なんともあっけらかんと言ってくれる女神だ。こちらは仕事でダンジョン調査にやってきて、そのついでにダンジョン配信で内閣支持率UPを狙っている汚い政治家だ。
その気になれば、この駄女神は自分たちをダンジョンから排除する動きを見せてくるかもしれない。
「ん? どうしたの? そんなに眉間に皺を寄せて」
「う……ぐ。ダンジョン配信については何か言いたいことがありそうだな~って」
「ん? やりたければやればいいじゃない♪ ヨッシーの活躍を全国のお茶の間に届けてね♪」
どうにも女神の意図していることがわからない。そうだと言うのに女神がさらにヨッシーに一言、付け加えてきた。
本来ならあなたたちの世界の武器の類をこちら側に持ってくることも出来ないと言ってきた……。
ヨッシーは驚きを隠せなかった。女神が再度、ここは難易度SSのダンジョンだと言ってきた。
「じゃあ……ノッブやミッチーが危険な代物をこっちの世界に持ってきているのは?」
「それはノッブたちにそう出来るチート付与をしてるだけ♪」
「あくまでもお試しでダンジョンを遊ばせてもらえてるというわけなのじゃな?」
「そういうことー。難易度SSだもん。本番では簡単に攻略させる気なんてないわよ?」
"ヨッシーたちは特例だったのかー"
"いくら、女神に渡したん?"
"ほら、ヨッシー、素直に吐けよ!"
「ふふっ。ヨッシーは関わってません。先生が女神に黄金色のお菓子を献上しました」
「その節はありがとうね? ノッブ」
"あっヨッシーじゃなくて、ノッブが黒幕だった(´・ω・`)"
"ノッブ、出来る子"
"でもこれは暗黒面のノッブ"
"俺もダンジョンに潜る時にはそこのゲームマスターに黄金色のお菓子を渡そうかな……"
"鳥取砂丘の砂を瓶詰したものでもいいのかしら?"
"そんなの掃いて捨てるほどあるだろwww"
"普通に銘菓でも送っとけ"
"【悲報】鳥取県に銘菓なんて自慢できるほどのものがない"
"ど、どんまい……"
"鳥取のイオンならきっと……きっと何か銘菓を置いてくれてる……はず?"
ノッブが女神といつの間にか裏取引をしてくれていた。戦国時代の時にも、ノッブは贈り物の達人だった。
その手腕を現代でも、さらには現代ダンジョンのゲームマスター相手にもやってみせた。ヨッシーはノッブとの違いに「ぐぬぬ……」と唸るしかなかった。
そんな自分をこともあろうにノッブが宥めてくれた。悔しくて涙が出ちゃう。女の子だもん!
ノッブのおかげで落ち着きを取り戻せた。この際だから、1番聞いておきたい疑問を女神にぶつけておく。
「ダンジョンと現実世界はゲートで行き来できるのじゃ。ゲートを使えば、ダンジョン内のアイテムも現実世界に持ち帰れるのじゃ」
「うん。言いたいことはわかるわよ。モンスターはどうなのか? って話よね?」
「その通りじゃ。そなたたちゲームマスターと名乗る存在が世界各地でダンジョンを作ったのじゃ。このダンジョン内のモンスターが外の世界にそのまま出てきてもらっては困るのじゃ」
「そこはゲームマスターごとの思惑じゃない? わたくしが担当している分に関しては現実世界への侵略を行うつもりは今のところ……無いわよ」
「今のところ……でおじゃるか」
「そうよ。わたくしも生きてるもの。この地で。その権利を侵害するのであれば……戦争よ♪」
"この女神を駄女神だって言ったやつ誰だ?(´・ω・`)"
"策士でおじゃる"
"裏を返せば、ただでダンジョンを利用させてやる気はないってことだろ?"
"win-winになれる関係を向こうも望んでるってことぉ?"
"その辺、ヨッシーはしっかり調査してくれよー"
"ヨッシーに期待"
"地方の若者のためにイオン以外の遊び場の確保よろしくー"
"鳥取砂丘だけってつらすぎるんご"
"鳥取砂丘って、遊び場に入る……のか?"
コメント欄は自分の味方になってくれる者が多かった。しかしながら、自分はしょせん内閣支持率6%しかない総理大臣だ。
ちょっとした失敗で、その6%が全て吹き飛んでしまう可能性が捨てきれない。
(せめて10%ほどあれば……多少の無茶もできるのでおじゃるが)
(そうですね。マージンがないのはきついですよね?(にっこり))
(ノッブ殿。そう思うのであれば、ミッチーの暴走を止めるでおじゃる!)
(えーーー? 先生のせいにされても困りますけどぉ!?)
