味がないんですから」

「あと兵役や労役の重さでござるな。この辺りのバランスを欠いた守護大名が戦国大名に取って代わられたでござる」

「うきー。うききー、うきー」


 サルも何やら含蓄ある言葉を言っているのであろう。だが、サル語を理解できる者はここにはいなかった。


 残念ながらサルの言いたいことは伝わってこなかった。


「はい。今日の入場試験、無事、突破できたみたいね? お帰りなさーい♪」

「駄女神がやってきたでおじゃる……」


 女神がにこやかにこちらへと両腕を広げてくれていた。さあ、この胸に飛び込んでいらっしゃいというポーズを取っていたが、それに反応したのはサルだけであった。


 サルが女神のおっぱいをドレスの上から揉みしだいている。女神が「あん♪ いや~ん♪」と熱い吐息を漏らしているが聞こえないふりをする。


「よしよし、可愛いおサルさん。わたくし、皆が帰った後、寂しくて涙で枕を濡らしちゃった……」

「いけしゃあしゃあと嘘を言えるでおじゃるな!?」

「ばれたー? 昨夜はぐっすり寝たわよ! 寝不足はお肌の大敵だもん!」

「こやつっ!」

「どうどう……ヨッシーくん。せっかくのツインテールJC姿がもったいないですよ?」


 ノッブにたしなめられた。それでも「ぐぅ!」と唸ってしまった。しかしながら、このまま女神のペースに乗せられっぱなしなのはもっと悪い。


 すーはーと呼吸を整え、さらにはいつもの平静さを取り戻す。女神がうんうん♪ と頷いてきた。


「それじゃ、こちらをご覧くださいー♪」


 女神がタッチパッドを操作する。すると、そのタッチパッドから上空へと光が放たれた。スクリーンが展開される。


 それは周辺マップだった。街の西側の森林地帯に大きな赤いバツ印がつけられていた。


「説明不要だと思うけど……ここの森林地帯が昨日ヨッシーたちが攻略した場所ね」

「ふむ。んで、今日はどこのバグ取りなのじゃ?」

「うーん? 前のめりなのは嬉しいけど……わたくしが場所を選ぶわけじゃないわよ? だって、ここはオープンワールド式ダンジョンだもん♪」

「あっ。クエストをまずは受けなくていけないわけじゃな?」

「そういうことっ。さあ、さっそく街の酒場に向かいましょ?」


 女神に促されて入り口から街へと移動を開始する。まずはロケバスに乗り込んだ。装甲車っぽい輸送車はまだ使わない。


 移動中、暇なので配信コメントをモニターでチェックする。


"オープンワールド式って、いちいちクエストを受けないとダメなのか"

"その点、竪穴式ダンジョンだと潜るだけだが……"

"地下深く潜るのは簡単だけど……地上に戻るまで大変なんだぜ?"

"各地の行政がエレベーター敷設を急いでいるけど、まだまだ浅い階層までだもんな"

"【悲報】山梨県在住の俺。金脈を掘り当てろって山梨県知事に言われる"

"おう、それはどんまい"

"【悲報】鳥取県在住の俺、砂以外を掘り当てろって言われてる(´・ω・`)"

"ワロタ"

"鳥取県のダンジョンに逆に潜り込んでみたくなっちまうw"

"ちなみに京都は三十三重の塔攻略だっぞい"

"それはそれで迷子になりそうだな?"


 各地のダンジョンはバリエーションに富んでいた。ヨッシーたちが挑んでいるのはオープンワールド形式だ。


 こちら側の世界のゲームマスターという存在が何を意図して、そのような色々なダンジョンを用意してくれたかはわからない。


 わからないからこそ、政府主体で調査を行うことになった。


 ロケバス内の設備のひとつにカラオケの機械があった。女神とノッブがただいまデュエット曲を熱唱中である。


 このポンコツ女神に色々と聞きたいことがあったが、その時間すら与える気は向こうにはなさそうだった。


 ミッチー運転のロケバスがいつものようにゴブリンを轢き殺しながら、街の入り口へと到着する。ぞろぞろと列を為してロケバスから降りる。


 別のロケバスも今回は街までやってきていた。マスコミたちの一部は街の様子もカメラに収めたいようだった。


 彼らのようなロケハン目的の者たちは放置して、自分たちは酒場へとやってくる。酒場のマスターがにっこりとほほ笑んできた。


「さて、今日はどの地区のバグ取りをしてくれるんだい?」

「バグ取りではないでおじゃる! ダンジョン探索でおじゃる!」

「おっと、これは失礼。代わりにこちらを……」


 酒場のマスターがこちらに大きめのカードを2枚渡してきた。ヨッシーはそれを手に取り、カードに書かれているものを見る。


「ふむ。鉱山っぽい絵のカード。もう1枚は塔のカードでおじゃる」


 女神の方へと視線を向ける。どちらを選ぶのが正解なのかと聞きたくなってしまう。しかし、女神がニッコリとほほ笑んできた。


「どっちでもいいわー。わたくしはあなたたちに各地に出向いてもらえればいいだけ。わたくしはついていく。ただそれだけよ」

「うーむ、あくまでもナビゲーターと言うことかえ? どうせなら、もっと戦闘時に役に立ってほしいのじゃが?」

「一応、あなたたちのパラメーターをその都度、いじってるわよ? じゃなきゃ、昨日の時点で全滅してるわ」

「え?」


"さらっと恐ろしいこと言ったぞ、この駄女神"

"お、おう。さすがはゲームマスター"

"ヨッシーたちが難易度SSダンジョンをさくさく攻略してるから、勘違いしてたぜ"

"そんな裏設定があったとはな?"

"ヨッシー逃げてー(´・ω・`)"

"ヨッシーは逃げ出した!"

"しかし回り込まれた!"

"ダンジョン「知っているか? 難易度SSダンジョンからは逃げられない」"

"ヨッシー「ソンナー」"


 なんとも賑やかなコメント欄だ。しかし、そちらに注目している余裕は今のヨッシーにはなかった。


「改めて言うけど……わたくしこれでも気を使ってるの」

「ごくり……それは生かさず殺さずと言ったところかえ?」

「ちがう、ちがう! ダンジョンを心から楽しんでほしいから♪」

「あっはい。なるべく楽しませてもらうのじゃ」


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