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第22話:鉱山ダンジョン(1)

 装甲車のわけがない8輪輸送車が鉱山の入り口に到着する。顔色が悪いまま、ノッブが一番先に輸送車から降りる。


「うぐぁ! 新鮮な山の空気を吸おうとしたら、これまた気持ちの悪い空気です! 先生はここで死んでしまうのですか!?」

「ノッブ殿。いちいち騒がしいでおじゃるな。その程度でそなたが死んでくれるなら、わっちも苦労していないでおじゃる」

「失礼な言い方です。でも、このまとわりつくような空気……これはいったい?」


 ノッブが不可思議そうにきょろきょろと周りを見ている。自分もノッブに釣られて、鉱山の周りに目を向ける。


 鉱山らしく、山自体が禿げ山だ。今のミッチーの頭みたいになっている。


「今、大変失礼なことを連想したでござるな?」

「な、何も思ってないでおじゃる! それよりも……ミッチーも顔色が少し悪いでおじゃるよ?」

「どうにも……空気自体が重いでござる。もしかしたら、鉱山からガスが噴き出しているのかも? とりあえず、ガスマスクを装着するでござる」


 ミッチーがどこからともなくガスマスクを取り出し、ノッブとこちらに手渡してきた。それをすぐに顔へと装着する。


 シュコーシュコーと呼吸音を鳴らしつつ、呼吸が苦しくないか、各々で確認した。しかし、ガスマスクをしていても、肺に巡ってくる空気が重くて仕方がない。


 ここにきて、ようやく女神が種明かしをしてくれた。


「これはいわゆる魔素ってやつ。ガスマスクでどうにかできる類じゃないわよ」

「ミッチーの親切が一瞬で無駄になったでおじゃる!」


 ガスマスクを外して、パーンと地面に叩きつける。ミッチーが何か言いたげな顔をしているが、彼は何も言わずにガスマスクをどこかへと片付けてしまった。


 女神による魔素解説が始まった。


「どこのダンジョンでもそうなんだけど……空気中には魔素というエレメンタルが漂っているの。魔素は魔法の元になるわ。才能があるヒトはそれで魔法を使えるようになるってわけ」


"なるほどね……そういう適正があるかないかでダンジョン内で魔法が使えるか決まるのか"

"てか、なんか魔素って嫌な響きだな?"

"身体に悪影響を及ぼしそう"

"でも、ヨッシーたちは今までぴんぴんしてたぞ?"


 コメント欄が賑わっている。皆も聞いたことがない【魔素】という言葉に疑問を投げかけていた。


 女神が「ふふん♪」と鼻を高くしている。こういう時ほど、この女神はとんでもないことを言ってくる前兆であった。


 ヨッシーは身構える。


「ちなみに魔素はあなたたちの世界でいう毒素と似ているわ♪」

「過剰摂取すると死ぬ……ということかえ?」

「ぴんぽ~ん♪ 大正解! ヨッシー、やるわね!」

「ミッチー! ガスマスクを寄こせでおじゃる!」

「さっきも言った通り、ガスマスクは役に立たないわよ? 皮膚からでも吸収しちゃうも~~~ん♪」


"この駄女神、くっそ楽しそうだぞ?"

"とんでもない罠を張り巡らせてやがったな?"

"ヨッシーが元気にツッコミを入れてる感じ、ヨッシーたちはまだ魔素が薄いところにいるのかな?"

"さあ、どうだろうか? この駄女神のことだから……"


 コメント欄がざわついている。それに合わせて、ヨッシーも嫌な予感がして堪らない。そうであるというのに女神はあっけらかんとした表情だ。


 もしかすると、魔素というのはこちらが思うほどには身体に悪影響を及ぼさないのかもしれない。


「ちなみに……ヨッシーたちには魔素耐性をわたくしが付与してるわ。そうじゃなきゃ、昨日の森林地帯に足を踏み入れた時点で、多すぎる魔素で死んでたわよ♪」


"こいつ、やっぱり駄女神だー!"

"ちょまてよ! ヨッシーたちは悪い魔法使いを倒して、さらに呑気に魔法使いの住処を探ってたけど……"

"通常ならとっくに死んでるレベルの魔素の中で活動してたってことぉーーー!?"

"【悲報】ヨッシー、すでに死んでいた"

"まだだ。まだ生きてるよ、ヨッシーは!"