ミッチーは織田焼討党の3役のひとりだ。ならば、ミッチーをコントロールするのはノッブの仕事のはずだ。
だが、ノッブはミッチーの暴走すらも楽しむべきだと言ってきた……。
ミッチー対策は別でやるとして、女神の方へと再び注目する。女神がキョトンと首を傾げている。
この女神は日本国のやんごとなき御方に会った。そこで何かしらの取り交わしをしたと推測される。しかし、その内容の全部をヨッシーは知らない。
「ふんっ! 気に食わないことばかりじゃが、本日もダンジョン探索させってもらうでおじゃる!」
「はーーーい。ぜひ、楽しんでいってねー?」
女神は終始ふてぶてしかった。だが、女神のことはさておいて、ヨッシーはわくわくしていた。
誰も探索したこともない未踏の地に自分たちは足を踏み入れた。何もかもが新鮮な体験だった。
◆ ◆ ◆
女神の視線に誘導されて、酒場のマスターに手渡された2枚のカードを見る。まずは鉱山が描かれたカードの説明を受けた。
このクエストは鉱山の奥から湧き出したモンスターを排除してほしいとのことであった。
「ゲームでよくある掘り進めてたらモンスターの巣とかちあたったってやつですね」
「さすがノッブね。よくわかってるじゃない♪」
「ふふふ……伊達に年間100本ゲームをしてませんからっ!」
「おぬし! まがりなりにも政治家じゃろ!? 一体、いつゲームをしておるのじゃ!?」
「もちろん国会中です。いやあ、あの質疑応答って出来レースじゃないですか」
「TVカメラの前でなんて発言をしているでおじゃる!」
ノッブはカメラがこちらを向いているのもかまわずに国会の質疑応答の成り立ちを説明しだす。
ヨッシーは胃がきりきりしてしまう。
実際のところ、野党からこういう質問をする予定なので、ちゃんと回答を準備しておいてくださいと言われる。
質問に関して官僚がチェックし、回答についても官僚がチェックしている。それが霞が関のルールだ。
もっと言ってしまえば、そうでもしなければ国会に無駄に時間を取られてしまう。あの時間自体が実のところ7割ほど無駄なのだ。
ただの国民向けのパフォーマンスの場なのである。
それを嫌う一部の野党が霞が関のルールを破っているだけだ。
そして、そのしわ寄せを食らうのが官僚だ。まさに労力の無駄遣い。
何のためにこんなことやってんだろ? と思いつつも、誰にもどうにもできないという負のスパイラルを起こしてしまっている。
"ノッブの解説はわかりやすいなー"
"官僚が悪なのか、それともその官僚をこき使う政治家が悪なのか?"
"んまあ官僚ってローマ時代やギリシャ時代からいたからな?"
"うまく付き合うことが肝要ってところか"
"そういうこと。あるものを上手く使うのがミソ"
"勉強になる良スレはこちらですか?"
コメント欄が賑わってくれるのはありがたい。満足したノッブがようやくマスコミ向けの顔を止める。
今からゲームに挑むという童心溢れる顔になっていた。彼の顔を見ていると、複雑な気分になってしまうが、女神からの「楽しんで♪」という言葉を思い出す。
「はぁ~~~」と息を吐き、肩の力を抜く。今は自由な時間だ。自分も精一杯、このダンジョン探索を楽しむことにした。
もちろん、そうでありながらもダンジョン配信で支持率回復させる目的も心の片隅にしっかりと置いておく。
「坑道探索となると、お決まりの崩落イベントとかあるんでしょうかね?」
「不吉なことを言うのはやめるのでおじゃる」
「ふふっ。ヨッシーは先生に離れないようにしてくださいね?」
「ノッブ殿とふたりっきりとか、貞操の危機でおじゃるー!」
なるべくミッチーの方に寄っておくべきかと考えた。ミッチーは酒場のカウンター席でコルトパイソン357マグナムを分解し、それを丁寧に組み立て直していた……。
「何をやっているでおじゃる?」
「……? 坑道ダンジョンに向かうのでござる。武器の手入れは当然でござるが?」
「頼もしい……? いや、おぬし。TVカメラが回っているでおじゃるよ!?」
「カメラマンさん。もっと近づいて撮影していいでござる。これが本物の銃でござる」
「カメラを止めるのじゃ! テロリストに利用されるのじゃーーー!」
「チッ。何をそんなに神経質に。今の時代、国立図書館で調べれば、小学生でも銃の組み立てくらいわかるでござる」
「ほんと、便利すぎる世の中でおじゃるー!」
準備は整った。ミッチーが歩くたびにガチャコンガチャコンと音を鳴らしているが、そっちには目を向けない。
ここからは山道に向かうことになる。悪路でも走破性の高い装甲車っぽい8輪式の輸送車に乗り込んだ。
「ふっ……ごぶりん、ごぶりん、ごぶりん。道を開けろでござる!」
「ミッチー。もう少し安全運転を」
ノッブが珍しくミッチーに注文をつけている。鬼のかく乱か? と思うと、ノッブがエチケット袋を取り出した……。
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現在、エロエロエロ……すぎる放送事故が起きました。
代わりにキレイなお花畑をご覧ください。
提供:日本放送協会
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