"おっと……それは失礼"

"しかしさすがは難易度SSダンジョンだな……"

"おう……プレイヤーを殺す気満々すぎるぜ"


 女神はとんでもないことを隠していた。怖気が体中に走ってしまう。そんな自分を後ろから抱きしめてくれる人物がいた。


「先生のヨッシー。怖がらなくていいですよ?」

「ノッブ殿……てか、油断も隙もないでおじゃるな!?」

「おっと。突き飛ばさないでくださいよ~~~。つれないですね?」

「吊り橋効果ってやつで、ノッブ殿に思わず惚れかけたでおじゃる!」

「ふふっ……もう一押し……でしたね?」

「黙っておりゃれ!」


 ノッブにツッコミを入れていると、異様に自分の鼓動に意識を持っていかれてしまう。ドキドキするこの思い自体が女神が言う魔素の影響なのかもしれない。


「少しは難易度SSダンジョンの恐ろしさを理解してもらえた?」

「うむ。わっちらを陰ながら守ってくれていることに感謝しとくでおじゃる、一応なっ! それにしても……その魔素耐性とやらでも気持ち悪さを感じるのは何故でおじゃる?」

「バグよ!」


"バグかー!"

"バグじゃしょうがないよなー!"

"てか、真にバグってるのこの駄女神の頭だろ"

"おっといけない、それ以上は消されるぞ?"

"マジか……"

"謝っとけ? 今のうちに"

"[¥5000]キレイな女神様、素敵です!

"[¥3000]俺が潜るダンジョンにはバグは配置しないでください、この通り……"


 女神がモニターを見ながらニッコリとほほ笑んでいる。ゲームマスターという存在を改めて恐ろしく感じてしまう。


 女神がちょんとモニターに人差し指を当てた後、こちらへと振り向いてきた。こちらは頬を引きつらせてしまう。


「改めて言うけど、バグよっ!」

「改めて言うことかーーーい!」

「ちゃんと聞いて? 本来ならここの鉱山の魔素濃度は昨日の森林ダンジョンと同程度なの。でも……モンスターの巣と繋がったことで不具合が起きちゃったみた~い♪」

「なんとも朗らかに言ってくれるものじゃ……もうツッコミを入れぬからな?」

「ちなみに放っておくと、街までこの魔素が流れこんでくるわ! 住民はばったばったと倒れるでしょうね!」

「ちょおま! どうやってもツッコミさせようとしてくるでおじゃるな!?」


 なんとも困った女神である。可愛らしく舌をちょろんと出していやがる、この女神。


 なにはともあれ、バグを排除する必要がある。ヨッシーはいやいやながらも鉱山の中へと足を踏み入れる。


 ヌルっとした感触を足首に感じた。嫌な予感がぞわぞわと足元から湧き上がってくる。しかし、女神が観光ガイドのように鉱山内の様子を説明してきた。


「こちらに見えますのがクリスタルでございまーす」


"RPGのダンジョンみたいな幻想的な雰囲気だな?"

"いや、見た目の美しさに騙されるんじゃない。これも何かの罠なはずだ!"

"お前ら、警戒しすぎじゃね?"

"んだんだ。いくらここが難易度SSダンジョンだからって言っても……ね?"


 視聴者も女神に懐疑的であった。それもそうだろう。次々ともたらされる新情報に頭がついてこないといった感じなのだろう。


 視聴者がそうであれば、当事者の自分たちはもっと女神に対して警戒心を強めていた。幻想的な風景が続く鉱山内を黙って進むことになった。


「こっちが紫水晶で、あっちが翠水晶よっ! 記念に持ち帰る?」

「うむ……水晶はあまり嬉しくないでおじゃる」

「あれ? こんなにキレイなのに?」

「どうせなら金や銀、それにダイヤモンドのほうが嬉しいでおじゃる」

「そう……なんだ。じゃあ、えいっ♪」


 女神が人差し指で水晶をちょんと触る。すると、水晶の塊に変化が起きた……。なんと、見る見るうちにただの水晶が金塊に変わってしまったではないか。


 しかもその金塊を両手でバコッと抜き取り、こちらへと手渡してきた。ひくひくと頬が引きつってしまった。


「これでどう?」

「ノッブ殿。常識がバグりまくりでおじゃる~~~」

「いや、こればかりは先生も腰を抜かしそうですね。スイカサイズの金塊とか見たこともありませんよ……」


 ノッブに泣きついたが、ノッブも困惑している。そうであるのにミッチーがこちらへそれを寄こせという仕草を取ってきた。


「ミッチー……これを預かってもらえるかえ?」

「はい、ヨッシー様。これが本当に金そのものであるなら、とんでもないことになるでござる」


 ミッチーが軍手を嵌めて、金塊を受け取ってくれた。ノッブがゲートを開ける。ミッチーがゲートを潜って、金塊を元の世界へと運び出してしまった。


 そして、3分後、ミッチーが戻ってきて、こう言ってきた。


「簡単な検査をしてもらった結果、マジで金の塊でござった」

「あばば……」

「これ……放送事故ですね。あはは……」


"どうしたん、ノッブ?"

"おい、この現象のやばさに気付いてないやつがいるぞ?"

"おう……これ、一歩間違えれば、戦争の発端になるよな?"

"あのレベルのでかさの金塊をほいほいと取れるようになったら、世界経済なんか簡単に壊れる……"

"この駄女神、封印したほうがよくね?(´・ω・`)"

"ヨッシー、世界を救ってくれー(´・ω・`)"


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